ガロア理論/代数拡大

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導入

ガロア理論では、主に体の代数拡大の性質を扱う。そこで、代数拡大に関する基礎的な定義・定理を述べる。


定義 (代数拡大 algebraic extension)

K/F を体の拡大とする。αKF代数的(algebraic)であるとは、F係数多項式 f(x)F[x] が存在して、f(α)=0 となることをいう。
もし K の全ての元が F 上代数的であるとき、K/F代数拡大である、KF代数的である、KF代数拡大体である、などという。
代数的でないことを超越的(transcendental)という。

  • (2)/ は代数拡大である。α=a+b2 は、α2=a22b2+2ab2=(a22b2)+2a(αa) より α22aα+a2+2b2=0.
  • / は代数拡大である。
  • / は代数拡大ではないπ,e といった超越数は有理数体上代数的ではないことが示されている。


定義 (拡大次数 extension degree)

体の拡大 K/F の次数 [K:F] とは、KF 上の自然なベクトル空間とみなしたときの次元である。無限次元ベクトル空間となる場合は、[K:F]= と書く。

  • [:]=2. 実際、1,1 は実数体上基底をなす。
  • [:]=.
  • [(𝟚𝟙/𝟛):]=3.


定義 (最小多項式 minimal polynomial)

体の拡大 K/F と、F 上代数的な元 αK について、F 係数多項式 f(x)F[x]f(α)=0 となるもののうち、次数が最小で、かつ最高次係数が 1 であるものを、αF 上の最小多項式という。

  • 1 上の最小多項式は f(x)=x2+1.
  • 21/3(𝟚𝟙/𝟛) 上の最小多項式は f(x)=x32.


命題 1

K/F を体の拡大とし、αKF 上代数的とする。f(x)αF 上の最小多項式とする。
(i) α を根に持つ F 係数多項式は F[x] 内で f(x) で割り切れる。
(ii) f(x)F[x] における既約多項式である。
(iii) 逆に、g(x)F[x]αK を根に持つ既約なモニック多項式であるならば、それは αKF 上の最小多項式である。

証明

(i) g(x)F[x], g(α)=0 とし、g(x)=f(x)q(x)+r(x)F[x] 内で除算をする。このとき degf>degr であり、また x=α を代入して r(α)=0 であるので、最小多項式の次数の最小性より r(x)=0 となって、証明される。
(ii) f(x)=g(x)h(x) と分解されるとすると、0=f(α)=g(α)h(α) となるため、g(α)=0, h(α)=0 のどちらかが成り立つ。前者が成り立つとしても一般性を失わない。deggdegf であることと、最小多項式の定義より、degg=degf となり、つまり定数倍の違いしかなく、これは命題で主張されている既約性を表している。
(iii) (i) より g(x)f(x) で割り切れるので、既約性より g(x)f(x) の定数倍である。g(x) がモニックであるという仮定より、g(x)=f(x).

命題 2

体の拡大 K/F について、f(x) を、F 上代数的な元 αKF 上の最小多項式とする。このとき、
(i)F(α)=F[x]/(f(x)). 特に、F(α) の任意の元は αF 係数多項式で表せる。
(ii)[F(α):F]=degf.

証明

(i) F[x]単項イデアル整域であり、上の命題より f(x) は既約元なので、(f(x)) は極大イデアルである。したがって、F[x]/(f(x)) は体である。

F[x]/(f(x))F(α), xα は体から体への準同型であり、単射である(ガロア理論/準備#命題_3)。また、全射性はガロア理論/準備#命題_7よりしたがう。

実際、F(α) の元は g,hF[x], h(α)0 によって g(α)/h(α) という形に書け、単射性と F[x]/(f(x)) が体であることを使えば k(x)F[x]h(x)k(x)1 mod(f(x)) となるものがあり、g(x)k(x)mod(f(x))g(α)k(α)=g(α)/h(α).

(ii) d=degf として、xd=f(x)q(x)+r(x), degr<degf=d と、F[x] 内で多項式の除算をする。α を代入して、αd=r(α) となる。つまり αd1,α,,αd1F 係数の線形結合で表せる。

より高次の場合も同じであり、したがって、1,α,,αd1 はベクトル空間としての生成元である。これらが線型独立であることは、最小多項式の次数の最小性よりしたがう。

基底として 1,α,,αd1 が取れるため、拡大次数は d=degf である。

命題 3

L/K,K/F を体の拡大とする。このとき、[L:K][K:F]=[L:F].

証明

[L:K],[K:F] 片方が無限であるとき、[L:F] も無限であることはすぐにわかる。どちらも有限であるとして、

x1,,xnL, y1,,ymK をそれぞれベクトル空間としてみたときの L/K,K/F の基底とする。このとき、xiyj (i=1,,n,j=1,,m) は、LF 上の基底になっている。


命題 4

(i)K/F を体の拡大とする。αKF 上代数的である [F(α):F]<.
(ii)K=F(α1,,αn)/F を体の拡大とする。このとき、[K:F]<K/F は代数拡大。

証明

(i) 命題2より十分性は明らか。逆に拡大次数が有限のとき、n0 が存在して 1,α,α2,,αn1F 上線形従属となる。これは、代数的元であることを意味している。
(ii)

: αK について、命題3より [F(α):F]< であるので、(i) より α は代数的元である。
: L/K,K/F を体の拡大としたとき、αLF 上代数的ならば K 上代数的であることに注意して、仮定より F(α1,,αi)/F(α1,,αi1) は代数拡大なので (i) より [F(α1,,αi):F(α1,,αi1)]< である。命題3を繰り返し使って [K:F]< を得る。


定理 5

L/K,K/F が体の代数拡大なら、L/F も代数拡大である。

証明

αL が体 F 上代数的であることを示す。定義より、a0,,anK が存在して anαn++a1α+a0=0 を満たす。
このことから、αM=F(a0,,an) 上代数的である。
命題4(i)より [M(α):M]<,[M:F]<. したがって命題3より、[M(α):F]<. 命題3 を再び使って、[F(α):F]< なので、命題(i) より、αF 上代数的である。


定理 6

K/F を体の拡大とする。
(i) α,β(0)K が代数的であるとする。このとき、α±β,αβ,α/β も代数的である。
(ii) Ka={αK:α は代数的 } は、K/F の中間体である。

証明

(i)

命題4より [F(α):F]<. βF 上代数的なので F(α) 上代数的であることに注意して、[F(α,β):F(α)]<.
よって命題3より [F(α,β):F]< であり、F(α±β),F(αβ),F(α/β) はいずれも F(α,β) の中間体であるから、命題3より F 上の拡大次数はどれも有限である。
したがって命題4より、α±β,αβ,α/β はいずれも F 上代数的である。

(ii)

(i)より直ちに従う。

系 7

K/F を体の拡大とし、集合 SK の任意の元が F 上代数的であるとする。このとき、F(S)/F は代数拡大である。

証明

F(S)FS を含む最小の体であり、定理6 (ii) より F(S)Ka である。

解説

  • 定理 5 : 体の代数拡大が推移的である
  • 定理 6 : 代数的な元同士を足したり掛けたりしてもまた代数的である

の二つを示すことが目標だったわけであるが、直接これらを示すのは難しい。そこでかわりにベクトル空間としてみたときの基底の濃度の有限性で代数的であるか超越的であるかを判定できることに(命題4)に着目して、拡大次数を使って目標の定理を示したのである。

ここで出てきた最小多項式と拡大次数はガロア理論において重要な概念であり、ここで使われた命題は今後頻繁に出てくる。

  • n>1 として [(21n):]=n. 実際、xn2[x]アイゼンシュタインの既約判定法より既約であるので、これは 21n の最小多項式である。
  • ω=1+32 を 1 の 3 乗根とし、α=23 として K=(α,ω) とする。
K/ は中間体として (α),(ω) を含み、[(α):]=3, [(ω):]=2 であり、
[K:][(α):],[(ω):] で割り切れるので、[K:]6.
逆に、ベクトル空間として K1,α,ω,αω,α2,α2ω の 6 つの元によって 上生成されるので、[K:]6.
(あるいは K=(ω)(α) について、αX32 の根であるから [K:(ω)]3 によって [K:]6.)
ゆえに、[K:]=6.