高等学校工業 機械設計/機械要素と装置/ばね

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  • 本分野の予備知識

予備知識として、この分野は、普通科高校の物理科目での、力学のばねに関する知識を予備知識としています。 もし、物理の力学に詳しくなければ、まず物理科目(リンク:「高等学校物理」)からお読みください。

また、機械設計科目内の材料力学に関する知識も予備知識としています。詳しくなければ、まず、材料力学(リンク:「高等学校工業 機械設計/材料の強さ」)に関するページからお読みください。

この節の分野は、材料力学などの知識を用いて、ばねの性質を詳しく解析する科目です。


いろいろなばね

圧縮コイルばね。
引張コイルばね
ねじりコイルばね
重ね板ばね
竹の子ばね
皿ばね

ばね(spring)について、中学校の技術家庭科では、「圧縮コイルばね」と「引張コイルばね」を習っている。

高校の理科の物理学で習うばねは、主に、これら2種の「コイルばね」(coil spring) である。

じつは、ばねには、これ以外にも、さまざまなばねがある。


「コイルばね」の他、「重ね板ばね」、「渦巻きばね」(spiral spring)、「皿ばね」(coned dosc spring) などがある。


また、「コイルばね」にも、じつは「ねじりコイルばね」(helical torsion spring)というのも存在する。


高校の物理では、ばねは主に、モノをつるしたり、振動させたりなどが主な用途であった。

しかし、実際のばねの用途は、それだけではなく、他にも用途がある。

ばねの工業での用途は、下記のように、いくつかある。

・受けた荷重によってばねが伸びる(または縮む)関係をもとに、力(ちから)やトルクなどを測定する用途もある。「ばねばかり」
・エネルギーをたくわえる。時計のゼンマイのように、徐々に力を解放することもできる。
・衝撃をやわらげる。自動車や電車などでも防振装置の部品としてばねが使われる。
ばね座金(ざがね)のように、ほかの部品を押し付けるなどして、なんらかの部品を密着・固定させる用途もある。
※ 上記の4条件の出典は、実教出版の検定教科書のほか、森北出版『機械設計法』にもこの4例の記載あり。

(※ 本単元の範囲外)高校理科の作用・反作用の法則だけで考えると、ばねで振動を吸収して減衰(げんすい)できるのは不思議であるが(エネルギー保存則があるので、ばねの片方の端部で振動を吸収しても、けっしてエネルギーが消えるわけではなく、ばねの反対側の端部に同じ強さの力が伝わるハズ)、しかし実際のばねは、振動をある程度は吸収して減衰することができる。おそらくは摩擦の影響によって振動が減衰するのだろう [1] 、と考えられている。


とはいえ、物理でならうように固有振動数などの共振の問題もあるので、けっして物理の力学で習う式が無駄になるワケではない。(工業高校『機械設計』でも、別の単元で、共振の問題をならう。)

※ ばねには、金属ばねのほかにも、空気ばねなどもあるが、しかし本単元では空気ばねなどの気体の装置は除外する。検定教科書でも、この単元では、空気ばねについては、言及されていない。じつは他の単元で、空気ばねの話題が検定教科書にもある。


材料

ばね用の金属材料でも、要求される特性として、弾性係数の高さ、疲れやクリープへの抵抗の高さが要求されている。(※ この要求特性の出典としては、実教出版の検定教科書のほか、日刊工業新聞社『金属材料基礎工学』(井形直弘 編著)などにも書いてある。)


JIS などに、ばね用の金属材料が定められている。


ばね鋼(spring steel)としてSUPなどが定められている。(型番SUPは範囲外. 検定教科書には無い。)


このほか、ピアノ線(JISの型番は「SWP」)などの金属線を、比較的に小さいコイルばねの線材にする場合もある。(型番は範囲外.)


ステンレスのばね鋼もあり、SUS302などが、ばね用ステンレス鋼線として定められている。(型番は範囲外.)

上記のステンレス系のばね材は、耐熱性・耐食性の要求される場合や、電気用機器などで、もちいられる事がよくある。


(※ 範囲外: )鉄以外にも、黄銅線や「りん青銅線」といった銅系の線材、銅と亜鉛とニッケルからなる洋白の洋白線などがある。(くわしくは森北出版『機械設計法 第3版』塚田忠夫 著)を参照せよ。)


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コイルばね

圧縮コイルばね
テンションコイルばね

まず、考察対象の「ばね」として、円筒形のコイルばね(coil spring)を考える。円錐コイルばねなど別形状のばねは、今回は考えない。ばねの材質は一般の金属として、ばねに掛かる荷重の大きさは、弾性変形の範囲内とする。 また、コイル線の断面形状は円形だと仮定する。世の中には、円形断面の他にも、角形断面のばねも存在するが、今回は考えないとする。

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ねじり応力の式

コイルばねの図。
なお、図ではコイルのピッチをpと表してある。線径dとピッチpを混同しないように。
一般的に、機械製図での文字の方向は、寸法間の矢印の上に寸法値を書くという方向である。

ばねに荷重が掛かって縮んでいる場合、ばね全体で見たら、ばねには圧縮荷重が掛かっている。だが、コイルばねのコイル線の視点から見た場合の荷重の掛かり方は、コイル断面に垂直方向の荷重である、せん断荷重および、ねじり荷重の2種類の荷重である。

ねじり荷重は断面2次極モーメントZpで計算できる。 コイルの線径をd[mm]とすれば、(コイル線径dは、ばね全体の直径Dとは別なので混同しないように。)

Zp=πd316 [mm3]

ねじり応力τの式は、かかる曲げモーメントをMとすれば

τ=MZp [MPa]

で、曲げモーメントMは、荷重をW[N]として、ばね全体の直径をD[mm]とすれば、(ばね全体の直径Dは、コイル線径dとは別なので混同しないように。) 曲げモーメントMの式は、

M=WD2 [N・mm]

である。すると、ねじり応力と曲げモーメントの関係式より、

τ=MZp=WD/2πd3/16=8WDπd3 [MPa]

となる。

これより、コイルばねの、荷重W[N]とねじり応力τ[MPa]の関係式が求まったので、以下に結論をまとめる。

τ=8WDπd3 [MPa]


実際の設計では、応力などを考慮して応力修正係数 κ を下記のように掛け算する。(※ 検定教科書に書いてあるのも、下記のκ(カッパ、ギリシャ文字)つきの式。)

τ=κ8WDπd3 [MPa]


また、応力修正係数Kは、ばね指数 c=Dd をもちいて下記のように求める。

κ=4c14c4+0.615c

(※ 範囲外: )歴史的なことなので暗記は不要であるが、上記のKの式( K=4c14c4+0.615c )は「ワール(Wahl)の式」という。なお「ばね指数」は英語で spring index という。
JISでも上記のワールの式が採用されている。(JIS B 0724)
応力修正係数 κ の値
ワールの式をグラフ化したものである。


※ばね指数 c は、コイルの直径 D とコイルの線径 d との比である[2]

ワールの式の形だけではわかりづらいが、ワールの式を実際にグラフにしてみると、横軸をばね指数としたとき、応力修正係数はおおむね 1.05~1.6の値の範囲内になる。

加工などの理由で、ばね指数の値 c は、慣習的に熱間成形ではに c = 4~15 に[3]、冷間成型では 4~22 の範囲になるように設計する事が多い(※ 工業高校の教科書に記述あり)。この範囲を外れて、cが大きすぎたり小さすぎたりすると、コイルを巻くのが困難になる。文献によっては c=5~10としているものもある[4]

要するに c はおおむね、その程度に設計するのが慣習。

ばね指数の表そのものは3~22までの表がある。

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たわみの式

次にコイルばねのたわみに関して考えよう。 まず、ねじり応力τと、その応力が掛かってる箇所のせん断ひずみγの関係式は、

τ=Gγ [MPa]

である。せん断係数Gは物性値なので計算で求める必要がない。ねじり応力τの関係式は前節で既に求めた。まだ、ねじり応力の具体的な値は求まっていない。ねじり応力の実験値を求めるには、せん断ひずみγを求めれる必要がある。 そしてせん断ひずみは、コイル全体の伸び縮みの変化から求めることになる。なので、コイル全体の伸び縮みの変化である「たわみ」と、線材のひずみとの関係式を求める必要が生じる。 まず、解析の方針として、コイルの巻数をn巻と、しよう。(正確には、有効巻数(ゆうこうまきすう)という。後述。) そして一巻きあたりの「せん断ひずみ」と全体「たわみ」の関係式を求めてから、それを巻き数のn倍すれば全体の「たわみ」になるから、そうして関係式を求めてみよう。

すると、まず、コイル一巻きの線材の長さLと、ばね全体の直径Dの関係式を求める必要が生じる。これは簡単に求まり、

L=πD

となる。これから、さらに、せん断ひずみを求めるには、軸のねじれ角とモーメントの関係式の公式を用いる。(近似的に、ばねのたわみを軸のねじりに見立てる。)すると極断面2次モーメントI_pとねじりモーメントTの関係式が用いられる。その、ねじりモーメントの関係式は、一巻きあたりのねじれ角をθ1とすると、

T=G(θ1/L)Ip

である。なお、単位について、この式のθ1の角度の単位はラジアン単位である。いわゆる弧度法である。[rad]という単位である。 「度」の°とは異なるので混同しないように。 ひずみを求める計算に用いるのは、一巻きあたりのねじれ角のθ1なので、式変形をして、θ1に関した等式に変形する。すると、

θ1=TLGIp

である。

この式のLは既に求めた。コイルひと巻きあたりの長さLは、

L=π D

で、あった。 この式のモーメントTも、既に求めてあって、荷重とねじりモーメントの関係式は

T=WD/2

と求まっている。 次に、Gは物性値なので、解析では求める必要がない。 極断面2次モーメントI_pは、線材の断面形状が円形なので、以下の公式が使えて、

Ip=πd432

である。

これらの、4つの代数をθ1の式に代入しよう。すると、

θ1=TLGIp=WD2πDGπd432=16WD2Gd4

と、なる。ところで、θ1は、一巻きあたりのねじれ角であって、ばね全体の全巻き数のねじれ角の合計ではない。なので、全巻き数合計の、総ねじれ角を求めよう。全巻き数は、n巻と設定してあったので、単純にn倍すれば良い。総ねじれ角θnは、

θn=nθ1=16nWD2Gd4

全体のたわみδnを求めるには、総ねじれ角θnに、ばね全体のコイル半径D/2を掛ければ良い。 なぜなら、一巻きあたりのたわみ量δ1は、

δ1=D2θ1

だから、である。 結局、全体のたわみδnは、

δn=nδ1=nD2θ1=8nWD3Gd4

である。

結論を、まとめると、

δn=8nWD3Gd4

である。


有効巻数

圧縮コイルばねの端部は、すわりを良くするため研削され、不完全巻き数になる。

以上の計算では、ばねの巻き数を単純にn巻きとして説明したが、実際のばねでは、ばねの全ての部分が機能するわけではない。コイル端部の、巻き始めと巻き終わりの部分は、ばねとしては、あまり機能しない。

この、ばねとして機能しないぶぶんの巻き数を「不完全巻き数」という(要 出典)。

ばねとして機能すると考えられる巻き数を有効巻数(ゆうこうまきすう、英:number of active coils)という。 力学解析で、たわみなどを求める際は、このあまりばねとして機能しない不完全巻き数の部分を排除して、有効巻数で計算する必要がある。


(※ 範囲外 : )

圧縮ばねの端部の座巻きの部分や、引張りばねのフックの部分が、ばねとして機能しないと考える。そのため、おおむね 1.5~2巻き ていどがばねとして機能しないと考えるのが通常である。

このため、

有効巻き数 = 見かけの総巻き数 - 1.5

または

有効巻き数 = 見かけの総巻き数 - 2

の式がよく用いられる。

慣習的に、有効巻き数の記号では Na がよく用いられている。

見かけの総巻き数を Nt とすると、

上の日本語の式は

Na = Nt - 1.5
Na = Nt - 2

と記号による数式になる。


コイル端の研削の状態などを根拠にして、上記の式のいずれかを用いるかが、決まっている(詳しくは専門書を読め)。

また、いずれの式を採用する場合でも、有効巻き数は最低でも3以上になるように設計するのが良い[5] [6]、とされている。


※ 検定教科書(実教出版)に、圧縮コイルばねの端部の「オープンエンド」や「クローズドエンド」や研削やテーパの場合の違いなどの図や公式などがある。本wikiでは省略。
引張コイルばねについても、検定教科書では、半フックや逆丸フックの場合の図なども書いてあるが、本wikiでは省略。


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板ばねなど

板ばねの解析方法については、材料力学の断面係数や断面二次モーメントなどを用いた解析方法や公式が、理論的には知られている。

※ 検定教科書に、いくつか公式が天下り的に記載されている。
※ 理論的な背景に興味のある者は、材料力学の専門書を読め。計算だけなら、高校の数学2~3レベルの微分積分の知識と、当科目『機械設計』の材料力学の学力があれば、とりあえずの計算は可能。


ばね以外の減衰装置

複筒式ダンバーの動作図

※ wikiにダンパー内部の図が無いので、専門書や外部サイトなどを参照してください。

ばねで振動を吸収する際、金属ばねだけでは吸収・減衰が不十分なので、車両などの実用的な機械では、流体をもちいたダンパーという減衰装置が取り付けられていることもある。

流体がオイルな場合には、「オイルダンパー」または「油圧ダンパー」ともいう。(※ 実教の検定教科書では「油圧ダンパー」)


原理は、流体抵抗をもちいた、振動の減衰である。

ダンパーの内部構造として細孔(さいこう、オリフィス)がダンパー装置内にあり、この細孔をオイルが通るときの抵抗が速度に応じて、速度が大きくなると流体抵抗も大きくなる性質を利用する。


※ 「空気ばね」といわれる装置も、空気ばねの装置内部にオリフィスがあり、(空気なので気体であるが)その流体抵抗によって衝撃を減衰させる仕組みである。(『機械設計』検定教科書の範囲。)


(※ 範囲外: ) 高校の物理では、微分積分をつかって運動方程式を記述することを発展事項として習う。いちおう、ダンパ抵抗も、微分積分で記述することは可能である。

※ ダンパの微分方程式は省略する。興味があれば、初等的な『流れ学』あたりの本を読めば、たぶん書いてあるだろう。

運動方程式の法則は F=ma で表されるが(Fは力、mは質量、aは加速度)、

ダンパ抵抗は速度vに比例するが、その速度vとは位置xの時間微分であるし、また速度を微分すると加速度aになるので。なので、速度vは結局、位置の1回微分だし、加速度aは位置の2回微分なので、方程式上では高々(たかだか)で2回微分の微分方程式になる。


もっとも、実際の流体の物理現象は複雑であり、方程式の予想どおりに振舞うとはかぎらないので、あくまで大まかな傾向を確認するくらいに式を使うのが良いだろう。最終的には、設計者などは実験によって、これらの製品の特性を確認するべきだろう。


(流体にかぎらず、)重ね板ばねでも同様、各種の方程式では、精度が悪いので、実験によって最終的には確認する必要がある [7]。 (※ 出典には流体のダンパ抵抗のハナシは無いので、冒頭部は丸カッコにした。)


テンプレート:コラム

参考文献・脚注など

  1. 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、49ページ ,, 板ばねによる振動の減衰を摩擦だと断言している
  2. 日本機械学会『機械実用便覧 改訂 第6版』、日本機械学会(発行所)、丸善株式会社(発売所)、2006年9月30日 11刷発行、442ページ
  3. 三田純義・朝比奈奎一ほか『機械設計法』、コロナ社、2015年9月10日 初版第16刷発行、187ページ
  4. 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、48ページ
  5. 三田純義・朝比奈奎一ほか『機械設計法』、コロナ社、2015年9月10日 初版第16刷発行、189ページ
  6. 大西清『機械設計入門』、オーム社、平成28年6月10日 第4版 第2刷発行 、173ページ、
  7. 中島尚正ほか著『機械設計学』、朝倉書店、1998年12月10日 初版 第1刷 発行、49ページ ,, 板ばねによる振動の減衰を摩擦だと断言している