高校物理 熱力学

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気体

ボイルの法則

(参考画像)

シリンダーの中に入れられた気体を、温度を一定に保ちながらピストンを押して圧力をn倍にすると、気体の体積は1n 倍になる。このことから、温度一定のとき、気体の圧力pと体積Vは反比例する:

pV=k (k:定数)

また、変化前の気体の圧力と体積をp1, V1、変化後の圧力と体積をp2, V2 とすると、

p1V1=p2V2

と表現できる。

シャルルの法則

(参考画像)

気体を圧力を一定に保ちながら気体の温度を変化させると、気体の体積 V と絶対温度 T は比例する:

VT=k (k:定数)

また、変化前の気体の圧力と絶対温度をV1, T1、変化後の圧力と体積をV2, T2 とすると、

V1T1=V2T2

と表現できる。

ボイル・シャルルの法則

ボイルの法則から、気体の体積 V と圧力 p は反比例し、シャルルの法則から、気体の体積 V と絶対温度 T は比例する。これらより、気体の体積 V は絶対温度 T に比例し圧力 p に反比例する:

V=kTp より pVT=k (k:定数)

理想気体

ボイル・シャルルの法則から、圧力を上げたり、温度を下げていくと気体の体積は 0 に近づくはずである。しかし、現実には気体分子の体積や、分子間力が存在するため、ボイル・シャルルの法則からは外れることになる。ボイル・シャルルの法則が厳密に成り立つ仮想的な気体を理想気体といい、現実に存在する気体を実在気体という。理想気体では、気体分子の体積と分子間力が無視できる。

高音低圧では、実在気体は理想気体として近似できることが知られている。また、分子間力の影響が小さい、分子量が小さくて無極性分子である気体も理想気体として近似できる。

理想気体の状態方程式

1 mol の理想気体について、ボイル・シャルルの法則の定数 R=pVT の値は、R=8.31J/(molK)=8.31×103PaL/(molK) [1]であり、R気体定数という。

理想気体の物質量が n の場合、気体の体積は物質量に比例するため、 R=pTVn より pV=nRT を得る。これを理想気体の状態方程式という。

実在気体の状態方程式

Z=pVnRT圧縮因子という。理想気体においては常にZ=1である。

圧縮因子の値が1からかけ離れているほど、その気体は理想気体からかけ離れている。0≦Z<1ならば分子間力、z<1ならば分子自体の体積の影響が大きい。

理想気体の状態方程式に補正を加えて実在気体の実際の振る舞いに近づける方法はいくつかあるが、ここでは以下のような方法を紹介する。


実在気体の圧力をpr、体積をVrとする。

分子間力が働くと、分子が器壁に衝突する際に近くの分子に引き寄せられて圧力が低くなる。 下記の気体分子運動論の結果から考察して、衝突の勢いの減少量・衝突頻度ともにnVとなるので、気体の分子間力によって壁が受ける圧力の減少量はn2Vr2に比例する。比例定数をaとおくと、分子間力を考慮して補正した圧力は、pr+an2Vr2である。

気体の体積とは、気体分子が自由に動くことのできる三次元領域の体積のことである。分子自身の体積によりこの体積の値は減少する。このとき、減少した体積を排除体積という。1molあたりの排除体積をbとすると、分子自身の体積を考慮して補正した体積は、Vrnbとなる。

これらを理想気体の状態方程式に代入すると、(pr+an2Vr2)(Vrnb)=nRTとなる。この状態方程式を、ファンデルワールスの状態方程式という。この方程式に従う気体をファンデルワールス気体という。また、定数a, bをファンデルワールス定数という。ファンデルワールス定数は気体の種類にのみ依存する。

ファンデルワールスの状態方程式は、補正が簡単かつ応用範囲が広い。しかし、低温領域において、ファンデルワールス気体の振る舞いは理想気体とも実在気体ともずれてしまう。振る舞いがよく近似できる最低温度を臨界温度という。

現在では、更に修正された形の状態方程式が提案されている。

気体分子運動論

気体の圧力という巨視的な状態について、気体分子の運動といった微視的な視点から考察してみよう。

容器に衝突した分子の運動量変化

立方体容器中の気体分子

圧力の仕組みを分子1個1個から考える。気体分子は質点とする。

一辺の長さLの立方体の容器に、気体が入っているとしよう。分子1個の質量をmとする。これが速度 v で運動していたとして、速度 vx成分を vx とする。

テンプレート:-

気体分子の壁の衝突

容器の中で運動している分子が、x 軸に垂直な右側の壁にあたったとする。壁は、静止していて、弾性衝突であるとする。よって、衝突の前後で、分子の速度の大きさは変わらない。

テンプレート:-

気体分子の衝突と力積

分子の運動量の変化は、図より、以下のようになる。

m(vx)mvx=2mvx

これは、容器の側から見れば、同じ大きさの力積を気体分子1個から受けとることになる。つまり、x 軸に垂直な容器の壁が、気体分子1個の1回の衝突で受けた力積は 2mvxである。

時間 t の間に、この分子が壁に衝突する回数は vxt2L である。なぜならば、往復に2Lの距離を移動して、速度は vx だからである。(壁は右側と左側の両方にあるが、左側の壁が受ける力積は右側の壁の力積にはならないので、片方の壁だけが受ける衝突だけの力積を計算する必要がある。)

衝突回数 vxt2L と、1回の衝突の力積 2mvx を掛け、時間 t で割れば、単位時間あたりに壁が受ける力積が出てくる。

2mvxvxt2L1t=mvx2L

単位時間あたりの力積とは、FΔtΔtが1なので、力そのものである。つまり、これが気体分子1個が壁に及ぼす力である。

次に気体分子全体が壁に与える力を求めたい。まず速度vxは分子ごとに異なるので、分子速度の平均で考える必要がある。 vx2 の平均を vx2¯ で表そう。

分子の数を N 個とすれば、気体分子全体が右側の壁に与える力Fは、

F=Nmvx2¯L

これを壁の面積 S=L2で割れば、右側の壁に与える圧力 Pが求まる。

P=Nmvx2¯L3

ここで、L3 は、容器の体積である。

したがって、圧力Pは、

P=Nmvx2¯V

と書ける。


速度のx方向成分 vx と、速度 v の関係を求める。

N個の分子の v,vy,vz の2乗の平均を v2¯,vy2¯,vz2¯ とすると、三平方の定理より、

v2¯=vx2¯+vy2¯+vz2¯

である。

ここで v2¯2乗平均速度という。二乗平均速度は速度の絶対値の平均と多少値が違う。平均に関してはw:平均に詳しい解説があるので、適宜参照されたし。ただし高校段階ではこの平均の問題に深入りする必要は全くない。

また、気体の速度に特別な方向は無いと考えられるので[2]

vx2¯=vy2¯=vz2¯

である。 よって、

vx2¯=v2¯3

である。

これを圧力の式に代入すれば、

P=Nmv2¯3V

となる。

気体分子の運動エネルギー

p=Nmv2¯3V から pV=Nmv2¯3を得る。気体のモル数 n と分子数はアボガドロ定数 NA の関係 N=nNA を代入し、理想気体の状態方程式 pV=nRT と比較すれば、
nRT=nNAmv2¯3
12mv2¯=32(RNA)T

を得る。ここで、ボルツマン定数 kB=RNA を定義[3]すると、

12mv2¯=32kBT を得る。

これが、気体分子1個の運動エネルギーの平均値である。

気体分子の速度

気体分子1個の運動エネルギーの平均値の式 12mv2¯=32kBTv2¯ について解けば、2乗平均速度 v2¯ が求まる。

v2¯=3kBTm=3RTmNA=3RT×103M

ここで、分子量 MM=mNA×103 [4]を満たすことを使った。

この式から 0 °C(273.15 K) における酸素分子の速さの平均を求めてみると 461 m/s であり、0℃における音速の 332 m/s よりも速く運動していることが分かる。

内部エネルギー

気体の内部エネルギーは分子の熱運動による運動エネルギーと分子間力による位置エネルギーの和である。

ここで、分子間力による位置エネルギーは無視できるほど小さいので、内部エネルギーは熱運動による運動エネルギーに等しいとする。

単原子分子の場合は、分子の回転を無視できるため、内部エネルギーは、運動エネルギーのみからなると見なしてよい。

単原子分子理想気体の内部エネルギー U

U=32NkT=32nRT

である。

熱力学

気体のする仕事

シリンダー内に気体を入れ、なめらかに動く表面積 S のピストンで閉じ込める。ピストンの外の大気圧が p のとき、シリンダー内の圧力も p である[5]。シリンダー内の気体に熱を与え、気体をゆっくり膨張させる。ピストンが Δl 動いたときまで、気体がピストンに加える力は pS である。気体がピストンにした仕事 WW=pSΔl=pΔV である。

p-Vグラフ

気体の圧力が変化する場合でも、p-Vグラフで囲まれた面積から気体が外部にする仕事を求められる。

積分を使って表すと、 W=v1v2p(v)dvである。

定積変化と定圧変化と等温変化と断熱変化

定積変化では、気体の体積は一定なので、気体が外部にする仕事は W=pΔV=0 である。従って熱力学第一法則より、ΔU=Q である。

定圧変化では、気体が外部にする仕事は W=pΔV なので、気体がされた仕事は W=W=pΔV 。熱力学第一法則より、ΔU=QpΔV である。

等温変化では、気体の内部エネルギーの変化は0である。熱力学第一法則より 0=ΔU=Q+W である。

断熱変化では、外部との熱の出入りがないので、 Q=0 である。熱力学第一法則より ΔU=W である。

(熱伝導の大きいシリンダーで)ピストンをゆっくと動かすと、シリンダー内の気体の温度を外気温と同じに保つことができるため、等温変化が実現できる。

熱伝導の小さいシリンダーを使ったり、ピストンを極めてすばやく動かすと外部と気体の熱の出入りが無視できるため、断熱変化が実現できる。

モル比熱

気体1molに対して、温度を1K上げるのに必要な熱量をモル比熱という。

n の気体に熱量 Q を与えて温度 ΔT だけ上がったとすれば、モル比熱 C
C=QnΔT

である。

さて、気体の温度を上げると、状態方程式から分かるように圧力や体積が変わる。もし、気体を変形が可能な容器(たとえばピストンヘッドが動けるシリンダー内部)に入れれば、温度を上昇させる際に気体は膨張し容積が上昇するので、外部に仕事をすることになる。

一方で、容器が変形しない場合は、定積変化となるから体は外部に仕事をしない。

これらを考えると、容器の条件によって、比熱が変わるので、条件ごとに区別をする必要がある。

定積モル比熱

定積変化の場合のモル比熱を定積モル比熱という。

定積モル比熱 CVは定義より、 CV=QnΔT である。

定積変化では体積一定なので熱力学第一法則より

ΔU=QΔU=nCVΔT=Q.

もし気体が単原子分子理想気体ならば、内部エネルギーの変化量は

ΔU=32nRΔT 

であったので

32nRΔT=nCVΔT 

より

CV=32R (単原子分子理想気体)

である。

定圧モル比熱

定圧変化の場合のモル比熱を定圧モル比熱という。

単分子原子理想気体の定圧モル比熱を求めてみよう。圧力 pで物質量 n の単分子原子理想気体の温度が ΔT 上がったときの内部エネルギーの変化量 ΔU

ΔU=QpΔV

である。理想気体の状態方程式より、定圧変化では圧力一定のなので、

pΔV=nRΔT

である。

また、単分子原子気体の内部エネルギーの変化は

ΔU=32nRΔT

である。これを代入して

Q=ΔU+pΔV=52nRΔT

を得る。定圧モル比熱は Q=nCpΔT が成り立つので

これより、 Cp=52R である。

同様にして、二原子分子理想気体においてはCV=52R,Cp=72Rであることが証明できる。


熱力学第一法則の式ΔU=QWQ=nCVΔT,W=pΔV=nrΔT,ΔU=nCVΔTを代入すると、CV=CpRすなわちCpCV=Rを得る。これをマイヤーの関係式という。


定圧モル比熱と定積モル比熱の比γ=CpCV比熱比という。

ポアソンの法則

理想気体が(P, V, T)の状態から(P+ΔP, V+ΔV, T+ΔT)の状態に移ったとする。それぞれの状態について、理想気体の状態方程式より

{PV=nRT(P+ΔP)(V+ΔV)=nR(T+ΔT)

である。変形するとPΔV+VΔP+ΔPΔV=nRΔTである。ここで、微小量同士の積を無視することにすると、PΔV+VΔP=nRΔTを得る。

熱力学第一法則

ΔU=QW

において、ΔU=nCVΔTW=PΔV、断熱変化のときQ=0より、

nCVΔT=PΔV

である。先ほど得た式を用いてΔTを消去すると、

CVVΔP=(CV+R)PΔV

である。整理して

ΔPP=CV+RCVΔVV

を得る。ここで、マイヤーの法則よりCV+R=Cp、比熱比の定義より

γ=CpCV

なので、

ΔPP=γΔVV

である。両辺それぞれ積分すると、

dPP=γdVV

より積分定数をAとして

logP=γlogV+A

である。変形して

logP+logVγ=logPVγ=A

すなわち

PVγ=eA=const.

である。この、PVγ=const.という関係をポアソンの法則という。

ポアソンの法則はまた、状態方程式により、p=nRTV を代入すれば、nR もまた定数だから、

TVγ1=const.

と変形することができる。これもポアソンの法則という。

熱機関

熱機関とサイクル

熱を受け取って仕事を行う装置を熱機関と呼ぶ。自動車のガソリンエンジンや飛行機のジェットエンジン、発電所の蒸気タービンも熱機関である。

熱機関は、たとえばピストンが膨張し、元の体積に戻るといったように、周期的に状態を繰り返す。この一連の過程をサイクルと呼ぶ。

正の仕事を行う熱機関では、必ず高温熱源から熱を得て仕事を行い、熱を低温熱源に捨てる。したがって、熱は高温部から低温部へ移動する。

一方、クーラーやエアコンのように外部からのエネルギー供給があれば、低温熱源から高温熱源へ熱を移動させることができる。外部からエネルギーが供給されていない場合、高温部から低温部への熱の移動は起こり得るが、その逆は不可能である。これが熱力学第二法則である。

逆方向の現象が起こり得ない変化を不可逆変化と呼ぶ。逆方向の現象が起こり得る場合は可逆変化という。

たとえば、摩擦によって止まる物体の場合、静止している物体が周囲から熱(摩擦熱の逆に相当するエネルギー)を受け取って運動を始める現象は自然界に存在しない。このような現象も不可逆変化の一例である。

熱効率

熱サイクルの例.
熱機関には高温熱源と低音熱源が必要になる。

気体を膨張させて仕事を取り出す熱機関が、あるとする。この熱機関の内部気体を圧縮させて戻すのにも、エネルギーが必要である。したがって、加熱膨張させて仕事をさせたあとは、熱機関の熱を放熱しないと、圧縮に膨張時と同じエネルギーが必要になり、熱機関として価値が無くなる。だから熱機関を繰り返し利用して仕事をさせるためには、加熱をして膨張をしたあとに、気体を収縮させる際に、冷却あるいは放熱して元の圧力や体積に戻すことになる。

低温熱源

したがって、熱機関には冷却源や放熱先が必要である。このような冷却源や放熱先を低温熱源という。(冷却をする場合は、当然に冷却源が必要である。放熱をさせる場合も、放熱先は温度が熱機関よりも低い必要があるから、結局、冷却源があることと同等になる。)低温熱源という呼び方に関して、熱を捨てる先なのに熱源というのは奇妙と感じるかもしれないが、便宜上、こういうので、慣れて頂きたい。

高温熱源

対して、膨張をさせるための気体の加熱に必要な熱源を高温熱源という。言葉通り、高温熱源の温度は、低温熱源の温度よりも高い。

熱効率

このように、サイクルとして繰り返し使用できる熱機関には、高温熱源と低音熱源の、温度の異なる2個の熱源が必要になる。

逆に言うと、たった一個の熱源だけでは、熱機関から仕事を取り出せない。

仕事として取り出せるエネルギーWは、高温熱源で得た熱量Q1のうち、低温熱源で捨てることになる熱量Q2を引いた残りQ1-Q2である。

W=Q1-Q2

熱機関を動かすのに必要なエネルギーは、最低でも高温熱源の熱量Q1は必要である。

熱機関が高温熱源から吸収した熱量の内、仕事に変えた割合を熱効率といい

e=WQ1

で表される。

熱効率eは、現実の機械では1より小さくなる。

熱効率の定義式に、W=Q1-Q2を代入すれば、

e=Q1Q2Q1

となる。

その他

状態量

気体の変数の変数p,V,Tは、理想気体であれ、ファンデルワールス気体であれ、状態方程式(理想気体かファンデルワールス気体かは、ここでは問わない)があるならば、変数p,V,Tのうちの、どれか二つが決まれば、気体の状態方程式から残りの変数も決まる。こうして3変数p,V,Tが決まる。

内部エネルギーは、理想気体であれ、ファンデルワールス気体であれ、どちらにしても、変数p,V,Tのうち、どれか二つが決まれば、気体の方程式から残りの変数も決まる。決まった3変数のp,V,Tによって、内部エネルギーも決まってしまう。このような、状態変数によってのみ決まる物理量を状態量という。 3変数のp,V,Tが決まれば内部エネルギーも決定されるので、内部エネルギーは状態量である。 内部エネルギーを決める3変数のうち、真に独立変数なのは、そのうちの2個のみである。変数p,V,Tのどれを2個まで独立変数に選んでもいいが、残りの1個は既に選んだ変数の従属変数になる。

どの変数を独立変数に選ぶと、知りたい答えが求めやすいかは、問題による。

(多変数の関数の微分積分については、大学理科系で扱う。多変数関数の微分を偏微分という。解説は高校範囲を超える。)

理想気体の断熱変化

状態 (p1,V1,T1) にある比熱比 γ の理想気体が断熱変化で状態 (p2,V2,T2) になったとする。この過程で気体が外部にした仕事を W とする。ポアソンの法則より

pVγ=K

が常に一定であることを使って、 W を計算すると、

W=V1V2pdV=KV1V2VγdV=K1γV1γ|V1V2=11γ(KV21γKV11γ)=11γ(p2V2p1V1)=11γ(nRT2nRT1)

となる。

また、断熱変化では、熱の交換はないから、Q=0。熱力学第一法則より、この過程の間の内部エネルギーの変化 ΔU は、

ΔU=W=1γ1(nRT2nRT1).

理想気体の等温変化

状態 (p1,V1,T) にある理想気体が等温変化で状態 (p2,V2,T) になったとする。この過程で気体が外部にした仕事を W とする。理想気体の状態方程式

pV=nRT

nRT は一定だから、W は、

W=V1V2pdV=nRTV1V2dVV=nRTlogV|V1V2=nRT(logV2logV1)=nRTlogV2V1

と計算できる。

また、理想気体の等温変化では内部エネルギーは変化しないから、ΔU=0。熱力学第一法則より、この過程の間に気体が吸収した熱量 Q は、

Q=W=nRTlogV2V1.

カルノーサイクル

カルノーサイクル

高温熱源 TH と低温熱源 TL による次のようなサイクルをカルノーサイクルという。

  1. 最初、シリンダーの温度は高温熱源と同じ温度である(状態1)
  2. 高温熱源に接触したまま等温膨張する(状態2)
  3. 断熱膨張し、シリンダーの温度は低温熱源と同じになる(状態3)
  4. 低温熱源と接触させ、等温圧縮する(状態4)
  5. 断熱圧縮し、シリンダーの温度は低温熱源と同じになる(状態1に戻る)

カルノーサイクルの作動流体が理想気体であるとき、カルノーサイクルの効率を具体的に求めてみよう。

まず、状態1から状態2の間の仕事W12は等温膨張での仕事なので、公式より、

W12=nRTHlogV2V1

である。

状態3から状態4の間の仕事W34は等温圧縮での仕事は

W34=nRTLlogV4V3

状態2から状態3の間の仕事W23は断熱膨張での仕事であり、

W23=1γ1(nRTLnRTH)

である。

状態4から状態1の間の仕事W41は断熱圧縮での仕事は、

W41=1γ1(nRTLnRTH)
よって、
W41=W23

である。

機関が1サイクルの間にした仕事は、

W12+W23+W34+W41

である。

このうち、

W23=W41

なので、仕事として残るのは、

W12+W34

であり、

W12=nRTHlogV2V1
W34=nRTLlogV4V3

だから、

W12+W34=nRTHlogV2V1+nRTLlogV4V3

である。これが、この機関が1サイクルで行う正味の仕事である。

ところで、V2V1と、V3V4の関係を求めよう。 状態方程式pV=nRTより、

p1V1=p2V2  (1)
p3V3=p4V4  (2)

である。さらにポアソンの公式より、

p4V4γ=p1V1γ  (3)
p2V2γ=p3V3γ  (4)

である。式(3)と式(4)の両辺を割ると、

p1p2(V1V2)γ=p4p3(V4V3)γ

今度は式(1)と式(2)をそれぞれ変形して、

p1p2=V2V1

p4p3=V3V4

となるから、

(V1V2)γ1=(V4V3)γ1

すなわち、

V1V2=V4V3

あるいは、

logV4V3=logV2V1

となるから、

W12+W34=nR(THTL)logV2V1

と書ける。

これが、カルノーサイクルの、1サイクルでの正味の仕事である。

カルノーサイクルの効率

カルノーサイクルの熱効率を導出してみよう。

カルノーサイクル

カルノーサイクルが高温熱源から受け取る熱量Q1は、行程1→2であり、この行程は等温変化なので、受け取った熱量はすべて仕事になっている。行程1→2での等温変化の仕事は、

W12=nRTHlogV2V1

であったので。これが高温熱源から受け取った熱量Q1に等しい。つまり

Q1=nRTHlogV2V1

である。

熱効率eの式は、高温熱源から受け取った熱量をQとして、正味の仕事をWとすれば、

e=WQ

であった。 これに、既に求めた、熱量Q1とW12を代入すれば、

e=WQ=nR(THTL)log(V2/V1)nRTHlog(V2/V1)

である。これを約分して整理すれば、

e=1TLTH

である。これがカルノーサイクルの効率[6]である。これは絶対温度だけで決まる。 実際の熱機関の効率は、不可逆変化を含み、これよりも低くなる。

熱機関の効率が最大になるのは、熱機関が可逆である場合である。

固体のモル比熱

固体の(化合物や合金でない)単体元素の1モルあたりの定積モル比熱は、おおよそ一定値になり、

おおよそ

Cv = 24~30 J/mol・K である。

とくに、かなりの単体元素が、

Cv = 24~26 J/mol・K である。
(ただし、いくつか例外的に、当てはまらない元素もある。炭素やベリリウムやケイ素、ホウ素など。)

また、気体定数Rやボルツマン定数kBを使えば

CV=3R=3NkB=25.5 J/mol・K

と近似できる。

これを、デュロン=プティの法則という。

気体分子にしろ、固体にしろ、比熱は、モル比熱で考えると、それぞれ、常温付近では、(例外的ないくつかの元素固体を除くと)元素の種類によらず、ほぼ一定値になる。

また、それらのモル比熱は、気体定数Rを使った式で簡潔に近似することができる。

こういう実験事実が、モルの概念の有用性や、気体の状態方程式の有用性の裏付けになっている。

なお液体の場合には、デュロン=プティの法則のような関係は特に見つかってない。

固体の比熱の法則には、例外は少ないが、しかし固体の比熱の法則のほうは(当てはまらない元素が多いなどのように)例外が比較的に多い。そういう事情もあってか、物理学の熱力学でのエネルギー等分配の法則の理論が、気体を基準にして法則を導き出してから固体の比熱を考察していく理論体系になっていることも妥当であろう(例外の多い「固体」比熱よりも、例外の少ない「気体」比熱のほうが、法則に近いと考えるのは妥当だろうという事である)。

エネルギー等分配の法則

速度について、

v2¯=vx2¯+vy2¯+vz2¯

であったから、運動エネルギーについても、

12mv2¯=12mvx2¯+12mvy2¯+12mvz2¯

である。これに、単原子分子理想気体の内部エネルギーの式

U=12Nmv2¯=32NkT 

とを合わせて、運動エネルギーは各方向成分を求める。各方向とも等分されるのが妥当なので、したがって、各方向の運動エネルギーは

12mvx2¯=12mvy2¯=12mvz2¯=12kT

となる。

このことから、運動の自由度1個につき、エネルギーが12kTずつ等分される事がわかる。これをエネルギー等分配の法則という。

2原子分子では、運動の自由度は、分子速度の3方向に加えて、回転運動が2個、加わる。二つの分子を結ぶ軸に垂直な方向の平面上の線が回転軸の方向になるので、面の自由度2個が加わる。 よって、2原子分子では、理想気体の内部エネルギーの式は、

U=12mv2¯=512kT=52kT 

になる。 2原子分子の内部エネルギーが52kTになることは、実験的にも比熱の測定によって確認されている。

熱膨張率

物体は温度が上昇すると体積が膨張する。温度が1℃上昇するに連れて体積の増加する割合を体膨張率という。長さが、温度の1℃増加あたりに、長さの膨張する割合を線膨張率という。線膨張率はプラスチックが最も高い。線膨張率をαとして、長さをL、加熱後の長さの変化量をΔL、加熱後の温度上昇をΔTとすると、定義より

ΔLL=αΔT

の関係式が成り立つ。膨張量が小さい場合の近似式として、線膨張率αと体積膨張率βとの間に、以下の近似式が知られている。

β=3α.
  • 導出

導出は、物体の体積をV、その変化量をΔVとすると、

V+ΔV=(L+ΔL)3

および

V=L3

の関係より、

1+ΔVV=(1+ΔLL)3

さらに、近似式

(1+ΔLL)3=1+3ΔLL

により、

1+ΔVV=1+3ΔLL

両辺から1を引き、この問題設定では体積膨張率βが、

β=ΔVV

であり、線膨張率αが

α=ΔLL

なので、結局は

β=3α

となる。


ここまでで、高校物理の熱力学での発展的話題は終了である。これより先の水準の話題は、大学での範囲になる。

  1. 単位に注意。J=Nm=Pam3=103PaL
  2. ここでは、重力の影響は無視して考えている。
  3. ボルツマン定数は単に k とも表される。
  4. mNA は 1 mol の分子の質量を kg で表したものである。 分子量 M は 1 mol の分子の質量を g で表したものだから、 103 の係数が必要になる。
  5. ピストン外とシリンダー内の圧力が違うとすると、ピストンはなめらかに動く(=ピストンとシリンダー間の摩擦が存在しない)ため、ピストンが動いてしまう。
  6. これは、作動流体を理想気体に限らずとも成り立つ。熱力学/熱力学第二法則を参照せよ。