解析学基礎/実数

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はじめに

実数とは何か

実数全体からなる集合は、さまざまな数学を考えるための舞台として基本的なものである。しかし、それにもかかわらず「実数とは何か」という問いに答えるのは案外難しい。たとえば、手近な高等学校の教科書[1]を紐解くと、次のような記述が見つかる。

自然数1,2,3,に、01,2,3,とを合わせて整数という。また、整数m0でない整数nを用いて分数mnの形に表される数を有理数という。
(中略)
整数と、有限小数または無限小数で表される数とを合わせて実数という。実数のうち、有理数でない数を無理数という。

間違ったことは含んでいないようだが、「実数とは何か」という問いの答えとして期待する答えには程遠く感じられないだろうか。「無限小数で表される数」とはどのような数か。ぼんやりとしたイメージを描くことはできなくはないが、「無限」を正しく理解するのは簡単ではない。それゆえに、この表現だけでは数学を展開する確固たる土台とするには心もとない。しかし、ではどうすればよいのだろうか。

  1. 数研出版「改訂版 高等学校 数学Ⅰ」(平成28年2月15日検定済)

この本の構成

この本では、上で提起した「実数とは何か」という問いに、次のような形で答えていきたい。

まず、我々がナイーブに想像する「実数全体の集合」が満たすべき性質としてどのようなものがあるかを列挙していく。その中で、たとえば有理数全体の集合は満たさない、実数ならではといえる性質に注目し、それらの性質が実は同値であることを示す。同値であることが確認できれば、それらのうち好みの1つを公理として採用することで、理論を展開する土台ができたことになる。

その後、公理から簡単に導かれるいくつかの定理を証明し、実数全体の集合や、実数上の実数値関数の性質を理解する。そして最後に、有理数全体の集合をもとにして、公理を満たす実数全体の集合を集合論的に構成してみる。以上をもって、「実数とは何か」という問いに対するある一定の答えを与えるのが、この本の目標である。

順序体

まず、我々の知っている実数について成り立つことが期待される性質を順に挙げていく。この節で挙げる性質をまとめると、実数全体の集合はアルキメデス順序体である、という言葉で表すことができる。

我々の知っている実数には四則演算が定義されていて、常識的な計算法則が成り立つ。つまり、次にあげる体の公理を満たす。

命題2.1.1 実数全体の集合には加法と乗法という二つの演算が定義されていて、次が成り立つ。

(F1) 任意の元x,y,zに対し、(x+y)+z=x+(y+z)
(F2) ある元0が存在し、任意の元xに対し、x+0=0+x=x
(F3) 任意の元xに対し、ある元xoが存在し、x+xo=xo+x=0
(F4) 任意の元x,yに対し、x+y=y+x
(F5) 任意の元x,y,zに対し、(xy)z=x(yz)
(F6) ある元1が存在し、任意の元xに対し、x1=1x=x
(F7) 0でない任意の元xに対し、ある元xrが存在し、xxr=xrx=1
(F8) 任意の元x,yに対し、xy=yx
(F9) 任意の元x,y,zに対し、(x+y)z=xz+yz, x(y+z)=xy+xz
(F10) 01

この10個の公理を満たす集合を一般にという。公理(F3)のxoはふつうxと書く。公理(F7)のxrはふつうx1と書く。実数の集合は体である。他に、有理数全体の集合や、複素数全体の集合も体である。

順序体

我々の知っている実数は、大小を比較することができる。すなわち、次が成り立つ。

命題2.2.1 実数全体の集合にはという二項関係が定義されていて、次が成り立つ。

(O1) x,yxyかつyxを満たすならば、x=y
(O2) x,yxyかつyzを満たすならば、xz
(O3) 任意の元x,yに対し、xyまたはyxの少なくとも一方が必ず成り立つ。

この3つの公理を満たす集合を一般に全順序集合という。実数全体の集合は全順序集合である。のみならず、この順序と加法・乗法が以下のような形で両立する。

命題2.2.2 実数全体の集合において、次が成り立つ。

(O4) x,yxyを満たすならば、任意の元zに対し、x+zy+z
(O5) x,y0xかつ0yを満たすならば、0xy

体である全順序集合がさらにこの2つの公理を満たすとき、一般にこの集合を順序体という。実数全体の集合は順序体である。有理数全体の集合も順序体である。順序体の公理を用いて、順序体で一般に成り立つ命題をひとつ証明してみる。

補題2.2.3 順序体において、01である。

(証明)
01が成り立たないとすると、公理(O3)より10であるから、公理(O4)により01であることがわかる。よって、(1)(1)=1であることに注意すると、公理(O5)より01である。これは矛盾。//

この補題を用いると、複素数全体の集合には順序体になるような順序を考えることはできないことがわかる。本筋からはそれるが、証明してみよう。

(複素数体が順序体でないことの証明)
複素数体が順序体になるとすると、公理(O3)より0iまたはi0である。0iとすると、ii=1であることと公理(O5)より01である。i0とすると、公理(O4)より0iなので、(i)(i)=1であることと公理(O5)より01である。いずれの場合も01なので公理(O4)より10であるから、補題2.2.3と公理(O1)より0=1である。これは公理(F10)に反する。//

アルキメデス性

もうひとつ、アルキメデスの性質と呼ばれる次の性質も重要である。

命題2.3.1 実数全体の集合において、次が成り立つ。

(A) x,yx>0かつy>0を満たすならば、ある自然数Nが存在して、Nx>yである。

この性質を満たす順序体をアルキメデス順序体という。実数全体の集合はアルキメデス順序体である。有理数全体の集合もアルキメデス順序体である。

アルキメデスの性質は、数列の極限と関係がある。ここで、数列の極限が収束するとは、下の意味である。

定義2.3.2 数列{an}が次の条件を満たすとき、{an}α収束するといい、limnan=αと書く。

任意の正の数εに対してある自然数Nが存在し、n>Nならば|anα|<εである。

このように定義するとき、次が成り立つ。

定理2.3.3 アルキメデス順序体において、limn1n=0, limn12n=0である。

(証明)
アルキメデス順序体においては、任意の正の数εに対しある自然数Nが存在して、Nε>1である((A)においてx=ε,y=1とすればよい)。よって、1N<εであるから、n>Nならば|12n|<|1n|<1N<εである。これは、limn1n=0, limn12n=0であることを示している。//

本節のまとめ

以上、この節の内容をまとめると、実数全体の集合はアルキメデス順序体である、ということが言える。だが、それは有理数全体の集合も同じことである。そもそも我々は、実数全体の集合とはどのようなものかはよく知らず、有理数全体の集合における演算や大小関係のことならば知っているという状態なのであった。その状態の我々が、有理数についての知っていることをもとに実数全体の集合をとらえようとしている段階なのだから、有理数全体の集合でも成り立つ性質ばかりが挙がるのは当然のことである。有理数全体の集合は満たさず実数全体の集合ならば満たす性質にはどのようなものがあるかは、次節で見ていきたい。

実数の連続性

本節では、いよいよ実数ならではといえる性質を扱う。それらはいずれも、実数が「ぎっしりたくさん」存在することを主張する命題たちであり、実はすべて同値な命題である。これらの命題によって表現される実数の性質を、「実数の連続性」と呼ぶ。

上限性質

まず、実数からなる集合Aに対して、いくつかの概念を定義しよう。

定義3.1.1 ある実数aが、集合Aの任意の元xAに対してxaを満たすとき、aA上界であるという。同様に、ある実数aが、集合Aの任意の元xAに対してaxを満たすとき、aA下界であるという。

一般に、実数からなる集合に対して上界・下界が存在するとは限らない。上界が存在する集合を上に有界であるといい、下界が存在する集合を下に有界であるという。上に有界かつ下に有界な集合は有界であるという。

定義3.1.2 集合Aの上界aaAを満たすとき、aA最大元という。同様に、集合Aの下界aaAを満たすとき、aA最小元という。

上界・下界が存在するとは限らないので、最大元・最小元も存在するとは限らない。ただし、最大元・最小元は存在すればただ一つであることは、順序の公理(O1)からわかる。

定義3.1.3 集合Aの上界の集合が最小元を持つとき、その元をA上限と呼ぶ。同様に、集合Aの下界の集合が最大元を持つとき、その元をA下限と呼ぶ。

用語の意味を整理するために、例をいくつか挙げよう。

例3.1.4

  1. 閉区間[0,1]={x|0x1}について、1以上の任意の実数は上界であり、0以下の任意の実数は下界である。最大元は1であり、最小元は0である。上限は1であり、下限は0である。
  2. 集合A={x|x2<2}について、2以上の任意の実数は上界であり、2以下の任意の実数は下界である。最大元・最小元は存在しない。上限は2であり、下限は2である。
  3. 自然数の集合={0,1,2,}について、0以下の任意の実数は下界であるが、上界は存在しない。最小元は0であるが、最大元は存在しない。下限は0であり、上限は存在しない。
  4. nを正の整数とするとき、n個の実数からなる集合An={a1,a2,,an}について、ある実数Mn,mnが存在し、Mn以上の任意の実数は上界であり、mn以下の任意の実数は下界である。最大元はMnであり、最小元はmnである。上限はMnであり、下限はmnである。これは数学的帰納法を用いて以下のように示される。最大元について、A1={a1}に対してM1=a1が条件を満たすことはすぐわかる。Mn=akのとき、akan+1ならばMn+1=an+1としそうでなければMn+1=akとすれば、このMn+1は集合An+1に対し条件を満たす。最小元についても同様。
  5. 空集合について、任意の実数は上界であり、任意の実数は下界である。最大元は存在せず、最小元も存在しない。上限は存在せず、下限も存在しない。

ここで用意した用語を用いると、実数の連続性、すなわち実数が「ぎっしりたくさん」存在するという主張は、次のように表現できる。

命題3.1.5 実数からなる空集合でない集合Aが上に有界ならば、Aの上限がの中に存在する。

例3.1.4の1,2,4がこのような例になっていることが容易に確認できる。3,5は上限が存在しないが、3は上に有界ではなく、5は空集合である。

命題3.1.5は、実数ならではの、実数が「たくさん」存在することからいえる性質である。これは、実数よりもずっと「少ない」元しか存在しない有理数の集合について考えてみるとわかる。

定理3.1.6 「有理数からなる空集合でない集合Aが上に有界ならば、Aの上限がの中に存在する」という主張は偽である。

(証明)A={x|x2<2}とする。1Aであり2はAの上界なので、Aは空集合ではなく上に有界な集合である。sがこの集合の上限であると仮定する。0<ε<sを満たす任意の数εに対して0<sε<sなので、上限の定義よりsεAの上界ではなく、したがってsε<aをみたすaAが存在する。よって、(sε)2<a2<2である。εは任意に小さく取れることから、s22である。ところが、s2<2とすると、適当な有理数tが存在してs2<t2<2となり、sが上界であることに反する。よって、s2=2である。ところが、高等学校数学I/数と式#実数で示しているように、s2=2を満たす有理数sは存在しない。//

有界単調数列の極限

この節では、数列が収束するための十分条件を考えたい。そのために、概念をいくつか定義しよう。

定義3.2.1 実数からなる数列{an}の値域{an|n}が有界であるとき、{an}有界な数列であるという。上に有界下に有界も同様に定義する。

定義3.2.2 実数からなる数列{an}が、任意の自然数nに対してanan+1を満たすとき、{an}単調増加であるという。また、任意の自然数nに対してanan+1を満たすとき、{an}単調減少であるという。

このとき、次が成り立つ。この命題も、実は実数の連続性のひとつの表現である。

命題3.2.3 実数からなる上に有界な単調増加数列は、ある実数に収束する。また、実数からなる下に有界な単調減少数列は、ある実数に収束する。

命題3.2.3を用いて、いくつかの数列の極限を考えてみよう。

例3.2.4 数列{an}を次の漸化式で定義する。

a1=2, an+1=12(an+2an)

漸化式より任意の自然数nに対してan>0なので、{an}は下に有界である。相加平均・相乗平均の関係を用いると、さらに任意の自然数nに対してan2であることがわかる。よって、

an+1an=12(an+2an)=an222an0

であるから{an}は単調減少数列である。以上から、命題3.2.3によりこの数列は収束する。極限値limnanαとおくと、limnan+1=αでもあることに注意すると、

α=12(α+2α)

整理すると、

α2=2

すなわち、limnan=2である。

この例は、実数からなる具体的な数列に命題3.2.3を適用した例となっているだけでなく、有理数からなる数列について命題3.2.3は成り立たないことの反例にもなっている。すなわち、

定理3.2.5 「有理数からなる上に有界な単調増加数列は、ある有理数に収束する」や「有理数からなる下に有界な単調減少数列は、ある有理数に収束する」という主張は偽である。

が既に示されたことになる。

もうひとつ、別の例に命題3.2.3を適用してみよう。

例3.2.6 数列{an}an=(1+1n)nで定めると、この数列{an}は収束する。

(証明)
an=k=0nn!nk(nk)!k!k=0nnk(nk)!nk(nk)!k!=1+k=1n1k!1+k=1n12k1=1+2(112n)3
であることから、{an}は上に有界である。また、
an+1an=k=0n+1(n+1)!(n+1)k(n+1k)!k!k=0nn!nk(nk)!k!=1(n+1)n+1+k=0n((n+1)!(n+1)k(n+1k)!k!n!nk(nk)!k!)>k=0n1k!((11n+1)(12n+1)(1k1n+1)(11n)(12n)(1k1n))>0

であることから、{an}は単調増加数列である。よって、命題3.2.3より数列{an}は収束する。//

例3.2.6の数列{an}について、limnan自然対数の底といい、記号eで表す。

区間縮小法

次の命題も、実数の連続性のひとつの表現である。

命題3.3.1 2つの数列{an},{bn}が次の条件を満たすならば、{an},{bn}はともに収束し、limnan=limnbn

任意の自然数nに対してanan+1bn+1bnであり、かつlimn(bnan)=0である。

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理

数列に対して、たとえばその奇数番目の項だけを取り出すなどのように、その一部分を順番を変えずに取り出してできる新しい数列を、元の数列の部分列という。このとき、次の命題が成り立つ。この命題は、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理と呼ばれ、これも実数の連続性のひとつの表現である。

命題3.4.1 実数からなる数列{an}が有界ならば、{an}はある実数に収束するような部分列を持つ。

コーシー列

数列が収束する条件を別の形で言い換えることはできるだろうか。ここで、コーシー列という概念を定義する。

定義3.5.1 数列{an}が次の条件を満たすとき、コーシー列であるという。

任意の正の数εに対してある自然数Nが存在し、m,nNならば|aman|<εである。

収束する数列が必ずコーシー列であることは、次に示すように容易にわかる。

定理3.5.2 数列{an}がある値αに収束するならば、{an}はコーシー列である。

(証明)
{an}αに収束するとき、正の数εを任意にとると、ある自然数Nが存在して、m,nNならば|amα|<ε2,|anα|<ε2である。よって、
|aman|=|(amα)(anα)||amα|+|anα|<ε
である。すなわち、{an}はコーシー列である。//

では、逆は成り立つだろうか。実は、定理3.5.2の逆は成り立つのだが、これもやはり実数の連続性を表す命題なのである。

命題3.5.3 数列{an}がコーシー列ならば、{an}はある値αに収束する。

同値性の証明

本節では、実数の連続性を表現するものとして前節で挙げた5つの命題、命題3.1.5・命題3.2.3・命題3.3.1・命題3.4.1・命題3.5.3が、すべて同値であることを証明する。

Step1

定理4.1.1 命題3.1.5が成り立つならば、命題3.2.3が成り立つ。

(証明)
{an}を実数からなる上に有界な単調増加数列とし、集合AA={an|n}と定める。この集合Aは実数からなる空集合でない集合であり、上に有界なので、命題3.1.5より上限sを持つ。
sAの上限なので、定義より任意の自然数nに対してansが成り立つ。一方、やはり上限の定義より任意の正の数εに対してsεAの上界ではなく、したがってある自然数Nが存在してsε<aNである。さらに、{an}が単調増加数列であることから、n>NならばaNanである。以上を総合すると、任意の正の数εに対してある自然数Nが存在して、n>Nならばsε<aNansである。すなわち、limnan=sである。下に有界な場合は大小関係を逆にして同様に示される。//

Step2

定理4.2.1 命題3.2.3が成り立つならば、命題3.3.1が成り立つ。

(証明)
{an},{bn}を命題3.3.1の条件を満たす数列とする。条件より、{an}は上に有界な単調増加数列、{bn}は下に有界な単調減少数列なので、命題3.2.3よりある実数に収束する。limnan=α,limnbn=βとすると、
β=limnbn=limn((bnan)+an)=0+α=α
である。//

Step3

定理4.3.1 命題3.3.1が成り立つならば、命題3.4.1が成り立つ。

この定理の証明には、高校数学でもおなじみの「はさみうちの原理」を用いる。この本では数列の極限を定義2.3.2で定義するので、まずはこの定義に従ってはさみうちの原理を証明しておこう。

補題4.3.2 数列{an},{bn},{cn}が、すべての自然数nに対してanbncnを満たし、かつlimnan=limncn=αを満たすならば、limnbn=αである。

(証明)
limnan=limncn=αなので、任意の正の数εに対してある自然数Nが存在し、n>Nならば|anα|<ε,|cnα|<εである。よって、
αε<anbncn<α+ε
であるから、|bnα|<εである。すなわち、limnbn=αである。//

この補題を用いて、定理4.3.1を示す。

(定理4.3.1の証明)
数列{an}が有界であるとすると、ある実数b,cが存在して、任意の自然数nに対してbancである。このb,cを用いて、次のようにして数列{bn},{cn}を定める。
  1. b1=b,c1=cとする。
  2. bn+cn2amcnを満たすmが有限個しか存在しないならば、bn+1=bn,cn+1=bn+cn2とする。そうでないならば、bn+1=bn+cn2,cn+1=cnとする。
このように定めた数列{bn},{cn}を用いて、{an}の部分列{ank}を次のように定める。
  1. n1=1とする。
  2. k2のとき、bkamckを満たすmは無限に存在する。そのようなmであってnk1より大きいものの中で最小のものをnkとする。
このように定めれば、{ank}{an}の部分列であり、任意の自然数kに対してbkankckを満たす。ところで、任意の自然数nに対してbnbn+1cn+1cnであり、かつlimn(cnbn)=limn2(cb)2n=0である(定理2.3.3を用いた)。よって、この数列は命題3.3.1の条件を満たすので、命題3.3.1より{bn},{cn}はともに収束し、limnbn=limncnである。よって、はさみうちの原理(補題4.3.2)により、{ank}は収束する。//

Step4

定理4.4.1 命題3.4.1が成り立つならば、命題3.5.3が成り立つ。

定理を示す前に、まずコーシー列の性質をひとつ示しておこう。

補題4.4.2 数列{an}がコーシー列ならば、{an}は有界である。

(証明)
1>0であるから、{an}がコーシー列であるとすると、ある自然数Nが存在して、nNならば|anaN|<1である。すなわち、aN1<an<aN+1である。S={|a1|,|a2|,,|aN1|,|aN1|,|aN+1|}とする。集合Sは有限集合なので最大元Mを持つ。このとき、任意の自然数nに対して|an|Mであるから、Mは集合{|an||n}の上界である。よって、{an}は有界である。//

この補題を用いて、定理を示そう。

(定理4.4.1の証明)
{an}をコーシー列とすると、補題4.4.2より{an}は有界なので、命題3.4.1より収束する部分列{ank}を持つ。limkank=αとする。ε>0を任意にとると、ある自然数Kが存在して、k>Kならば|ankα|<ε2である。
ところで、{an}はコーシー列なので、ある自然数Nが存在して、kNならば|akank|<ε2である(部分列の定義よりnkkであることに注意する)。よって、k>Kかつk>Nならば、
|akα||akank|+|ankα|<ε2+ε2=ε
である。すなわち、limkak=αである。//

Step5

定理4.5.1 命題3.5.3が成り立つならば、命題3.1.5が成り立つ。

(証明)
集合Aは実数からなる空集合でない集合で、上に有界であるとする。集合BAの上界すべてからなる集合とすると、Aが上に有界なのでBは空集合ではない。また、集合C=Bも空集合でない。なぜならば、Aが空集合でないのである元aAが存在するが、このaに対してa1Cだからである。
bB,cCをひとつとる。このb,cを用いて、次のようにして数列{bn},{cn}を定める。
  1. b1=b,c1=cとする。
  2. bn+cn2Cならば、bn+1=bn,cn+1=bn+cn2とする。bn+cn2Bならば、bn+1=bn+cn2,cn+1=cnとする。
このように定めるとき、m,nNに対して
|bmbn|<|bNcN|=2|bc|2N
であるが、定理2.3.3より任意のε>0に対してあるNが存在して2|bc|2N<εなので、{bn}はコーシー列である。よって、命題3.5.3より{bn}はある値αに収束する。{cn}についても同様にコーシー列であるから収束し、またlimn|bncn|=0であることもわかるので、limncn=αでもある。
任意の自然数nに対してbnAの上界なので、任意の元aAに対してabnが成り立つ。よって、aαが成り立つので、αAの上界である。また、任意の数x<αをとると、limncn=αであるから、あるnが存在してx<cnである。このcnAの上界ではないので、xAの上界ではない。よって、αAの上界の集合の最小元、すなわち上限である。//

以上により、5つの命題が同値であることが示された。

アルキメデス性と実数の連続性

前節では、実数の連続性を表す5つの命題が同値であることを証明した。その中では、アルキメデスの性質から導かれる定理2.3.3を用いていることに注意しよう。すなわちこれまでに示されたのは、この5つの命題はアルキメデスの性質を仮定したうえでは同値、ということである。アルキメデスの性質を仮定しない場合、5つの命題は、それ自身がアルキメデスの性質を含意する命題と、アルキメデスの性質とは独立な命題とに分かれており、つまり同値ではない。本節ではこのことについて詳しくみていく。

アルキメデス性の証明(1)

まず、命題3.1.5と命題3.2.3は、それ自身がアルキメデス性を含意していることを示す。

定理5.1.1 命題3.2.3が成り立つならば、命題2.3.1が成り立つ。

(証明)
(A)の否定、すなわち
ある正の数x,yが存在し、任意の自然数Nに対してNxy
が成り立つと仮定する。このとき、数列{n}を考えると、これは単調増加数列であり、またyxが上界なので上に有界であるから、命題3.2.3より{n}は収束する。limnn=αとする。
このとき、数列{n}が単調増加であることから、任意の自然数nに対してnαでなければならない。なぜならば、N>αなるNが存在したとすると、n>Nならばnα>Nα>0となり、limnn=αに反するからである。ところで、1>0よりα1<αであるから、limnn=αよりある自然数Mが存在してα1<M<αである。すなわち、α<M+1である。これは矛盾。よって、(A)が成り立つ。//

系5.1.2 命題3.1.5が成り立つならば、命題2.3.1が成り立つ。

(証明)定理4.1.1と定理5.1.1より従う。//

アルキメデス性の証明(2)

ほぼ同様に、命題3.4.1もそれ自身がアルキメデス性を含意していることが示される。

定理5.2.1 命題3.4.1が成り立つならば、命題2.3.1が成り立つ。

(証明)
(A)の否定、すなわち
ある正の数x,yが存在し、任意の自然数Nに対してNxy
が成り立つと仮定する。このとき数列{n}を考えると、この数列は有界なので、命題3.4.1よりある実数に収束するような部分列を持つ。その部分列を{ni}とし、limini=αとする。
このとき、数列{ni}が単調増加であることから、任意の自然数iに対してniαでなければならない。なぜならば、nj>αなるjが存在したとすると、i>jならばniα>njα>0となり、limini=αに反するからである。ところで、1>0よりα1<αであるから、limini=αよりある自然数kが存在してα1<nk<αである。すなわち、α<nk+1nk+1である。これは矛盾。よって、(A)が成り立つ。//

残る2つの命題、命題3.3.1と命題3.5.3については、この命題からアルキメデスの性質を導き出すことはできないことが知られている。そのことを示すには反例を挙げればよいのだが、その反例は当然実数体ではない別の順序体ということになり、実数を理解するという本筋からは外れることになるので、ひとまずここでは触れないことにしておく。

実数の連続性の帰結

この節では、実数の連続性を用いて、実数上の実数値関数に関する種々の性質を証明していく。以下、この節では実数の連続性を表す命題たちは成り立つものとして議論を進める。

中間値の定理

まず、関数の極限と連続性を定義しておこう。

定義6.1.1 関数f:が次の条件を満たすとき、xaに近づけたときf(x)αに収束するといい、limxaf(x)=αと書く。

任意の正の数εに対しある正の数δが存在し、0<|xa|<δならば|f(x)α|<εである。

定義6.1.2 関数f:

limxaf(x)=f(a)

を満たすとき、fx=aで連続であるという。区間Iに属する任意の数aについてfx=aで連続のとき、fは区間Iで連続であるという。

連続関数について、次のことが成り立つことは定義よりすぐわかる。

補題6.1.3 関数f:x=aで連続であり、数列{an}limnan=aをみたすならば、limnf(an)=f(a)

(証明)
fx=aで連続なので、任意の正の数εに対しある正の数δが存在し、|xa|<δならば|f(x)f(a)|<εである。いま、limnan=aなので、このδに対しある自然数Nが存在し、n>Nならば|ana|<δである。よって、このNに対しn>Nならば|f(an)f(a)|<εであることがわかる。これは、limnf(an)=f(a)であることを示している。//

この補題と実数の連続性を用いて、中間値の定理と呼ばれるおなじみの定理を証明してみよう。

定理6.1.4 関数fは閉区間[a,b]で連続で、f(a)<0,f(b)>0とすると、

f(c)=0, acb

を満たす数cが存在する。

(証明)
次のようにして数列{an},{bn}を定める。
  1. a1=a,b1=bとする。
  2. f(an+bn2)0ならば、an+1=an+bn2,bn+1=bnとする。そうでないならば、an+1=an,bn+1=an+bn2とする。
このように定めると、この数列{an},{bn}は命題3.3.1の条件を満たすので、命題3.3.1よりどちらも収束し、limnan=limnbnである。この極限値をcとする。acbである。
このとき、fの連続性と補題6.1.3より、limnf(an)=f(c),limnf(bn)=f(c)である。ところで、{an},{bn}の定義からすべての自然数nに対してf(an)0,f(bn)>0であるから、limnf(an)0,limnf(bn)0である。よってf(c)0かつf(c)0なので、f(c)=0である。
以上より、このcは定理の条件を満たすcであることがわかった。//

最大値・最小値の存在

関数の最大値・最小値とは、その値域の最大元・最小元のことである。すなわち、次のように定義される。

定義6.2.1 集合Aで定義される関数fについて、実数Mが集合f(A):={f(x)|xA}の上界であり、かつMf(A)であるとき、このMfの最大値という。また、mが集合f(A)の下界であり、かつmf(A)であるとき、このmfの最小値という。

このように定義するとき、次の定理もよく知られている定理であり、高校の教科書では中間値の定理と並んで証明抜きで紹介されている連続関数についての定理である。この定理の証明も、下に示すように実数の連続性を用いてなされる。

定理6.2.2 閉区間[a,b]で定義される関数fが連続ならば、最大値・最小値を持つ。

(証明)
まず、集合f([a,b])が上に有界であることを背理法で示す。そのため、集合f([a,b])が上に有界でないと仮定する。このとき、任意の自然数nに対して、f(an)nを満たす実数an[a,b]が存在する。このanたちを並べた数列{an}を考える。数列{an}は有界なので、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理(命題3.4.1)より収束する部分列{ank}を持つ。limkank=αとおくとα[a,b]であり、したがってfx=αで連続なので、補題6.1.3よりlimkf(ank)=f(α)となるはずである。ところが、任意の自然数kに対してf(ank)nkkであるから、数列{f(ank)}はある実数に収束することはない。これは矛盾。したがって、集合f([a,b])は上に有界である。
集合f([a,b])が上に有界なので、命題3.1.5より集合f([a,b])は上限Mを持つ。Mf([a,b])であることを示したい。Mが上限であることから、任意の自然数nに対して
M1n<f(bn)M
を満たす実数bn[a,b]が存在する。このbnたちを並べた数列{bn}を考える。数列{bn}は有界なので、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理(命題3.4.1)より収束する部分列{bnk}を持つ。limkbnk=βとおくとβ[a,b]であり、したがってfx=βで連続なので、補題6.1.3よりlimkf(bnk)=f(β)となる。ところで、
M1kM1nk<f(bnk)M
であるから、はさみうちの原理(補題4.3.2)よりlimkf(bnk)=Mである。よって、M=f(β)f([a,b])である。
以上より、集合f([a,b])は上限Mを持ち、Mf([a,b])であることが示された。これは、Mが関数fの最大値であることを示している。最小値についても同様に証明できる。//

平均値の定理

次に、微分可能な関数についての重要な定理である平均値の定理を証明しよう。平均値の定理の証明には前節で述べた最大値・最小値の存在定理を用いるので、これもまた実数の連続性から得られる帰結なのである。まず、微分を定義することから始める。

定義6.3.1 関数f(x)について、極限

limxaf(x)f(a)xa

がある値に収束するとき、f(x)x=aで微分可能であるという。その極限値をf(x)x=aにおける微分係数といい、f(a)と書く。区間Iに属する任意の数aについてfx=aで微分可能のとき、fは区間Iで微分可能であるという。

この定義に従って、ロルの定理と呼ばれる次の定理が成り立つことを証明しよう。これは、後で述べる平均値の定理の特別な場合である。

定理6.3.2 関数f(x)は閉区間[a,b]={x|axb}で連続で、開区間(a,b)={x|a<x<b}で微分可能であるとする。さらに、f(a)=f(b)であるとする。このとき、f(c)=0を満たす実数c(a,b)が存在する。

(証明)
f(x)が定数関数のとき成り立つことは明らかであるから、以下f(x)が定数関数でない場合を考える。f(x)は閉区間[a,b]で連続なので定理6.2.2より最大値・最小値を持つが、f(x)が定数関数でないならば最大値・最小値の少なくともいずれかはf(a)と異なる値である。最大値がf(a)ではないときを考え、x=cで最大値をとるとする。c(a,b)である。
f(x)は開区間(a,b)で微分可能なので、特に微分係数f(c)が存在する。つまり、任意の正の数εに対してある正の数δが存在し、0<|xc|<δならば
|f(x)f(c)xcf(c)|<ε・・・①
である。ここで、f(c)は最大値なので、0<|xc|<δを満たすxについてf(x)f(c)0であることに注意すると、x>cのときf(x)f(c)xc0であるから、①が任意の正の数εに対して成り立つことからf(c)0である。一方、x<cのときf(x)f(c)xc0であるから、①が任意の正の数εに対して成り立つことからf(c)0である。以上より、f(c)=0である。//

ロルの定理を用いれば、下に挙げる平均値の定理はすぐに証明できる。

定理6.3.3 関数f(x)は閉区間[a,b]で連続で、開区間(a,b)で微分可能であるとする。このとき、

f(c)=f(b)f(a)ba

を満たす実数c(a,b)が存在する。

(証明)
f(x)が定理6.3.3の条件を満たすとき、関数g(x)=f(x)f(b)f(a)ba(xa)を考えると、g(x)は定理6.3.2の条件を満たし、g(c)=f(c)f(b)f(a)baである。よって、定理6.3.2よりf(c)f(b)f(a)ba=0を満たす実数c(a,b)が存在する。このcについて、f(c)=f(b)f(a)baである。//

次にあげる定理もこれらの定理の亜種で、コーシーの平均値の定理と呼ばれる。

定理6.3.4 関数f(x),g(x)は閉区間[a,b]で連続で、開区間(a,b)で微分可能であるとする。また、g(a)g(b)であり、g(x)=0となるx(a,b)は存在しないとする。このとき、

f(c)g(c)=f(b)f(a)g(b)g(a)

を満たす実数c(a,b)が存在する。

(証明)
f(x),g(x)が定理6.3.4の条件を満たすとき、関数h(x)=(g(b)g(a))f(x)(f(b)f(a))g(x)を考えると、h(x)は定理6.3.2の条件を満たし、h(c)=(g(b)g(a))f(c)(f(b)f(a))g(c)である。よって、定理6.3.2より(g(b)g(a))f(c)(f(b)f(a))g(c)=0を満たす実数c(a,b)が存在する。g(b)g(a)0,g(c)0なので両辺を(g(b)g(a))g(c)で割ると、f(c)g(c)=f(b)f(a)g(b)g(a)である。//

なお、コーシーの平均値の定理との対比を強調するために、定理6.3.3をラグランジュの平均値の定理と呼ぶこともある。

実数の構成

最後に、本書で挙げた性質を満たすような実数の集合を、有理数の集合をもとにして集合論的に構成してみよう。ここでは、有理数からなるコーシー列の集合をある同値関係で割った商集合の元として、実数を定義してみることにする。

コーシー列と完備化

定義7.1.1 集合Aを、有理数からなる数列でコーシー列であるものの集合とする。すなわち、

A={{an}|任意の自然数nに対してanであり、任意の正の数εに対してある自然数Nが存在してm,nNならば|aman|<ε}

とする。この集合A上の関係

{an}{bn}limn(anbn)=0

で定義する。

補題7.1.2 定義7.1.1の関係は同値関係である。

(証明)
(反射律)limn(anan)=0である。
(対称律)limn(anbn)=0ならば、limn(bnan)=limn((anbn))=0である。
(推移律)limn(anbn)=0, limn(bncn)=0ならば、limn(ancn)=limn((anbn)+(bncn))=0である。//

定義7.1.3 定義7.1.1の集合Aと同値関係に対して、

:=A/

と定義する。{an}を代表元とする同値類を[an]と書くことにする。この集合上の加法・乗法・順序を

[an]+[bn]:=[an+bn]
[an][bn]:=[anbn]
[an]<[bn]ある正の数εとある自然数Nが存在して、n>Nならばan+ε<bn

と定義する。

補題7.1.4 定義7.1.3はwell-definedである。

(証明)
(加法)limn(ana'n)=0,limn(bnb'n)=0とするとき、limn((an+bn)(a'n+b'n))=limn((ana'n)+(bnb'n))=0である。
(乗法)limn(ana'n)=0,limn(bnb'n)=0とするとき、limn(anbna'nb'n)=limn(an(bnb'n)+(ana'n)b'n)=0である。(補題4.4.2より{an},{b'n}は有界であることに注意せよ)
(順序)ある正の数εとある自然数N0が存在して、n>N0ならばan+ε<bnが成り立つとする。さらにlimn(ana'n)=0,limn(bnb'n)=0とすると、このεに対しある自然数N1,N2が存在して、n>N1ならばa'n<an+ε3n>N2ならばbnε3<b'nである。すなわち、N=max{N0,N1,N2}とすると、n>Nならばa'n+ε3<an+2ε3<bnε3<b'nである。これは、[an]<[bn]ならば[a'n]<[b'n]であることを示している。//

補題7.1.2により集合が定義できることが、補題7.1.4により集合上に加法・乗法・順序が定義できることがわかった。この構成法のことを完備化と呼ぶ。次節では、このように構成された実数の集合が、実際に実数の公理を満たすことを確認しよう。

公理の証明

定理7.2.1 前節で定義したについて、命題2.1.1が成り立つ。

(証明)
(F1) ([an]+[bn])+[cn]=[an+bn+cn]=[an]+([bn]+[cn])
(F2) 数列{0n}を任意の自然数nに対し0n=0という数列とすると、{0n}はコーシー列で、[an]+[0n]=[an], [0n]+[an]=[an]
(F3) [an]+[an]=[0n], [an]+[an]=[0n]
(F4) [an]+[bn]=[an+bn]=[bn+an]=[bn]+[an]
(F5) ([an][bn])[cn]=[anbncn]=[an]([bn][cn])
(F6) 数列{1n}を任意の自然数nに対し1n=1という数列とすると、{1n}はコーシー列で、[an][1n]=[an], [1n][an]=[an]
(F7) [an][1an]=[1n], [1an][an]=[1n]
(F8) [an][bn]=[anbn]=[bnan]=[bn][an]
(F9) ([an]+[bn])[cn]=[ancn+bncn]=[an][cn]+[bn][cn], [an]([bn]+[cn])=[anbn+ancn]=[an][bn]+[an][cn]
(F10) limn(1n0n)=limn1n=10.//

定理7.2.2 前節で定義したについて、命題2.2.1が成り立つ。

(証明)
(O1) [an]<[bn]かつ[bn]<[an]とすると、ある自然数Nとある正の数εが存在して、n>Nならばan+ε<bn, bn+ε<anより、an+2ε<anとなり不合理。よって[an][bn], [bn][an]ならば[an]=[bn]
(O2) [an]<[bn], [bn]<[cn]とすると、ある自然数Nとある正の数εが存在して、n>Nならばan+2ε<cnとなるので、[an]<[cn]
(O3) [an][bn]とすると、ある正の数εが存在して、任意の自然数Nに対してn>N, |anbn|>εなる自然数nが存在する。一方、{an},{bn}はコーシー列なので、このεに対してある自然数N1が存在して、n,m>N1ならば|anam|<ε3,|bnbm|<ε3である。この自然数N1に対してn>N1, |anbn|>εなる自然数nが存在する。an<bnと仮定すると、an+ε<bnであり、m>N1を満たす任意の自然数mに対して、am<an+ε3,bm>bnε3であるから、am+ε3<an+2ε3<bnε3<bmである。これは、[an]<[bn]であることを示している。同様に、この自然数nに対してan>bnのとき、[an]>[bn]である。//

定理7.2.3 前節で定義したについて、命題2.2.2が成り立つ。

(証明)
(O4) [an]<[bn]とすると、ある自然数Nとある正の数εが存在して、n>Nならばan+ε<bnである。よって、an+cn+ε<bn+cnである。これは、[an]+[cn]<[bn]+[cn]であることを示している。
(O5) [0n]<[an], [0n]<[bn]とすると、ある自然数Nとある正の数εが存在して、n>Nならばε<an, ε<bnである。よって、ε2<anbnである。これは、0<[an][bn]であることを示している。//

定理7.2.4 前節で定義したについて、命題2.3.1が成り立つ。

(証明)
[an]>[0n], [bn]>[0n]とすると、ある自然数Nが存在してn>Nならばan>0, bn>0となる。ここで、an,bnは有理数で、有理数においてはアルキメデスの性質が成り立つことから、ある自然数Mとある正の数εが存在してMan>bn+εとなる。これは、M[an]>[bn]であることを示している。すなわち、命題2.3.1は成り立つ。//

定理7.2.5 前節で定義したについて、命題3.5.3が成り立つ。

(証明)
{an}を実数からなるコーシー列とする。任意の自然数nに対してanは実数なので、ある有理数のコーシー列{b(n)k}が存在してan=[b(n)k]である。ここで{b(n)k}はコーシー列なので、任意の正の数εに対してある自然数Kが存在して、k>Kならば|b(n)Kb(n)k|<ε4である。有理数の列{cn}を、cn=b(n)Kで定める。任意の正の数εに対してある自然数Kが存在して、k>Kならば|cnb(n)k|<ε4であったのだから、|cnan|<ε3である。よって、ある自然数Nが存在して、n,m>Nならば
|cncm|<|cnan|+|anam|+|amcm|<ε3+ε3+ε3=ε
であるが、これは{cn}がコーシー列であることを示している。α=[cn]とする。また、ここで任意の正の数εに対してある自然数N,Kが存在して、n>N,k>Kならば、
|b(n)kck|<|b(n)kan|+|anak|+|akck|<ε3+ε3+ε3=ε

であるが、これはlimnan=[ck]=αであることを示している。//

以上により、前節で定義したは我々の期待する実数の集合であることが示された。

参考文献

この本に記した内容は、解析学の基礎となる内容であり、多くの解析学の教科書に書かれている。一方で、特に数学を専門としない人が解析学を応用するにあたっては直接用いることが少ない割に、大学初年度の学生が学習するにはやや重い内容であり、簡単のためしばしば省略されることも多い内容でもあるため、その行間を埋めることを意図したのがこの本である。したがって読者が他の本を参照したければ解析学の標準的な教科書なら何でもよいのであるが、この本を書くにあたって主に参考としたのは以下の2冊である。

  • 杉浦光夫『解析入門Ⅰ』東京大学出版会<基礎数学>、1980年
  • 加藤文元『大学教養 微分積分』数研出版<数研講座>、2019年

杉浦は定番の教科書であり、実数論のような「細かい」内容からも逃げることなく精密に書かれていることに定評がある。だが、精密な古い教科書であるがために内容が豊富すぎるともいえ、通読する教科書としてはやや重すぎるかもしれない。この本を書くにあたっては、連続性の公理とその同値性の証明を中心に、大いに参考とした。加藤は最近書かれた教科書であり、最近の大学生が高校時代にどの程度の学習をしてきたかを踏まえて書かれている、非常に読みやすい教科書である。この本を書くにあたっては、実数の連続性から導かれる諸命題の証明などの参考とした。