代数方程式論

提供: testwiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:Pathnav この項目では、有理数係数の1変数代数方程式、すなわち有理数a0,a1,,an (an0)を用いて

anxn+an1xn1++a0=0

の形に表される方程式の解法について述べる。この方程式は、両辺をanで割ることで、

xn+an1xn1++a0=0

という形で表すことができるので、以降はこの方程式の解法について述べる。

一次方程式

一次方程式

x+a0=0

は移項により解くことができ、その解は

x=a0

である。


方程式

x+2=0

の解は、

x=2

である。

二次方程式

二次方程式

x2+a1x+a0=0

は以下のように平方完成を用いて解くことができる。

(x+a12)2=a124a04
x+a12=±a124a02
x=a1±a124a02


方程式

x2+2x+3=0

の解は、

x=2±82=1±2i

である。


方程式

x2+3x+2=0

の解は、

x=3±12=1,2

である。

このように、二次方程式は先ほど求めた解の公式によって解くことができるが、因数分解が簡単にできる場合に解の公式を用いるとかえって計算が煩雑になる。

一次方程式の場合とは異なり、二次方程式は係数が実数であっても虚数解しか持たない場合もある。このことは、人類が初めて虚数を必要としたきっかけとしてしばしば言及されるが、歴史的にはこれは正しくない。虚数を知らない人は、虚数解しか持たない方程式はそもそも「解を持たない」ということにしてしまえば済むからである。代数方程式を研究していく中で虚数が決定的に必要とされたのは、次の三次方程式の解法が発見されてからであった。

三次方程式

三次方程式

x3+a2x2+a1x+a0=0

を考える。この方程式は、

(x+a23)3+(a1a223)(x+a23)+a013a1a2+227a23=0

と変形できる。

t=x+a23

とおく。また、

3uv=a1a223
u3+v3=a013a1a2+227a23

を満たす2数u,vが存在したとする。このとき方程式は、

t3+u3+v33tuv=0
(t+u+v)(t2+u2+v2tuuvvt)=0
(t+u+v)(t2(u+v)t+u2uv+v2)=0
t=uv,(u+v)±(uv)3i2=uv,ωuω2v,ω2uωv

と解くことができる(ただし、ω=1+3i2である)。よって、

x=ta23=uva23,ωuω2va23,ω2uωva23

である。

あとは、u,vを求めればよい。

u3v3=(a13+a229)3
u3+v3=a013a1a2+227a23

に注意すると、u3,v3は二次方程式

z2(a013a1a2+227a23)z+(a13+a229)3=0

の解である。これを解くと

z=a02a1a26+a2327±(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)3

となるので、

u=a02a1a26+a2327+(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33
v=a02a1a26+a2327(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33

とすればよい。すなわち、3つの解は

x1=a02a1a26+a2327+(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33a02a1a26+a2327(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33a23
x2=ωa02a1a26+a2327+(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33ω2a02a1a26+a2327(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33a23
x3=ω2a02a1a26+a2327+(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33ωa02a1a26+a2327(a02a1a26+a2327)2+(a13a229)33a23

である。


方程式

x3+2x2+3x+4=0

の解は、

x1=3527+1350729335271350729323=35+156335156323
x2=ω3527+13507293ω235271350729323=ω35+1563ω235156323
x3=ω23527+13507293ω35271350729323=ω235+1563ω35156323

である。


方程式

x315x4=0

の解は、

x1=2+121321213=2+11i3+211i3
x2=ω2+1213ω221213=ω2+11i3+ω2211i3
x3=ω22+1213ω21213=ω22+11i3+ω211i3

である。ここで、(2+i)3=2+11i,(2i)3=211iであることに注意すると、

x1=(2+i)+(2i)=4
x2=1+3i2(2+i)+13i2(2i)=23
x3=13i2(2+i)+1+3i2(2i)=2+3

である。

3次方程式でも、因数定理で容易に因数分解できるものに解の公式を利用すると、かえって計算が煩雑になる。のみならず、実数解しか持たない方程式では、それにもかかわらず計算の途中で虚数の計算を要することになる。解は実数なのに、途中では虚数が登場するというこの現象こそが、人類が初めて虚数を必要としたきっかけといわれる。

四次方程式

四次方程式

x4+a3x3+a2x2+a1x+a0=0

を考える。この方程式は、

(x+a34)4+(a23a328)(x+a34)2+(a1a2a32+a338)(x+a34)+a0a1a34+a2a32163a34256=0

と変形できる。

y=x+a34

とすると、

y4+(a23a328)y2+(a1a2a32+a338)y+a0a1a34+a2a32163a34256=0

である。この方程式の左辺を因数分解して、

(y2+ky+l)(y2ky+m)=0

としたい。左辺を展開すると

y4+(l+mk2)y2+k(ml)y+lm=0

となるので、係数を比較して

l+mk2=a23a328
k(ml)=a1a2a32+a338
lm=a0a1a34+a2a32163a34256

である。上の2式より

l=k22+8a23a32168a14a2a3+a3316k
m=k22+8a23a3216+8a14a2a3+a3316k

なので、これを3番目の式に代入すると、

k44+8a23a3216k2+(8a23a32)2256(8a14a2a3+a33)2256k2=a0a1a34+a2a32163a34256
k6+8a23a324k4+(4a0+a1a3+a22a2a32+316a34)k2(8a14a2a3+a33)264=0

となる。この方程式はk2についての3次方程式なので、前節の方法で解くことができ、したがってk,m,lの値が求まる。すなわち、方程式の左辺がyについての二次式の積の形に表せるので、二次方程式の解の公式を用いれば解が求まる。最後の計算の部分はこのまま文字式で計算すると煩雑に過ぎる式となるので、ここでは省略する(興味のある読者は試みるとよい)。注目すべきは、煩雑な式ではあるものの、四則演算と冪根(平方根・立方根)の記号のみからなる式となることである。

高次方程式

五次方程式では、これまでとは状況が大きく変わる。五次以上では、一般の方程式について、四次以下の方程式のような四則演算と冪根のみからなる解の公式を作ることはできないことが証明されているのである。その不可能性の証明には、ある程度の代数学の知見を必要とするので、詳細はガロア理論の項に譲る。

誤解のないように注意しておくが、五次以上の方程式であっても、解が存在しないわけではなく、ただ四則演算と冪根のみによって表すことができないというだけである。解は必ず存在し、しかもその個数は(重複度込みで)次数と一致することがわかっている。すなわち、次の定理が成り立つ。

定理(代数学の基本定理)
複素数係数のn次方程式

anxn+an1xn1++a0=0

は、(k重解をk個と数えることにすれば)ちょうどn個の複素数解を持つ。すなわち、左辺は(互いに相異なるとは限らない)n個の複素数α1,α2,,αnを用いて

an(xα1)(xα2)(xαn)

と因数分解できる。

この定理の証明には、複素数の集合の解析的性質が必要となる。ゆえに、証明は複素解析学#リウヴィルの定理の項に譲ることにする。

円分方程式

ここからは一般の方程式を離れて、

xn1=0

という形の方程式を解いてみたい。この方程式の解は、cn=cos2πn,sn=sin2πnとおくとき、zn=cn+isnという複素数を用いて、

x=znk (k=1,2,,n)

と表せることは高等学校数学C/複素数平面で学ぶ。本節では、具体的ないくつかのnにおいて一つの解znを、三角関数を用いずに平方根などの冪根の記号のみを用いて表すことを目標としてみよう。

次節以降でしばしば用いる共通の事項を2つ挙げておく。まず、znn=1である。また方程式の左辺は

xn1=(x1)(xn1+xn2++x+1)

と因数分解できる。このこととn2のときzn1であることに注意すると、

znn1+znn2++zn+1=0 (n2)

が成り立つ。

n≦4

n4のときは、これまでに見た解法を適用することですべての解が容易に求められる。

n=1のときの方程式 x1=0 の解は x=1 であり、z1=1である。つまり、c1=1,s1=0である。

n=2のときの方程式 x21=0 の解は x=±1 であり、z2=1である。つまり、c2=1,s2=0である。

n=3のときの方程式 x31=0 の解は x=1,1±3i2 であり、z3=1+3i2である。つまり、c3=12,s3=32である。

n=4のときの方程式 x41=0 の解は x=±1,±i であり、z4=iである。つまり、c4=0,s4=1である。

n=6,8

n=6,8の場合は因数分解を用いて解を求めることが容易である。

6次方程式

x61=0

の解z6について考えよう。方程式の左辺は

x61=(x31)(x3+1)=(x1)(x2+x+1)(x+1)(x2x+1)

と因数分解できるので、z6は実部も虚部も正であることに注意すると、2次方程式

x2x+1=0

の解のうち虚部が正のものがz6であることがわかる。すなわち、

z6=1+3i2

である。つまり、c6=12,s6=32である。

8次方程式

x81=0

の解z8について考えよう。方程式の左辺は

x81=(x41)(x4+1)=(x21)(x2+1)((x2+1)22x2)=(x1)(x+1)(x2+1)(x22x+1)(x2+2x+1)

と因数分解できるので、z8は実部も虚部も正であることに注意すると、2次方程式

x22x+1=0

の解のうち虚部が正のものがz8であることがわかる。すなわち、

z8=2+2i2

である。つまり、c8=22,s8=22である。

n=5

5次方程式

x51=0

の解z5について考えたい。ここでは、2種類の解法を用いてz5を求めてみよう。

  • 解法1
z54+z53+z52+z5+1=0

の両辺をz52(0)で割ると、

(z52+1z52)+(z5+1z5)+1=0
(z5+1z5)2+(z5+1z5)1=0

であるから、z5+1z5=2c5が正の実数であることに注意すると、2次方程式

t2+t1=0

の解のうち正のものがz5+1z5である。よって、

z5+1z5=1+52

であることがわかる。z5+1z5=2c5であるから、c5=1+54である。 ここで、z5+1z5=2c5の両辺に再びz5をかけて整理すると

z522c5z5+1=0

であるから、この2次方程式の解のうち虚部が正のものがz5である。よって、

z5=c5+1c52i=1+54+10+254i

である。つまり、s5=10+254である。

  • 解法2
A=z5+z54, B=z52+z53

とおく。計算すると、A+B=1,AB=1であることがわかる。よって、A,Bは2次方程式

t2+t1=0

の解である。この方程式を解き、符号に注意すると、

A=1+52

であることがわかる。ところで、z5+z54=Aであり、一方z5z54=1であるから、z5,z54は2次方程式

t2At+1=0

の解である。この方程式を解き、虚部の符号に注意すると、

z5=A+4A2i2

であることがわかる。特に、c5=A2=1+54である。 ここで、Aを解に持つ2次方程式に注目すると

A2+A1=0
4A2=4(1A)=A+3=5+52

であることがわかるので、これを代入して整理すると、

z5=1+54+10+254i

である。つまり、s5=10+254である。

以上の2つの解法は、より次数の高い方程式にも応用できる解法である。以下で、n=7,17の場合にそれぞれの解法を用いて、方程式を解いてみよう。

n=7

7次方程式

x71=0

の解z7について考えたい。ここではn=5のときに用いた解法1に沿って計算してみよう。

z76+z75+z74+z73+z72+z7+1=0

の両辺をz73(0)で割ると、

(z73+1z73)+(z72+1z72)+(z7+1z7)+1=0
(z7+1z7)3+(z7+1z7)22(z7+1z7)1=0

であるから、z7+1z7=2c7が正の実数であることに注意すると、3次方程式

t3+t22t1=0

の解のうち正の実数のものがz7+1z7である。よって、

z7+1z7=16(28(1+33i)3+28(133i)32)

であることがわかる。z7+1z7=2c7であるから、c7=112(28(1+33i)3+28(133i)32)である。 ここで、z7+1z7=2c7の両辺に再びz7をかけて整理すると

z722c7z7+1=0

であるから、この2次方程式の解のうち虚部が正のものがz7である。よって、

z7=c7+1c72i

ただし、c7=112(28(1+33i)3+28(133i)32)である。

n=17

17次方程式

x171=0

の解z17について考えたい。ここではn=5のときに用いた解法2に沿って計算してみよう。

A=z17+z172+z174+z178+z179+z1713+z1715+z1716,
B=z173+z175+z176+z177+z1710+z1711+z1712+z1714

とおく。計算すると、A+B=1,AB=4であることがわかる。よって、A,Bは2次方程式

t2+t4=0

の解である。この方程式を解き、符号に注意すると、

A=1+172, B=1172

であることがわかる。ここでさらに、

C=z17+z174+z1713+z1716, D=z172+z178+z179+z1715

とおく。計算すると、C+D=A,CD=1であることがわかる。よって、C,Dは2次方程式

t2At1=0

の解である。この方程式を解き、符号に注意すると、

C=A+A2+42, D=AA2+42

であることがわかる。また、

E=z173+z175+z1712+z1714, F=z176+z177+z1710+z1711

とおく。同様に計算すると、E+F=B,EF=1であることがわかる。よって、E,Fは2次方程式

t2Bt1=0

の解である。この方程式を解き、符号に注意すると、

E=B+B2+42, F=BB2+42

であることがわかる。次に、

G=z17+z1716,H=z174+z1713

とおく。計算すると、G+H=C,GH=Eであることがわかる。よって、G,Hは2次方程式

t2Ct+E=0

の解である。この方程式を解き、符号に注意すると、

G=C+C24E2, H=CC24E2

である。最後に、z17+z1716=G,z17z1716=1であることから、z17,z1716は2次方程式

t2Gt+1=0

の解である。この方程式を解き、虚部の符号に注意すると、

z17=G+4G2i2

である。特に、c17=G2であり、この数を用いてz17=c17+1c172iと表される。

これまでの計算を逆にたどって、c17の値を具体的に書き下してみよう。すると、

c17=G2=C+C24E4

である。ここで、

C=A+A2+42

であるが、A=1+172であることと、Aを解とする2次方程式に注目するとA2=4AよりA2+4=8A=17172が成り立つことがわかることに注意すると、

C=14(1+17+34217)

である。また、G+H=C,GH=Eであったことから、

C24E=(G+H)24E=G2+2E+H24E=G2+H22E

であるが、計算すると

G2+H2=(z17+z1716)2+(z174+z1713)2=D+4

であるから、まとめると

C24E=G2+H22E=D2E+4

である。先ほどCを求めた計算により、

D=14(1+1734217)

であることがわかっている。また、同様の計算により、

E=B+B2+42=14(117+34+217)

である。よって、

C24E=D2E+4=14(1+1734217+2+217234+217)+4=14(17+31734217234+217)

である。以上をまとめると、

c17=116(1+17+34217+217+31734217234+217)

である。

作図問題

これまでに見てきた円分方程式の解は、かなり複雑な見た目になる場合はあるもののすべて四則演算と平方根・立方根の記号のみを用いて表されていたことが注目に値する。n=7の場合には立方根が現れるが、n=1,2,3,4,5,6,8,17については平方根のみで表されている。

詳細は他の記事に譲るが、長さ1の線分を所与としたときに、ある長さの線分を定規とコンパスにより作図できることは、四則演算と平方根のみでその長さを表すことができることと同値である。よってこれまでに計算してきた結果から、n=1,2,3,4,5,6,8,17については長さcnの線分を作図でき、したがってn=3,4,5,6,8,17については正n角形を作図できることがわかったことになる。特に、n=17の場合をのちに大数学者となるガウスが少年時代に発見したというエピソードは有名であり、彼が数学の道を志すきっかけになった発見だったともいわれている。