Portable, Extensible Toolkit for Scientific Computation/PETScの高度な機能

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はじめに

前章では、PETScの基本的な使い方と主要な機能について学びました。本章では、PETScのより高度な機能について解説します。具体的には、カスタムソルバーの作成、性能チューニング、および大規模問題への適用方法について取り上げます。

カスタムソルバーの作成

カスタム線形ソルバー

PETScでは、独自の線形ソルバーを実装して組み込むことができます。これにより、特定の問題に最適化されたソルバーを使用できます。

例: カスタム線形ソルバーの実装

PetscErrorCode MyLinearSolver(KSP ksp, Vec b, Vec x) {
    // カスタムソルバーの実装
    // 例: 単純な反復法
    Vec r;
    VecDuplicate(b, &r);
    KSPGetOperators(ksp, &A, NULL);
    MatMult(A, x, r);
    VecAYPX(r, -1.0, b); // r = b - A*x
    VecCopy(r, x);
    VecDestroy(&r);
    return 0;
}

int main(int argc, char **argv) {
    PetscInitialize(&argc, &argv, NULL, NULL);

    KSP ksp;
    KSPCreate(PETSC_COMM_WORLD, &ksp);
    KSPSetOperators(ksp, A, A);
    KSPSetType(ksp, KSPPREONLY); // 前処理のみ使用
    KSPSetComputeOperators(ksp, MyLinearSolver, NULL);
    KSPSetFromOptions(ksp);
    KSPSolve(ksp, b, x);

    PetscFinalize();
    return 0;
}

カスタム非線形ソルバー

同様に、非線形ソルバーもカスタマイズできます。非線形方程式 F(x)=0 に対する独自の解法を実装します。

例: カスタム非線形ソルバーの実装

PetscErrorCode MyNonlinearSolver(SNES snes, Vec x, Vec f, void *ctx) {
    // カスタム非線形ソルバーの実装
    // 例: ニュートン法
    Vec r;
    VecDuplicate(f, &r);
    SNESComputeFunction(snes, x, r);
    VecAYPX(r, -1.0, f); // r = f - F(x)
    VecCopy(r, x);
    VecDestroy(&r);
    return 0;
}

int main(int argc, char **argv) {
    PetscInitialize(&argc, &argv, NULL, NULL);

    SNES snes;
    SNESCreate(PETSC_COMM_WORLD, &snes);
    SNESSetFunction(snes, r, FormFunction, NULL);
    SNESSetJacobian(snes, J, J, FormJacobian, NULL);
    SNESSetComputeFunction(snes, MyNonlinearSolver, NULL);
    SNESSetFromOptions(snes);
    SNESSolve(snes, NULL, x);

    PetscFinalize();
    return 0;
}

性能チューニング

プロファイリング

PETScは、プロファイリングツールを提供しており、プログラムの性能を詳細に分析できます。

例: プロファイリングの有効化

# 実行時にプロファイリングを有効にする
mpiexec -n 4 ./my_petsc_program -log_view

メモリ使用量の最適化

大規模な問題を解く際には、メモリ使用量を最適化することが重要です。PETScでは、疎行列のストレージフォーマットを選択することでメモリ使用量を削減できます。

例: 疎行列のストレージフォーマット設定

Mat A;
MatCreate(PETSC_COMM_WORLD, &A);
MatSetSizes(A, PETSC_DECIDE, PETSC_DECIDE, m, n);
MatSetType(A, MATAIJ); // AIJフォーマット(デフォルト)
MatSetFromOptions(A);
MatSetUp(A);

並列計算の最適化

並列計算の性能を向上させるためには、以下の点に注意します。

  • データ分割: 各プロセスに均等にデータを分散させる。
  • 通信の最小化: プロセス間の通信を最小限に抑える。

例: データ分割の設定

Vec x;
VecCreate(PETSC_COMM_WORLD, &x);
VecSetSizes(x, PETSC_DECIDE, n);
VecSetFromOptions(x);

大規模問題への適用

大規模疎行列の扱い

大規模な疎行列を扱う場合、メモリ使用量と計算効率を考慮する必要があります。PETScでは、疎行列のストレージフォーマットやソルバーの選択が重要です。

例: 大規模疎行列の作成

Mat A;
MatCreate(PETSC_COMM_WORLD, &A);
MatSetSizes(A, PETSC_DECIDE, PETSC_DECIDE, 1000000, 1000000);
MatSetType(A, MATAIJ);
MatSetFromOptions(A);
MatSetUp(A);

分散メモリ並列計算

PETScは、MPIを利用した分散メモリ並列計算をサポートしています。大規模な問題を解く際には、複数の計算ノードを使用して並列計算を行います。

例: 並列計算の設定

# 4つのプロセスでプログラムを実行
mpiexec -n 4 ./my_petsc_program

応用例

大規模線形方程式の解法

大規模な線形方程式 Ax=b を解くためのPETScのコード例を示します。

例: 大規模線形ソルバー

#include "petsc.h"

int main(int argc, char **argv) {
    PetscInitialize(&argc, &argv, NULL, NULL);

    Mat A;
    Vec x, b;
    KSP ksp;

    // 行列とベクトルの作成
    MatCreate(PETSC_COMM_WORLD, &A);
    MatSetSizes(A, PETSC_DECIDE, PETSC_DECIDE, 1000000, 1000000);
    MatSetFromOptions(A);
    MatSetUp(A);

    VecCreate(PETSC_COMM_WORLD, &x);
    VecSetSizes(x, PETSC_DECIDE, 1000000);
    VecSetFromOptions(x);

    VecDuplicate(x, &b);

    // 線形ソルバーの設定
    KSPCreate(PETSC_COMM_WORLD, &ksp);
    KSPSetOperators(ksp, A, A);
    KSPSetFromOptions(ksp);

    // ソルバーの実行
    KSPSolve(ksp, b, x);

    // 終了処理
    KSPDestroy(&ksp);
    VecDestroy(&x);
    VecDestroy(&b);
    MatDestroy(&A);
    PetscFinalize();
    return 0;
}

練習問題

  1. カスタムソルバー: 独自の線形ソルバーを実装し、簡単な線形方程式を解くプログラムを作成してください。
  2. プロファイリング: PETScのプロファイリングツールを使用して、プログラムの性能を分析してください。
  3. 大規模問題: 100万次元の疎行列を使用して、大規模な線形方程式を解くプログラムを作成してください。
  4. 並列計算: MPIを使用して、複数の計算ノードで並列計算を行うプログラムを作成してください。

まとめ

PETScの高度な機能を活用することで、カスタムソルバーの作成、性能チューニング、および大規模問題への適用が可能になります。これらの機能を理解し、実際の問題に適用することで、科学技術計算の効率と精度を大幅に向上させることができます。