「ガロア理論/分離拡大」の版間の差分

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2022年12月7日 (水) 13:24時点における最新版

定義

分離多項式 (分離多項式)

f(X)F[X] が分離多項式であるとは、F の代数閉包において重根を持たない多項式であることをいう。

分離的な元

K/F を体の拡大とし、K¯ を代数閉包とする。αKF 上代数的であり、かつその F 上の最小多項式が K¯[X] において分離多項式であるとき、F分離的であるという。代数的かつ最小多項式が分離的でないなら、その元は非分離的という。

分離拡大 (分離拡大)

体の拡大 K/F分離拡大であるとは、任意の αKF 上分離的であることをいう。

(注) 分離拡大はその定義より代数拡大である。また、L/K,K/F を体の拡大として αLF 上分離的であるなら K 上分離的でもある。

性質

さて、我々はすでにガロア理論/代数拡大で代数拡大についての種々の性質を見た。分離拡大についても同様の命題が成り立つことを予想するのは自然なことであり、そしてそれは実際に正しい。以下ではそれを目標にして、分離拡大の性質を論じる。


命題 1

K=F(α)/F を代数拡大とする。このとき、以下が成り立つ。

(i)  |HomF(K,F¯)|[K:F]
(ii) |HomF(K,F¯)|=[K:F]α が分離拡大である
ただし、HomF(K,L) は、F 上の準同型 KL 全体の集合である。

証明

f(X)F[X]α の最小多項式とする。

ϕ:KF¯ を体 F 上の準同型とする。このとき、f(X)F[X] なので f(ϕ(α))=ϕ(f(α))=ϕ(0)=0.

つまり、ϕ(α)f(X) の根である。ところで、ϕϕ(α) で決まるので(ガロア理論/準備#命題_8)、 |HomF(K,F¯)|= (f(X) の根の個数) degf(X)=[K:F]. なお、最後の等号はガロア理論/代数拡大#命題_2を使った。

したがって、(i) が示された。(ii) について、等号が成立するのは、f(X) の根の個数が degf(X) と一致するとき、かつそのときであり、それは α の分離性の定義そのものである。


命題 2

L/K,K/F を体の代数拡大とし、それらを含む代数閉包 Ω を取る。このとき、|HomF(K,Ω)||HomK(L,Ω)|=|HomF(L,Ω)| である。

証明

全単射 HomF(K,Ω)×HomK(L,Ω)HomF(L,Ω) を構成する。

ϕHomF(K,Ω) に対して、ϕ:KΩ の拡張となっているような同型写像 ϕ¯:ΩΩ が存在する。これは、ガロア理論/代数的閉体#定理_2において、K=ϕ(K),f=ϕ とすれば得られる。

このような対応 ϕϕ¯ を一つ固定する(選択公理を使う)。

さて、HomF(K,Ω)×HomK(L,Ω)HomF(L,Ω) を、(ϕ,ψ)ϕ¯ψ で定める。

逆に、HomF(L,Ω)HomF(K,Ω)×HomK(L,Ω) を、ρ(ρ|K,ρ|K1ρ) で定める。

これらは互いに逆写像であるので、全単射が構成され、命題は示された。


定理 3

(i) K=F(α1,,αn)/F が代数拡大であるとする。各 αiF 上分離的であるなら K/F は分離拡大である。
(ii) L/K,K/F が分離拡大であるなら L/F も分離拡大である。 (iii) K/F を体の拡大とし、α,βK, β0F 上分離的な元とする。このとき α±β,αβ,α/βF 上分離的である。

証明

(i) αK とする。分離拡大の定義の下にある(注)より、F0=F,Fi=F(α1,,αi) としたとき、各 Fi/Fi1 は分離拡大であるから、命題 1 より[Fi:Fi1]=|HomFi1(Fi,Ω)| である。ただし、Ω=K¯ は代数閉包である。
命題 2 と ガロア理論/代数拡大#命題_3-(i) を繰り返し使うことで [K:F]=|HomF(K,Ω)| を得る。同じ命題を使うことで
[F(α):F]=|HomF(F(α),Ω)| を得る。命題 1 より αF 上分離的である。

(ii) (i) と ガロア理論/代数拡大#定理_5 同様の手法で証明される。

(iii) (i) と同様の手法を使う。

判定法

本節では分離性の判定法を議論していく。

定義

A を係数に持つ多項式 f(X)=a0Xn+a1Xn1++an1X+anA[X]微分

f(X)=na0Xn1+(n1)a1Xn2++an1 で定める。

ただし、自然数 maA に対し、ma=a+a++a (m 回) である。

性質

多項式の微分について、以下が成立する。

  • (af(X)+bg(X))=af(X)+bg(X)
  • (f(X)g(X))=f(X)g(X)+f(X)g(X)

分離性を判断する鍵となる命題は、以下の二つである。


命題 4

F を体とし、αF,f(X)F[X] とする。このとき、αf(X) の重根であることと f(α)=0 かつ f(α)=0 であることは同値である。

証明

f(X)α で重根であるとき、f(X)=(Xα)2g(X) と書け、f(X)=2(Xα)g(X)+(Xα)2g(X) であるので、f(α)=0,f(α)=0.

逆に、f(α)=0,f(α)=0 のとき、f(X)=(Xα)2g(X)+aX+b, a,bF と除算すると、f(X)=2(Xα)g(X)+(Xα)2g(X)+a なので f(α)=0 より a=0. また、f(α)=0 より b=0. つまり f(X)=(Xα)2g(X) であり、重根である。

命題 5

F を体とする。f(X),g(X)F[X] が互いに素であることと、f(X)a(X)+g(X)b(X)=1 となる a(X),b(X)F[X] が存在することは同値である。

証明

F[X]ユークリッド整域であることを利用すれば、ユークリッドの互除法 を使うことで f(X)a(X)+g(X)b(X)=gcd(f,g) となる a(X),b(X) が構成できる。ただし、gcd(f,g) は最大公約多項式(すなわち、両方を割り切る次数が最大の多項式)である。詳細は省く。


定理 6

K/F を体の拡大とし、αKF 上の最小多項式を f(X) とする。このとき、αF 上分離的であることと f(X)0 は同値である。

証明

f(X)=0 のとき、f(α)=0 なので命題 4 より α は重根である。つまり、α は非分離的である。逆に、α が非分離的であるならば f(X)a(X)+f(X)b(X)=1 となるような a(X),b(X)F[X] は存在しない。仮に存在したとすると、K[X]f(X)a(X)+f(X)b(X)=1 が成立するが、f(X),f(X) はどちらも Xα で割り切れるので矛盾する。したがって、命題 5 より f(X),f(X) は互いに素ではない。一方、f(X) は既約多項式 (ガロア理論/代数拡大#命題_1より) であり、degf(X)<degf(X) であることから、これは f(X)=0 であることを指し示している。


定義 (完全体)

F完全(perfect)であるとは、任意の代数拡大体が分離的であるような体のことを言う。

定義 (標数)

F標数 (characteristic) p=chF とは、自然に定まる唯一の環準同型 ϕ:F, m1+1++1 (m回) について、ϕ(p)=0 となる最小の非負整数のことを指す。
(注) 体の標数は必ず 0 であるかまたは素数であるかのどちらかである。


系 7

標数が 0 である体は完全体である。


解説

系7によると、分離拡大でない拡大 K/F は、正の標数しかありえない。後のガロア理論/有限体で見るように、有限体の 𝔽pn/𝔽pm という形の拡大は分離拡大であり、非分離拡大の例は頻繁に出てくるというわけではない。試しに非分離拡大を構成してみよう。

素数 p を固定する。F=𝔽p(t) として、K=F[X]/(Xpt) とする。Xptアイゼンシュタインの既約判定法を用いることで、𝔽p[t][X] 内の既約多項式であることが言え、多項式に関するガウスの補題よりF=𝔽p(t)[X] 内の既約多項式であることがわかる。XF[X]/(Xpt)α と書くと、 K=F(α) であり、最小多項式は Xpt であり、微分すると pXp1=0 になる。つまり、K/F は非分離拡大である。

さらに言えば、K/F は純非分離拡大といって、任意の xK は、p 乗すると F に入ってしまう。純非分離拡大などの非分離拡大はガロア理論では対象にされないが、可換体論/非分離拡大で扱われる。