物理数学I ベクトル解析

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ベクトル解析

ここでは、ベクトル解析について解説を行なう。 ベクトル解析は、主に多変数関数の微積分と関連しているが、 特にそれらのうちには計算自体に明確な物理的意味を 持つものがいくつか見られる。歴史的にもこの分野は 数学と物理の間のフィードバックを通して発展して来た。

そのため、計算においては物理的な意味を強調していきたい。 また、特にいくつかの定理は数学的に厳密な証明をすることが 難しい。その様なときには常識的に古典的な物理学の範囲で 起こる現象で適用できる程度に、一般的に 書くことにしたいと思う。

また、現代的にはこの分野は微分形式を用いて書かれることが多いが、 ここではまず最初に古典的な計算法を扱う。 これは、特に物理を専攻としない学習者に配慮するためである。

例えば、電気技術者や機械技術者もベクトル解析は依然として学ばねば ならず、彼らに取っては微分形式の理論はそれほど有用とはいえないものと 思われる。

ベクトル解析の理論は特に電磁気学と関連が深いが、これらの結果は 流体力学や量子力学など、様々な分野で登場する物理の根幹を成す計算法であり、 学習者は十分これらの手法に習熟することが求められる。

なお、ベクトル自体の性質については線型代数学/ベクトルを参照していただきたい。

ベクトル関数の定義

ベクトル関数の定義

例えば3次元ベクトルで

r=(x,y,z)

とするとき、ある変数tについて x,y,z が、

(x,y,z)=(x(t),y(t),z(t))

で表わされるとき、

r

を、ベクトルの関数と呼ぶ。 これは、tを時間と見なすときにはある3次元空間中を 物体が動いて行く軌跡の値と見なすことが出来る。

例えば、

x=t,y=0,z=0

という軌跡を与えたとき、この値は 物体がxの方向に速度1で等速直線運動しているものとみなすことが できる。

ただし、この定義自体は3次元にとどまらず容易にn次元に拡張することが 出来る。 例えば、

(x1,x2,,xn)=(x1(t),x2(t),,xn(t))

のようにn次元のベクトルを取ったときに、そのうちの各要素が ある独立変数tだけに依存すると考えることが出来るとき これは、n次元空間の中の物体の軌跡と考えることが出来る。

ベクトルの微分

ここでは、ベクトルの微分を定義する。 例えば、1次元においては、物体の速度は

x˙=x(t+dt)x(t)dt

で与えられた。この値はある時間における物体の 位置の変化率という直接的な物理的意味を持っている。


これらの自然な拡張として一般的な次元において、

r˙=r(t+dt)r(t)dt

によって、ベクトルの微分を定義する。 例えば、1次元空間に限ったときにはこの結果は上の式と一致することが分かる。 このことによって、例えば

(x,y)=(x(t),y(t))

という2次元ベクトルを取ったとき、 物体の速度のx方向成分は

x˙=x(t+dt)x(t)dt

によって与えられ、物体の位置のx方向成分のみによることが示唆される。 同様に 物体の速度のy方向成分は 物体の位置のy方向成分のみによっている。

このことは一見当然のように思えるが、実際にはそうではなく 我々が用いている座標系によっている。 例えば、2次元の極座標を用いてみると、

x=xex+yey=rer

と書けるが、 この式を正しく微分すると、

v=r˙er+rθ˙eθ

が得られ、速度のθ成分は、物体のr成分にも依存している。

このことは、直接的にはer自身が時間依存性を持っている。 我々が通常用いる(x,y,z)という座標系は 通常直交座標系と呼ばれるが、(デカルト座標系と呼ばれることも多い。) これらの座標軸の方向は時間的に変わることが無いので、 微分の性質が非常に簡単になっている。

しかし、実際にある物体の動きを記述するとき、直交座標系を用いるより、 その動きに特徴的な量をパラメーターとして用いた方が記述が簡明に なることがある。例えば、太陽のまわりを円運動する惑星の 動きを記述するには、極座標を用いると、物体の運動がもっとも簡潔に記述される。 この様に、運動の種類によって用いるべき座標系が変わって来るため、 それぞれの間の緒量の変化、つまり微分や積分の性質を調べることが重要に なる。

関数の勾配

ここまでで一般的な微分の方法を見た。 ここでは、特に物理的に重要なベクトルの作り方を 見る。

ある関数f(x,y,z) があるものとする。 このとき、

gradf=(fx,fy,fz)

をfの勾配と呼ぶ。 また、同様にしてn次元では

gradf(x1,,xn)=(fx1,,fxn)

によって定義される。


ここで、勾配はこの式の意味によって付けられた名前である。 例えば、

y=z=0

に限ってこの式を書いてみる。 このとき、

gradf=(fx,0,0)

となるが、これはこの関数fのx方向の傾きに等しい。 つまり、この式は傾きを求める式の複数の方向を用いた場合への一般化と なっている。

より一般的な例として2次元の場合の 例を考えてみる。ここでは

f(x,y)=x2+y2

とおく。 このときこの式の勾配は簡単に計算でき、

gradf=(2x,2y,0)

となる。例えば、この式を

x=a,y=0

(aはある定数。) について考えてみる。 このとき、勾配の値は

gradf=(2a,0,0)

となるが、これはxが正のとき正であり、負のときには負となっている。 つまり、この式はこの関数のx座標軸上で見たときに、 x=0を極少としたすり鉢形のグラフとなっており、更に 原点から離れれば離れるほど、グラフの傾きが増すことを示唆している。 実際この式を数値的にプロットすると、この主張が確かめられる。

  • TODO

プロットを作製。

次に、この式を

x=0,y=b

(bはある定数。) について考えてみる。 このときにも全く同じ主張が出来、y方向に見ても このグラフはすり鉢状になっている。

また、この式を

x=y=c2

について考えてみる。このときには

gradf=2(c2,c2)

が得られ、この点では勾配はx軸からπ/4の方向を向いていることが分かる。

一般に勾配は、関数fが、最も大きな傾きで増加する方向を 向いており、その絶対値はその点でそちらへの微分を取った値に等しい。

また、ある点でのある方向への微分を求めたいときには、 求めたい方向の単位ベクトルを

n

としたとき、

gradfn

を計算することで、求めることが出来る。

  • 説明

勾配の計算では、全ての独立変数に対する微分を求めており、 これらの微分を組み合わせることであらゆる方向への微分を 作ることが出来ることが期待される。 微分の最も低いオーダーでは、それぞれの方向への微分は それぞれの方向の単位ベクトルにそちらの方向への微分の大きさを かけたものに等しいので、ある方向に対する微分を 計算するにはそれらを適切な方向への重みをつけて足し合わせることが 求められる。このとき、ある方向に対する単位ベクトルと ある軸の方向に対する単位ベクトルは、2つの方向の重みを表わしていると 考えられるので、確かにこの値は、そちらの方向への微分となっている。


例えば、

x=a,y=0

でのy方向の傾きは、

gradfn=(2a,0)(0,1)=0

となるが、 これは、この関数の等高線が円形になっていることを考えると 確かにこの点ではy方向の傾きは0になっていなくてはいけない。

ベクトルの発散

次には逆にあるベクトルを取ったとき、 あるスカラー量を作りだす計算を導入する。 後に示される通り、この量はある点から流れ出す 粒子や場の束の和という物理的意味を持っており、 電磁気学や流体力学で頻繁に用いられる。 実際前者では磁束や電束についての計算に用いられ、 後者では流体中のわきだしや吸い込みなどのまわりで 流体の性質を表わすベクトルがnon-zeroになることが 知られている。

あるベクトルの関数

a

があるとき、

diva=axx+ayy+azz

を、aの発散と呼ぶ。 また、この量もn次元で定義することが出来、そのときの定義は、

diva=a1x1++anxn

で与えられる。 ただし ai はベクトル a の第i成分である。

この式の物理的意味は上で述べた通りだが、そのことの導出は ガウスの定理の導出によって与えられるため、ここでは扱わない。

ベクトルの回転

ここでもう1つ、物理的に重要な演算を導入する。 この量も電磁気学や流体力学で使われており、 ある経路に沿って積分した値がその経路の中の ある量の積分によって与えられるという定理である。

実際には電磁気学では古典的にある回路を突き抜ける磁束の時間変化が 、その回路内に電流を引き起こすことがレンツの法則として知られている。 この法則は、このようなベクトルの演算によってうまく記述される現象の 例である。

流体力学では、この量は流体中に巻き起こる渦に対応している。 つまり、渦が流れるルートに沿って、流体の速度を積分していけば 0でない値が得られることが期待される。一方、そうでない場合 この値は全ての寄与が打ち消し合い、0になると思われる。 つまり、この量を用いることで、流体中の渦を記述する方法が得られるわけである。

ただし、実際には流体の運動を考えるときには渦が一切発生しないと した方が計算が簡単になることも多い。このような流れは渦無しの流れと 呼ばれ、その性質はよく知られている。

ここからはベクトルの回転の定義を述べる。 あるベクトルの関数

a

があるとき、

rota=(azyayzaxzazxayxaxy)=|exeyezxyya1a2a3|

a

の回転と呼ぶ。

記法

場の量 f(t,𝒓) は時間 t と位置 𝒓 に関する量だが、混乱の虞がないときは変数を省略して f のように書く。ベクトルの量は 𝑬,𝑩 のように太字で書く。手書きでは、縦棒を一本適当な場所に追加することでこれを表すことが多い(黒板太字という)。また、ベクトル量の大きさを同じ文字で E,B のように書く。ベクトルの二乗はそのベクトルの大きさの二乗である。すなわち、 E2=𝑬2=|𝑬|2 である。

ベクトル量による微分は、ベクトル量のおのおのの成分による偏微分によって作られるベクトルのことである。

例えば、 A𝒓 は勾配に等しい。

また、

A𝒗=(AvxAvyAvz)

この記法は解析力学で必要となるが、そのとき、𝒓,𝒗 は独立として扱われる。

場の量 A(t,𝒓) について、ある粒子の軌跡 𝒓a に沿った A の変化

dA(t,𝒓a(t))dt

は、

dA(t,𝒓a(t))dt=At+d𝒓adtA(t,𝒓)𝒓

である。物理では、わざわざ 𝒓aと記号を新しく導入することをせずに

dAdt=At+d𝒓dtA𝒓

と書く。右辺の第一項は場の時間変化、第二項は粒子の移動による場の変化に対応している。dAdt を完全導関数、At,A𝒓 を偏導関数といい区別する。

また、例えば、関数 U(x,y,z)=αx2+y2+z2 は極座標では、U(r,θ,φ)=αr である。U,U は数学的に異なる関数であるが、物理では座標系による関数の違いを書き分けることはほとんどない。つまり、Uもそのまま U と書くことになる。

ベクトル解析の公式

ここでは、ベクトル解析の公式を証明する。これらの公式はベクトルを成分表示して単純に計算することでも証明できるが、この方法ではあまりにも煩雑になってしまうためレヴィ・チヴィタ記号を導入して証明する。

クロネッカーのデルタ

クロネッカーのデルタ δijテンプレート:式番号

で定義する。

レヴィ・チヴィタ記号

レヴィ・チヴィタ記号 εijkテンプレート:式番号

と定義する。すなわち、置換 σ=(123ijk) (ただし i,j,k は互いに異なる)が偶置換のとき、εijk=1、奇置換のときεijk=1 である。また、レヴィ・チヴィタ記号 εijkε123=1 であり、2つの添字を入れ替えると -1 倍される(反対称)もの (e.g. ε213=ε123=1,ε231=ε213=1)と理解できる。添字に同じ数字があるときはレヴィ・チヴィタ記号は 0 である(e.g. ε111=0,ε322=0)。

基本ベクトル 𝒆i𝒆i=(δ1iδ2iδ3i) とする。すなわち、𝒆1=(100),𝒆2=(010),𝒆3=(001) である。

微分作用素 =(xyz) をナブラという。これは記号的な表記である。ナブラを通常のベクトル演算と同じように扱うと、grad,div,rotは簡単に

gradf=f
diva=a
rota=×a

と書くことが出来る。


:==2x2+2y2+2z2 をラプラシアンという。スカラー関数 f について f=2fx2+2fy2+2fz2 であり、ベクトル関数 𝑨 について 𝑨=(2Axx2+2Axy2+2Axz22Ayx2+2Ayy2+2Ayz22Azx2+2Azy2+2Azz2) である。



以下では、簡単のためにベクトル 𝑨x 成分 AxA1y 成分 AyA2z 成分 AzA3 と書く。偏微分についても x=x=1 などとする。ベクトル 𝑨 の 第i成分 Ai[𝑨]i と書く。


ベクトルの外積 𝑨×𝑩 の第i成分 [𝑨×𝑩]i

[𝑨×𝑩]i=j,kεijkAjBk

と書ける。ここで Σ の添字はそれぞれ1から3までの整数値を動くものとする。この規約は以下の文章にも適用する。

実際に、展開して確認すると、

j,kε1jkAjBk=ε123A2B3+ε132A3B2=A2B3A3B2=[𝑨×𝑩]1

j,kε2jkAjBk=ε213A1B3+ε231A3B1=A3B1A1B3=[𝑨×𝑩]2

j,kε3jkAjBk=ε312A1B2+ε321A2B1=A1B2A2B1=[𝑨×𝑩]3

となる。上の式において、 j,kε1jkAjBk を展開すると9つの項が出てくるが、その内の7つの ε1jk が0となるため、2つの項だけが残る。すなわち、j=2,j=3 に対応する項(対応する k{1,2,3} のうち1でも j でもないもの)、 ε123,ε132 の項のみが残る。ε2jk,ε3jk についても同様である。

定理

εijk=|𝒆i𝒆j𝒆k|=𝒆i(𝒆j×𝒆k)=|δ1iδ1jδ1kδ2iδ2jδ2kδ3iδ3jδ3k| が成り立つ。

証明

|𝒆1𝒆2𝒆3|=|100010001|=1=ε123 である。

これと、行列式の性質より、|𝒆i𝒆j𝒆k| は反対称であることから、εijk=|𝒆i𝒆j𝒆k| を得る。

|𝒆i𝒆j𝒆k|=𝒆i(𝒆j×𝒆k) については直接計算すればよい。

基本ベクトルの定義 𝒆i=(δ1iδ2iδ3i) を代入して、|𝒆i𝒆j𝒆k|=|δ1iδ1jδ1kδ2iδ2jδ2kδ3iδ3jδ3k| を得る。


定理

εijkεlmn=|δilδimδinδjlδjmδjnδklδkmδkn|=δil(δjmδknδjnδkm)+δim(δjnδklδjlδkn)+δin(δjlδkmδjmδkl) である。

証明

εijk=|𝒆i𝒆j𝒆k|,εlmn=|𝒆l𝒆m𝒆n| より

εijkεlmn=|𝒆i𝒆j𝒆k||𝒆l𝒆m𝒆n|=|𝒆iT𝒆jT𝒆kT||𝒆l𝒆m𝒆n|=|𝒆iT𝒆l𝒆iT𝒆m𝒆iT𝒆n𝒆jT𝒆l𝒆jT𝒆m𝒆jT𝒆n𝒆kT𝒆l𝒆kT𝒆m𝒆kT𝒆n|=|δilδimδinδjlδjmδjnδklδkmδkn|.

また、 余因子展開をして、 |δilδimδinδjlδjmδjnδklδkmδkn|=δil(δjmδknδjnδkm)+δim(δjnδklδjlδkn)+δin(δjlδkmδjmδkl) を得る。


定理

  1. iεijkεilm=δjlδkmδjmδkl
  2. i,jεijkεijl=2δkl
  3. i,j,kεijkεijk=6

が成り立つ。ここでも のそれぞれの添字は1,2,3を歩くという規約を採用している。

証明

εijkεilm=|1δilδimδjiδjlδjmδkiδklδkm|=(δjlδkmδjmδkl)δil(δjiδkmδjmδki)+δim(δjiδklδjlδki) より

iεijkεilm=i[(δjlδkmδjmδkl)δil(δjiδkmδjmδki)+δim(δjiδklδjlδki)]=3(δjlδkmδjmδkl)(δjlδkmδjmδkl)+(δjmδklδjlδkm)=δjlδkmδjmδkl

i,jεijkεijl=jiεijkεijl=j(δjjδklδjlδkj)=3δklδkl=2δkl

i,j,kεijkεijk=ki,jεijkεijk=k2δkk=6


三重積と四重積

定理

次の式が成り立つ。

  1. スカラー三重積 𝑨(𝑩×𝑪)=𝑩(𝑪×𝑨)=𝑪(𝑨×𝑩)
  2. ベクトル三重積 𝑨×(𝑩×𝑪)=(𝑨𝑪)𝑩(𝑨𝑩)𝑪
  3. スカラー四重積 (𝑨×𝑩)(𝑪×𝑫)=(𝑨𝑪)(𝑩𝑫)(𝑨𝑫)(𝑩𝑪)
  4. ベクトル四重積 (𝑨×𝑩)×(𝑪×𝑫)=[(𝑨×𝑩)𝑫]𝑪[(𝑨×𝑩)𝑪]𝑫
  5. ヤコビ恒等式 𝑨×(𝑩×𝑪)+𝑩×(𝑪×𝑨)+𝑪×(𝑨×𝑩)=0

証明

スカラー三重積の証明

𝑨(𝑩×𝑪)=iAi[𝑩×𝑪]i=i,j,kεijkAiBjCk.𝑩(𝑪×𝑨)=jBj[𝑪×𝑨]j=i,j,kBjεjkiCkAi=i,j,kεijkAiBjCk.𝑪(𝑨×𝑩)=kCk[𝑨×𝑩]k=i,j,kCkεkijAiBj=i,j,kεijkAiBjCk.


ベクトル三重積の証明

[𝑨×(𝑩×𝑪)]i=j,kεijkAj[𝑩×𝑪]k=j,k,l,mεijkAjεklmBlCm=j,k,l,mεkjiεklmAjBlCm=j,l,m(δjlδimδjmδil)AjBlCm=j,l,mδjmδilAjBlCmj,l,mδjlδimAjBlCm=jAjBiCjjAjBjCi=(𝑨𝑪)Bi(𝑨𝑩)Ci

スカラー四重積の証明

スカラー三重積及びベクトル三重積を使うと

(𝑨×𝑩)(𝑪×𝑫)=𝑪[𝑫×(𝑨×𝑩)]=𝑪[(𝑫𝑩)𝑨(𝑫𝑨)𝑩]=(𝑨𝑪)𝑩(𝑨𝑩)𝑪.


ベクトル四重積の証明

ベクトル三重積よりほとんど自明である。

ヤコビ恒等式の証明

ベクトル三重積の公式を代入して計算するだけである。

微分公式

上の表式を用いると、複雑な微分の計算を簡便に行なうことが出来る。

定理

×(f)=0

(×𝑨)=0

が成り立つ。

証明

[×(f)]i=j,kεijkj[f]k=j,kεijkjkf

ここで、εijkijf について、i>j の項は、 εjikjif=εijkijfと打ち消し合う(εijkijf+εjikjif=0)。 i=j の項は εijkijf=εiikiif=0 となるので、結局最後の式は 0 である。

すなわち、×(f)=0 を得る。


(×𝑨)=ii[×𝑨]i=i,j,kiεijkjAk=i,j,kεijkijAk

ここで、εijkijAk について、i>j の項は、 εjikjiAk=εijkijAkと打ち消し合う(εijkijAk+εjikjiAk=0)。 i=j の項は εijkijAk=εiikiiAk=0 となるので、結局最後の式は 0 である。

すなわち、(×𝑨)=0 を得る。


定理

(𝑨×𝑩)=(×𝑨)𝑩𝑨(×𝑩)

×(𝑨×𝑩)=(𝑩)𝑨(𝑨)𝑩+𝑨(𝑩)𝑩(𝑨)

(𝑨𝑩)=𝑨×(×B)+𝑩×(×𝑨)+(𝑨)𝑩+(𝑩)𝑨

が成り立つ。

証明

(𝑨×𝑩)=i,j,ki(εijkAjBk)=i,j,kεijk(iAj)Bk+i,j,kεijkAj(iBk)=(×𝑨)𝑩𝑨(×𝑩).


[×(𝑨×𝑩)]i=j,kεijkj[𝑨×𝑩]k=j,k,l,mεijkεklmj(AlBm)=j,k,l,mεkjiεklmj(AlBm)=j,l,m(δjlδimδjmδil)j(AlBm)=j,l,mδjmδilj(AlBm)j,l,mδjlδimj(AlBm)=jj(AiBj)jj(AjBi)=jBjjAi+jAijBjjBijAjjAjjBi=(𝑩)Ai+Ai(𝑩)(𝑨)BiBi(𝑨)

より、×(𝑨×𝑩)=(𝑩)𝑨(𝑨)𝑩+𝑨(𝑩)𝑩(𝑨) が成り立つ。


[(𝑨𝑩)]i=ji(AjBj)=jBjiAj+jAjiBj.

ここで、[𝑨×(×𝑩)]i=jAjiBj(𝑨)𝑩i が成り立つので[1]、これを第二項に代入する。第一項についても同様の式が成り立つため、これを代入すると結局、 (𝑨𝑩)=𝑨×(×B)+𝑩×(×𝑨)+(𝑨)𝑩+(𝑩)𝑨 が得られる。


定理

(f𝑨)=f𝑨+f𝑨

×(f𝑨)=f×𝑨+f×𝑨

が成り立つ。

証明

(f𝑨)=ii(fAi)=i(if)Ai+if(iAi)=f𝑨+f𝑨


[×f𝑨]i=j,kεijkj(fAk)=j,kεijkjfAk+j,kεijkfjAk=[f×𝑨]i+[f×𝑨]i

定理

×(×𝑨)=(𝑨)𝑨 が成り立つ。

証明

[×(×𝑨)]i=j,kεijkj[×𝑨]k=j,k,l,mεijkjεklmlAm=j,k,l,mεkijεklmjlAm=j,l,m(δilδjmδimδjl)jlAm=j,l,mδilδjmjlAmj,l,mδimδjljlAm=jijAjjjjAi

それぞれの成分について展開すると

[×(×𝑨)]1=1(1A1+2A2+3A3)(12+22+32)A1

[×(×𝑨)]2=2(1A1+2A2+3A3)(12+22+32)A2

[×(×𝑨)]3=3(1A1+2A2+3A3)(12+22+32)A3

である。これは ×(×𝑨)=(𝑨)𝑨 であることを意味する。

これらの計算は、電磁気学等で頻繁に用いられるので、よく練習しておかねばならない。


定理

位置ベクトル 𝒓 について r=|𝒓|=x2+y2+z2 とすると、rn=nrn2𝒓である。

証明

xrn=nrn1xx2+y2+z2=nrn1xr=nrn2x

y,z についても同様である。

すなわち、rn=(nrn2xnrn2ynrn2z)=nrn2𝒓.

極座標系

ここでは、極座標での勾配、発散、ラプラシアンを求める。

極座標では、位置ベクトルは 𝒓=(xyz)=(rsinθcosφrsinθsinφrcosθ) となる。正規直交基底は 𝒆r:=𝒓r|𝒓r|=(sinθcosφsinθsinφcosθ),𝒆θ:=𝒓θ|𝒓θ|=1r(rcosθcosφrcosθsinφrsinθ)=(cosθcosφcosθsinφsinθ),𝒆φ:=𝒓φ|𝒓φ|=1rsinθ(rsinθsinφrsinθcosφ0)=(sinφcosφ0)である。

微小変位ベクトル d𝒓=dx𝒆x+dy𝒆y+dz𝒆z は極座標では、

d𝒓=𝒓rdr+𝒓θdθ+𝒓φdφ=|𝒓r|𝒆rdr+|𝒓θ|𝒆θdθ+|𝒓φ|𝒆φdφ=𝒆rdr+r𝒆θdθ+rsinθ𝒆φdφ

と書ける。

関数 f の全微分 dfdf=dfdxdx+dfdydy+dfdzdz=fd𝒓 となる。

極座標での発散を f=rf𝒆r+θf𝒆θ+φf𝒆φ とすると、df=fd𝒓=(rf𝒆r+θf𝒆θ+φf𝒆φ)(𝒆rdr+r𝒆θdθ+rsinθ𝒆φdφ)=rfdr+rθfdθ+rsinθφfdφ

である。これと極座標での全微分 df=frdr+fθdθ+fφdφ と比較すると、

rf=fr,θf=1rfθ,φf=1rsinθfφ を得る。

すなわち、極座標での発散は f=fr+1rfθ+1rsinθfφ である。


基底ベクトルの微分は、

𝒆rr=0,𝒆rθ=𝒆θ,𝒆rφ=sinθ𝒆φ

𝒆θr=0,𝒆θθ=𝒆r,𝒆θφ=cosθ𝒆φ

𝒆φr=0,𝒆φθ=0,𝒆φφ=cosθ𝒆rsinθ𝒆θ

であることを使って極座標でのベクトル 𝑨 の発散を計算すると、

A=(𝒆rfr+𝒆θ1rθ+𝒆φ1rsinθfφ)(Ar𝒆r+Aθ𝒆θ+Aφ𝒆φ)=𝒆r(Arr𝒆r)+1r𝒆θ(Aθθ𝒆θ+Ar𝒆θ)+1rsinθ𝒆φ(Aφφ𝒆φ+Arsinθ𝒆φ+Aθcosθ𝒆φ)=1r2(r2Ar)r+1rsinθ(sinθAθ)θ+1rsinθAφφ

となる。


また、ラプラシアンに極座標での勾配と発散を代入すると、

f=f=1r2r(r2fr)+1r2sinθθ(sinθfθ)+1r2sin2θ2fφ2

となり、ラプラシアンの極座標表示が得られた。

テンソル代数

テンソルの定義

物理の計算においては、テンソルと呼ばれる量が 頻繁に用いられる。これは3次元における電磁気学の計算や、 古典力学における慣性モーメントなどで用いられるが、 特殊相対論、一般相対論においても用いられる。 ただし、特に一般相対論においては、計量テンソルと呼ばれる 特殊なテンソルが導入されるため、計算が非常に複雑になる。

ここでは、主に3次元のテンソル計算を扱うが、 特殊相対論における計算も少し扱う。

まずは、テンソルを定義する。

あるn次元のベクトルを考える。 このベクトルに対して、一般にあるベクトルからそれと同じ 次元のベクトルに変換するような線形変換を考えることが出来る。

この変換は、そのベクトルを同じ次元のベクトルに変換することから、 n*nの行列で書けることが分かる。

さて、次にこれらのベクトルのいくつかの(m個とする。)直積を取って、 mn個の要素を含む列ベクトルを作ることを考える。 直積の取り方については、物理数学Iを参照。

V×V××V

この操作によってできたmnベクトルは、上の行列によって表わされる n行のベクトルから出来たm次のテンソルの一種となっている。

ただし、一般のテンソルはもう少し複雑で、 既に上で得たベクトルとのつながりを忘れてしまったmn次元のベクトルが 上と同じ様な変換性を持つとき、これを上のベクトルに対する m次のテンソルと呼ぶ。

ここでは、さらにこれらのテンソルが従う変換の行列を 構成することを考える。

ここで、先ほど定めたmn行のベクトルの成分のうち、直積を取られる前は別の ベクトルだった部分のそれぞれが、直積を取られる前と同じように変換するような mn*mn次の変換行列を作りたい。

このためには、先ほど定めたn*nの行列による変換のm回の直積を取って、 mn*mnの行列を作ればよい。 このとき行列の直積の性質

(A1×B1)(A2×B2)=A1A2×B1B2

から、 この行列が先ほどの性質を満たすことが分かる。

ここで、これらの行列やベクトルは添字をうまくつけることによって 書き表すことが出来る。

先ほど述べたうち、元々のベクトルを

Aμ

と書く。 次に、元々のベクトルを変換する行列を

Λμν

と書くと、この行列により変換された後のベクトルは、

Σν=1nΛμνAν

で表わされる。 ここで、行列を添字を用いて計算する方法を使った。

ただし、物理の計算においては、 "同じ式の中に同じ添字が2回出て来たとき、この2つの添字を 足し合わせる"という規約を用いることが多い。 これをEinsteinの規約と呼び、一般相対論でEinsteinが用いてから よく使われるようになった。 この規約を用いると、上の式は簡単に、

ΛμνAν

と書かれる。以下の計算では、常にこの規約を用い、 この規約が適用されないところでは、注意書きを行なうこととする。


さらに、元々のベクトルの直積は、

AμAν

となる。 ただし、ここでは、簡単にするためm=2と定めた。

これらを変換するmn*mn行列は

ΛμρΛνσ

となる。 また、これらの行列によって変換されたベクトルは、

ΛμρΛνσAρAσ

で表わされる。

これらの変換則から一般的なテンソルを構成することが出来る。 例えば、ここでもm =2と定める。上の議論からこの量は 2つの添字を用いて、

Tμν

と書くことが出来、この量が従う変換則は、

ΛμρΛνσTρσ

となることがわかる。この量をある変換Λに対する、 2次のテンソルと呼ぶ。

ここでは、テンソルの代数を定義した。このことを用いて、 ここからはより複雑な微分を見て行く。

多変数関数の積分

多変数関数の積分は1変数の場合の拡張によって定義される。 特に、いくつかの計算は物理的な意味が明確であるので 物理数学においても扱われることが多い。


ガウスの定理

ここで直交座標系を用いた場合について、 ある定理を導出する。 この定理は、ベクトルの発散という量の物理的意味を 与えてくれる点で重要である。

VdxdydzdivA=dsA

が成り立つ。 ここで、左辺の体積積分はある領域について行なわれ、 右辺の表面積分は、その領域を囲む面積全体に対して 行なわれる。

この定理をガウスの定理と呼ぶ。 ガウスは19世紀の非常に有名な数学者の名前である。

導出に移る前に、この定理の意味を述べる。 まずは右辺に注目する。右辺の被積分関数

dsA

は、ある点での面積要素に垂直な

A

の値を表わしている。これは例えば、

A

が、流体力学でいう流体の流れる速度を表わすベクトルだったとするなら、 その流れのうちで今定めた面積要素から流れだす流量を表わしている。

この量を領域Vを囲む表面全体で足し合わせることから、この量は 領域Vから流れ出す流体の流量の和に等しいことが分かる。

ここで、領域Vの中に流体がわきだして来るような場所が合ったとすると、このとき 領域Vから流れ出す流量は、有限になると考えられる。

このためには、左辺で

divA

が流体のわきだしの回りで有限になっていなければならない。

これらのことからベクトルの発散は、

divA

の意味は、ベクトルAのわきだしに対応していることが分かる。 発散という名前は、ベクトルAがどこからか現われて、回りに広がって行く 様子から来ている。

ここからは、この定理の導出に移る。ただし、ここでの導出は直観的なものであり、 局限移行等については数学的に厳密なものではないことを注意しておく。


  • 導出

まず、ある領域Vを非常に小さい立方体の領域viに分割する。 領域Vがどんな形であっても、このことは常に可能だと期待される。

ここで、ある互いに接し合う2つの小さい領域v1v2について この定理が示されたとする。 このとき、領域v1と領域がv2接している面を考える。 それぞれの領域からの寄与は、その点でのベクトルの大きさと その面積要素の大きさが同じであることから同じであると考えられ、 また、それらは互いに接しているので、面積分の性質から見て、 それらの寄与は互いに異なった符合を持っている。

ここで、今考えている領域2つを張りつけて新しい領域 v3を作り、この領域について元の式の左辺を計算すると、 その量は、

v1+v2dxdydzdivA

となる。ここで、右辺についても互いに重なった部分の寄与が打ち消し合うことから、

v3dsA

のようにv3の回りについて元の式の表式が成り立っている。 ここでv3の囲む領域の表面として

v3

という表式を導入した。実際にはこの表式は数学の本から来ており、 物理の本でも割合よく用いられる。

結局、小さい立方体についてこの定理が示されれば、元の領域についても この定理が正しいことが分かった。

次にこのことが実際小さい立方体について正しいことを見る。 立方体の辺の長さをϵとする。 このとき、元の式について

lhs=vdivA=ϵ3divA

となる。

更に、右辺については

rhs=Ax(x+ϵ,y+ϵ/2,z+ϵ/2)ϵ2Ax(x,y+ϵ/2,z+ϵ/2)ϵ2+Ay(x+ϵ/2,y+ϵ,z+ϵ/2)ϵ2Ay(x+ϵ/2,y+ϵ,z+ϵ/2)ϵ2+Az(x+ϵ/2,y+ϵ/2,z+ϵ)ϵ2Az(x+ϵ/2,y+ϵ/2,z)ϵ2

のような表式が得られる。この式は、それぞれの面に対する面積分をあからさまに 積分したものである。ここで、特にそれぞれの面の中心を通るように 積分の点を選んでいる。これは、局限移行をうまく行なうためだが、 もう少し違った点を選んでも結果を得ることは出来る。

次に、上の表式をϵについてテイラー展開する。このとき、

=ϵ2(ϵ(Ax(x,y,z)x))+ϵ2(ϵ(Ay(x,y,z)y))+ϵ2(ϵ(Az(x,y,z)z))

が得られる。 これをまとめると、

=ϵ3divA

が得られるが、これはちょうど左辺からの式と一致している。 よって、小さい立方体についてはこの定理は正しい。

ストークスの定理

次にベクトルの回転の物理的意味を特徴づける定理を扱う。 まずは定理を述べる。

dSrotA=dlA

が成り立つ。 ここで、この式の左辺はある面積Sについて積分し、 この式の右辺は、その面積の外周についての線積分を行なう。 ここでも、ある面積Sの外周のことを、

S

と書くことがある。

この定理をストークスの定理と呼ぶ。 例えば、

A

を流体の速度ベクトルとしてみる。このとき、速度ベクトルをある面積の 外周について積分したとき、その値はその面積内の速度の回転の積分に 等しい。このことは、速度ベクトルの回転が、これらの流体の渦のような ものに対応していることを示している。

実際、流体力学では

rotu

のことを渦度と呼び、流体中の渦の様子を示す重要な量となっている。

この様に、ベクトルの回転はそのベクトルについてある閉じた経路について 積分したものに対応している。

rotA

が全ての点で成り立つ場合、全ての閉経路に対する線積分は0に等しくなる。 これは、流体でいうと渦無しの流れに対応している。

また、この結果は複素解析の線積分の定理の1つに対応しており、その面からも 重要である。複素解析については、物理数学IIで扱う予定である。

  • 導出

まず、ある面積Sを辺の長さがϵに等しい小さな正方形に分ける。 正方形の大きさが十分小さいとき、このことは常に可能であると期待できる。

ここで、互いに接している小さい正方形についてそれぞれの辺からの線積分の寄与は、 大きさが等しく、符合が反対であることが分かる。このことは、線積分の 経路を反時計回りに取るというきまりを守っていると、その辺で接するためには 積分の向きが逆になっていなくてはいけないということによる。

ここで、今挙げた小さな2つの正方形を張り付けた長方形について 同じ計算を行なう。このとき、互いに張りついた1つの辺からの寄与は打ち消し あうので、同じ計算が張りつけた後の長方形についても成り立つ。

このことを繰りかえせば、小さな正方形についてこの定理が成り立ったとき、 元々の領域についてもこの定理が成り立つと期待できる。

さて、ここで、辺の長さがϵに等しい正方形についてこの定理が 成り立っていることを示す。 これらの正方形の各辺に平行になるように、x,y軸を取って

dSrotA=dlA

の左辺を計算すると、

(lhs)=ϵ2rotA(x+ϵ/2,y+ϵ/2)

が成り立つ。 次に右辺について、

(rhs)=ϵ{Ax(x+ϵ/2,y)Ax(x+ϵ/2,y+ϵ)}+ϵ{Ay(x+ϵ,y+ϵ/2)Ay(x,y+ϵ/2)}=ϵ2{Axy+Ayx}=ϵ2rotA

が得られるが、これは右辺の表式と等しい。 よって、小さい正方形についてこの定理は示された。

また、以前の議論からこのとき元の領域についてもこの定理は正しいことが 分かっている。よって、全ての領域について、この定理は正しいことが 示された。

直交座標系でないときの計算

直交座標系でないときにも grad,div,rotを計算することが出来る。 ここではまず、座標系の定義を行なうことから始める。


また、上の議論からこのことは全ての領域Vに対してもこの定理が正しいことを 示している。

この定理は電磁気学で頻繁に用いられる重要な定理である。


  1. この式の導出に困ったらベクトル三重積の導出を参考すること。ただし、微分の扱いに注意すること。ベクトル三重積の導出の六行目までは、Bを∇に読み替えても成立するが、七行目の式変形は成立しない。なぜなら、偏微分とベクトルの成分を入れ替えて iCj=Cji とすることは当然不可能だからである。