多元数/二重数

複素数は$x^2=-1$の正の解$i$を用いて$a+bi$と表されるものであった。

ここでは、同様にして$x^2=0$の非零解$\epsilon$を用いて$a+b\epsilon$と表される数について考える。

二重数

${\epsilon }^2=0,\epsilon \ne 0$を満たす$\epsilon$と$a,b\in ℝ$を用いて$a+b\epsilon$と表される数を二重数（双対数）という。二重数全体は$ℝ$に$\epsilon$を元として加えた集合であり、実数体上の二次元の可換かつ単位的な結合多元環（二元数）の一種である。

定義より${\epsilon }^2=0$であるため、二次以上の項は全て無視できるのが二重数の大きな特徴である。また、$\frac{1}{\epsilon }$は分母分子それぞれに$\epsilon$を掛けると$\frac{\epsilon }{{\epsilon }^2}=\frac{\epsilon }{0}$と零除算が登場してしまうため、$\epsilon$（及びその定数倍）で割る操作は二重数の世界では認められない。

虚数単位と同様に、${\epsilon }^2=0,{\epsilon }^{-1}=\mathrm{n}\mathrm{u}\mathrm{l}\mathrm{l}$. に注意すれば$\epsilon$は通常の文字式と同様の演算が可能である。

すなわち、$a,b,c,d\in ℝ$として以下が成り立つ。

$c\times \epsilon =\epsilon \times c=c\epsilon$

$(a+b\epsilon )+(c+d\epsilon )=(c+d\epsilon )+(a+b\epsilon )=(a+c)+(b+d)\epsilon$

$(a+b\epsilon )(c+d\epsilon )=(c+d\epsilon )(a+b\epsilon )=ac+(ad+cb)\epsilon +bd{\epsilon }^2=ac+(ad+bc)\epsilon$

$\frac{a+b\epsilon }{c+d\epsilon }=\frac{(a+b\epsilon )(c-d\epsilon )}{c^2-d^2{\epsilon }^2}=\frac{ac+(bc-ad)\epsilon }{c^2}$（$c\ne 0$のとき）

$(a+b\epsilon {)}^n=\sum _{r=0}^n\left(\begin{array}{c}n\\ r\end{array}\right)a^r(b\epsilon {)}^{n-r}=a^n+n{a}^{n-1}b\epsilon$

交代的複素数平面

複素数に対して複素数平面を考えたのと同様に、二重数を平面に対応させることを考える。

二重数$a+b\epsilon$に対して点$(a,b)$が対応するようにとった座標平面を交代的複素数平面という。これは通常の複素数平面及び分解型複素数平面と相補的な関係にある。

複素数と同様に$z=a+b\epsilon$に対する共軛二重数を$\overline{z}=a-b\epsilon$、二重数の絶対値を$\sqrt{z\overline{z}}$と定義する。

$\sqrt{z\overline{z}}=\sqrt{a^2-b^2{\epsilon }^2}=\sqrt{a^2}=|a|$より、二重数の絶対値は、その実部の絶対値への射影を表す写像である。

交代的複素数平面における単位円を考える。

単位円は$|a+b\epsilon |=1$を満たす点の集合なので、$|a|=1$を満たす点全体を考えれば良い。そのような点の集合は、平行な2直線$a=\pm 1$である。

テイラー展開は二重数範囲でも同様に成り立つので（証明略）、$e^{b\epsilon }=1+b\epsilon$が成り立つ。

交代的複素数平面における回転は、垂直剪断変換と同値である。