電気回路理論/変圧器

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交流回路では電圧を変化させる電気機器である変圧器(transformer, voltage converter)を用いることがある。変圧器はごくごく単純な原理でできており、この節では変圧器の回路理論的取扱いについて述べる。

変圧器のしくみ

変圧器の構造

変圧器は入力された電圧を定数倍した電圧に変換して出力する電気機器である。入力側を一次側、出力側を二次側と呼ぶ。

変圧器の構成

変圧器は右図のように2つのコイルと鉄心によって構成されている。2つのコイルを鉄心に巻きつけてあり、一次コイルの巻数をn1、二次コイルの巻数をn2とする。

電気回路理論ではいったん鉄心の存在を忘れて、2つのコイルが近接しておかれているものとして考える。より厳密には鉄心による影響も考えなければならないが、これは電気機器学のテキストにゆずることにする。

相互インダクタンス

種々の物理量を次のようにおく。

  • 一次コイルのインダクタンスL1、一次コイルの両端の電圧V1、一次コイルを流れる電流I1
  • 二次コイルのインダクタンスL2、二次コイルの両端の電圧V2、二次コイルを流れる電流I2

さて、一次コイルに電流が流れると、この電流はコイルの周囲に磁束を生じる。一次コイルを流れる電流がつくる磁束をϕ11とすれば、[[../回路素子#インダクタ|インダクタンス]]の定義より

ϕ11=L1I1

である。しかし、2つのコイルが近接しておかれていれば、一次コイルに鎖交する磁束はこれだけではない。二次コイルを流れる電流が作る磁束の一部も一次コイルに鎖交するはずである。これをϕ12とすれば、一次コイルに鎖交する磁束ϕ1

ϕ1=ϕ11+ϕ12

である。ここで、ϕ12は二次コイルを流れる電流が発生する磁束なのだから、二次コイルを流れる電流に比例するはずである。そこでこの比例定数をM12とすれば、ϕ12=M12I2であるから、結局

ϕ1=L1I1+M12I2

となる。同様に、二次コイルを流れる電流が二次コイルの周辺に作る磁束ϕ22と、一次コイルを流れる電流が二次コイルの周辺につくる磁束ϕ21を考えれば、二次コイルに鎖交する磁束ϕ2

ϕ2=ϕ21+ϕ22=M21I1+L2I2

が成り立つ。ここで、2つのコイルに可逆性があればM12=M21である。すなわち、一次コイルに電流を流して二次コイルに生じる磁束と、同じ電流を二次コイルに流したときに一次コイルに生じる磁束は等しい。このときM12=M21=Mとすれば

{ϕ1=L1I1+MI2ϕ2=MI1+L2I2

となる。このM相互インダクタンスと呼ぶ。これに大してL1L2を、それぞれのコイルの自己インダクタンスと呼ぶ。

これによって、各コイルの両端に生じる電圧は、

V1=dϕ1dt=L1dI1dt+MdI2dt
V2=dϕ2dt=MdI1dt+L2dI2dt

となる。複素ベクトルを用いて

Vk=Vk˙ejωt(k=1,2)
Ik=Ik˙ejωt(k=1,2)

とすれば、

{V1˙=jωL1I1˙+jωMI2˙V2˙=jωMI1˙+jωL2I2˙

となる。

理想変圧器の動作

回路図が無いため、しばらく記号で代用します

    →I1   M   →I2 
┌───────┐ ┌───────┐
│+       ・│ │・        │
〜V1      L1 L2       R
│-        │ │       │
└───────┘ └───────┘

図のような変圧器を考えてみよう。回路図中の・記号はドット規約といい、相互誘導による誘導起電力の生じる向きを表すものである。

一次側コイルについて、KVLより

V1˙=jωL1I1˙jωMI2˙

が成り立つ。また、二次側コイルにKVLを適用すれば、

jωMI1˙jωL2I2˙=RI2˙(=V2˙)

となる。2式を連立してI1˙I2˙を求めると、

I1˙=jωL2+RjωRL1ω2(L1L2M2)V1˙
I2˙=Mjω(L1L2M2)+RL1V1˙

である。

物理的な意味はあとで説明するとして、ここでは天下り的に

L1L2=M2

という条件があるものとして計算を進める。これは、この変圧器が理想変圧器であることを表す式である。このとき、

I1˙=jωL2+RjωRL1V1˙=(L2RL1+1jωL1)V1˙
I2˙=MRL1V1˙

となる。

変圧器が理想変圧器である条件の式は、

L1M=ML2=a

と書き直すことができる。この定数aを用いれば、二次側電流は

I2˙=aRV1˙

となり、したがって二次コイルに発生している電圧は

V2˙=RI2˙=aV1˙

となる。理想変圧器は、一次側電圧をa倍した電圧を二次側コイルに発生する。

#aとは、一次コイルと二次コイルの巻数比である テンプレート:Stub

変圧器の等価回路

テンプレート:Stub