高等学校物理基礎/力学

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小学校・中学校・高等学校の学習高等学校の学習高等学校理科 物理基礎

物体の運動

位置と変位

ファイル:高校物理I 等速直線運動 平均の速度.svg
変位

直線上を物体が運動するとき,直線に沿って座標軸(x軸)をとることで物体の位置(テンプレート:Lang-en-short)を表せる。物体の位置変化を変位(テンプレート:Lang-en-short)といい,時刻t1, t2 (t1<t2)〔単位:s(秒)〕における物体の位置がそれぞれx1, x2〔単位:m(メートル)〕であるとき,変位Δx

Δx=x2x1

であり。変位の大きさが2点間距離を表し,正負の符号が移動方向を表す。

速度

速さ

物体が運動するとき, その移動距離を経過時間で割ったもの, すなわち単位時間あたりの移動距離を速さ(テンプレート:Lang-en-short)という。速さにおいては向きを考えない。運動している物体の移動距離をs, 経過時間をΔtとすると, 物体の速さvは次のように表される。

v=s÷Δt=sΔt. (1.1)

速さの単位は時間と距離の単位によって決まる。よく用いられるのは, m/s(メートル毎秒)である。また, 日常生活では距離の単位をkm(キロメートル), 時間の単位をh(時)とするkm/h(キロメートル毎時)もよく使われる。

速度

速さが同じでも向きが異ならば異なる方向に進む。運動の様子を知るには速さだけでなく向きも考えねばならない。速さに向きの要素を加えたもの,すなわち単位時間あたりの変位を速度(テンプレート:Lang-en-short)という。たとえば、西へ走る40㎞/hの車Aと東へ走る40㎞/hの車Bは速さは等しいが、向きは反対である。このことを表すために正負の記号を利用する。つまり、西を正・東を負とするとAの速度は+40㎞/h, Bの速度は-40㎞/hと表記できる。

このように大きさと向きを持つ量をベクトル(テンプレート:Lang-en-short, 独: Vektor)といい, その記号はvと書く。ただし, 先ほどのように直線上(1次元)においては速度の値に±が書かれている場合には矢印を省略して単にvと書いてもよい。逆に,速さのように大きさのみを持つ量をスカラー(テンプレート:Lang-en-short)という。

なお,平面(2次元)・空間(3次元)上の運動や高度な運動の表し方等は後程説明する。

平均速度と瞬間速度

平均速度と瞬間速度

時刻t1[s]における位置をx1[m], 時刻t2[s]における位置をx2[m](ただしt1<t2)としたとき, 位置の変位はx2x1=Δx, 経過時間はt2t1=Δtで表される。このとき,

v¯=x2x1t2t1=ΔxΔt. (1.2)

(1.2)はある区間における単位時間あたりの変位を表している。こうして求められる速度を平均速度v¯(バーvと読む)という。なお,(1.1)で得られた速さも経過時間における平均の速さである。

このときΔtの値を極めて小さくする(すなわちt2を限りなくt1に近づける)と平均速度v¯は時刻t1における瞬間速度を表す。時刻tにおける瞬間速度vは以下のように位置xの一階微分で求められる。

v=limΔt0ΔxΔt=dxdt.

普通,速度(速さ)は瞬間速度(速さ)をさす。自動車などの速度計に代表される速さの測定器で表示される数値は瞬間の速さである。

等速直線運動

一直線上を一定の速さで進む運動を等速直線運動テンプレート:Lang-en-short)あるいは等速度運動テンプレート:Lang-en-short)という。時刻tにおいて位置x(0)から+x方向に速度vで等速直線運動した物体の位置x(t)は(x(t)xが時刻tの関数であることを表す)

x(t)=vdt=vt+C. (Cは積分定数)

時刻t=0において

x(0)=v0+C=CC=x(0).

したがって

x(t)=x(0)+vt

となる。この初期位置x(0)初期条件(テンプレート:Lang-en-short)である。なお,変位Δx=x(t)x(0)とおくと

Δx=vt.

速度の合成と分解

流れるプールや動く歩道(エスカレーター)を想像すると,流れに乗って動くときと流れに逆らって動くときでは感覚が違うであろう。動く歩道上を(動く歩道の進行方向と同じ向きに)歩く人の速さは,静止歩道上に歩く人の速さよりも大きくなる。これは歩行速度に動く歩道の速度が加わるからである。

直線上での速度の合成

船が川の流れに対して平行に進んでいる場合を考える。静水中の船の速度をv1,地面に対する川の水の流れの速度をv2とするとき,地面に対する船の速度vは次式で表される。

v=v1+v2.

物体の速度vが上式のように表されるとき,速度vv1v2との合成速度といい,合成速度を求めることを速度の合成という。直線上の運動では,どの向きを正とするかを考えてから速度の和を取る。

平面上(2次元)での速度の合成

速度の合成

水が流れている川の上を横切ろうとする船を考える。流水中でも静水中と同じ出力で船が動く場合,静水中での速度がv1の船が水の流れる速度がv2である川の上を横切るとき,地面に対する船の速度vは次式で表される。

v=v1+v2. (1.3)

右図のように,川の流れの速さのぶんだけ船は下流に流される。よって,合成速度の向きは図のように斜めの方向になる。

速度の分解

(1.3)は速度vを速度v1, v2に分ける式と考えることもできる。このような見方を速度の分解といい,分解された速度v1, v2分速度という。

2次元において,速度vをたがいに垂直な座標軸であるx軸,y軸方向へ分解し,それぞれの分速度をvx, vyとする。分速度vx, vyの大きさに座標軸の向きを表す正負の符号をつけたものを,vx成分,y成分といい,それぞれvx, vyとすると,v=(vx, vy)と表せる。このとき,vの大きさ(速さ)をv,vx軸とのなす角をθとすると

vx=vcosθ, vy=vsinθ, v=vx2+vy2.

相対速度

相対速度 電車の中から見た場合

動く物体Aから観測した他の物体Bの速度のことを,Aに対するBの相対速度(テンプレート:Lang-en-short)という。観測者の速度が基準である。

動いている電車の中に観測者がおり,外は雨が降っているとする。電車の中の観測者から見て,雨の速度はどう見えるか? 雨の方向と電車の動く方向とが違う為,ベクトルで考える必要がある。

電車の速度をvAとし,雨の速度(つまり雨の落下速度)をvB とする。この関係をベクトルで表記すると

vAB=vBvA.

加速度

平均加速度と瞬間加速度

速度のグラフの傾き,ある瞬間の速度の増減の度合い,すなわち,単位時間あたりの速度変化を加速度(テンプレート:Lang-en-short)〔単位:m/s 2(メートル毎秒毎秒)〕という。

時刻t1での速度をv1,時刻t2での速度をv2とした場合,単位時間当たりの速度の変化量を表す平均加速度a¯は次式で表される。

a¯=v2v1t2t1=ΔvΔt.

このときΔtの値を極めて小さくする(すなわちt2を限りなくt1に近づける)と平均加速度a¯は時刻t1における瞬間加速度を表す。普通,加速度は瞬間加速度をさす。時刻tにおける(瞬間)加速度aは以下のように速度vの一階微分又は位置xの二階微分で求められる。

a=limΔt0ΔvΔt=dvdt=d2xdt2. (1.4)

等加速度直線運動

滑らかな斜面上で物体を静かに放すと物体は一定加速度で直線運動する。このような運動を等加速度直線運動(テンプレート:Lang-en-short)という。

加速度aで等加速度直線運動をしている物体を考える。時刻tにおける物体の速度v(t)

v(t)=adt=at+C1. (C1は積分定数)

時刻t=0において

v(0)=a0+C1=C1C1=v(0).

したがって

v(t)=v(0)+at (1.5)

となる。更に,時刻tにおける物体の位置x(t)

x(t)=v(t)dt=(v(0)+at)dt=v(0)t+12at2+C2. (C2は積分定数)

時刻t=0において

x(0)=v(0)0+12a02+C2=C2C2=x(0).

したがって

x(t)=x(0)+v(0)t+12at2 (1.6)

となる。これら初速度v(0),初期位置x(0)は初期条件である。

また,(1.5)を変形すると

t=v(t)v(0)a

が得られ,これを(1.6)に代入すると

x=x(0)+v(0)v(t)v(0)a+12a(v(t)v(0)a)2v(t)2v(0)2=2a(x(t)x(0)) (1.7)

が得られる。なお,変位Δx=x(t)x(0)とおくと,(1.6), (1.7)は

Δx=v(0)t+12at2
v(t)2v(0)2=2aΔx

に変形できる。

2次元・3次元における位置・速度・加速度

時刻tにおける位置は2次元においてはr(t)=(x(t), y(t)),3次元においてはr(t)=(x(t), y(t), z(t))と定義される。以下では主に3次元の場合を中心に説明する。

時刻tにおける位置はr(t)=(x(t), y(t), z(t)),微小時間Δt間の変位はΔr=r(t+Δt)r(t)=(Δx, Δy, Δz)と定義される。このとき

v¯=r(t+Δt)r(t)Δt=ΔrΔt

Δt間の平均速度,Δt0の極限

v(t)=limΔt0r(t+Δt)r(t)Δt=dr(t)dt=(dx(t)dt, dy(t)dt, dz(t)dt)=(vx(t), vy(t), vz(t)) (1.8)

を時刻tでの(瞬間)速度という。なお,時刻tでの速さ(速度の大きさ)は

v(t)=|v(t)|=vx(t)2+vy(t)2+vz(t)2.

この場合も,速度から位置が求まり,各成分毎に

x(t)=x(0)+0tvx(t)dt
y(t)=y(0)+0tvy(t)dt
z(t)=z(0)+0tvz(t)dt

が成り立ち,これらをベクトルを用いてひとまとめにして任意の時刻tにおける位置

r(t)=r(0)+0tv(t)dt (1.9)

が求められる。

また,

a¯=v(t+Δt)v(t)Δt=ΔvΔt (Δvは微小時間Δt間の速度変化)

Δt間の平均加速度,Δt0の極限

a(t)=limΔt0v(t+Δt)v(t)Δt=dv(t)dt=(dvx(t)dt, dvy(t)dt, dvz(t)dt)=d2r(t)dt2=(d2x(t)dt2, d2y(t)dt2, d2z(t)dt2) (1.10)

を時刻tでの(瞬間)加速度という。 この場合も,加速度から速度が求まり,各成分毎に

vx(t)=vx(0)+0tdvx(t)dtdt
vy(t)=vy(0)+0tdvy(t)dtdt
vz(t)=vz(0)+0tdvz(t)dtdt

が成り立ち,これらをベクトルを用いてひとまとめにして任意の時刻tにおける速度

v(t)=v(0)+0ta(t)dt (1.11)

が求められる。なお,これら初期条件r(0),v(0)の値を初期値という。

特に,加速度一定のときの運動は等加速度運動(テンプレート:Lang-en-short)といわれ,上記の公式(1.11, 9)はそれぞれ

{v(t)=v(0)+0tadt=v(0)+atr(t)=r(0)+0t(v(0)+at)dt=r(0)+v(0)t+12at2 (1.12)

となる。

落体の運動

自由落下

重力だけが働いて初速度0で落下する運動を自由落下という。

鉛直投射

鉛直投げ下ろし

鉛直下向きにy軸をとり,投げ下ろした時刻をt=0として,物体を投げ下ろした位置をy0,初速度の大きさをv0,時刻tにおける物体の速度をv,位置をyとすると,加速度は重力加速度gであるから

v=v0+gt
y=y0+v0t+12gt2
v2v02=2g(yy0)

が得られる。なお,物体の初速度の大きさv0=0,すなわち物体が前述の自由落下運動をするとき,上3式は

v=gt
y=y0+12gt2
v2=2g(yy0)

となり,自由落下の式が得られる。

鉛直投げ上げ

鉛直上向きにy軸をとり,投げ上げた時刻をt=0として,物体を投げ上げた位置をy0,初速度の大きさをv0,時刻tにおける物体の速度をv,位置をyとすると,加速度は重力加速度gであるから

v=v0gt
y=y0+v0t12gt2
v2v02=2g(yy0)

が得られる。

水平投射

物体をある高さから水平方向に投げ出すことを水平投射という。

物体を水平方向に初速度の大きさv0で投げ出したときの運動を考える。初速度の向きにx軸,鉛直下向きにy軸をとり,時刻tにおける物体の位置をr(t)=(x(t), y(t)),速度をv(t)=(vx(t), vy(t))とする。物体を投げ出した時刻をt=0,物体を投げ出した位置をr(0)=(0, 0)とする。初速度v(0)=(v0, 0)である。x軸方向には正の向きに速さv0の等速度運動,y軸方向には初速度0,正の向きに加速度gの等加速度運動をするから,時刻tにおける物体の加速度a=(dvxdt, dvydt)

a=(0, g).

したがって,(1.12)より

v(t)=v(0)+0tadt=(v0, gt). (vx(t)=v0+0t0dt=v0, vy(t)=0+0tgdt=gt)

これを(1.9)に代入すると

r(t)=r(0)+0tv(t)dt=(v0t, 12gt2). (x(t)=0+0tv0dt=v0t, y(t)=0+0tgtdt=12gt2)

以上より

vx=v0
vy=gt
x=v0t (1.13)
y=12gt2 (1.14)

となる。(1.13)より

t=xv0

となり,(1.14)に代入すると

y=12g(xv0)2=gx22v02 (1.15)

が得られる。

斜方投射

斜方投射

物体を斜め向きに投げ出すことを斜方投射という。

図のように物体を初速度の大きさv0で斜め上向きに投げ出す場合を考える。初速度の水平成分の向きにx軸,鉛直上向きにy軸をとり,時刻tにおける物体の位置をr(t)=(x(t), y(t)),速度をv(t)=(vx(t), vy(t))とする。物体を投げ出した時刻をt=0,物体を投げ出した位置をr(0)=(0, 0)とする。初速度v(0)=(v0cosθ, v0sinθ)である。x軸方向には正の向きに速さv0cosθの等速度運動,y軸方向には初速度v0sinθ,加速度gの等加速度運動をするから,時刻tにおける物体の加速度a=(dvxdt, dvydt)

a=(0, g).

したがって,(1.12)より

v(t)=v(0)+0tadt=(v0cosθ, v0sinθgt). (vx(t)=v0cosθ+0t0dt=v0cosθ,vy(t)=v0sinθ0tgdt=v0sinθgt)

これを(1.9)に代入すると

r(t)=r(0)+0tv(t)dt=(v0tcosθ, v0tsinθ12gt2). (x(t)=0+0tv0cosθdt=v0tcosθ,y(t)=0+0t(v0sinθgt)dt=v0tsinθ12gt2)

以上より

vx=v0cosθ
vy=v0sinθgt
x=v0tcosθ (1.16)
y=v0tsinθ12gt2 (1.17)

となる。(1.16)より

t=xv0cosθ

となり,(1.17)に代入すると

y=v0xv0cosθsinθ12g(xv0cosθ)2=xtanθgx22(v0cosθ)2 (1.18)

が得られる。

(1.15), (1.18)より水平投射された物体や斜方投射された物体の軌跡は放物線になることがわかる。このような運動を放物運動という。

力と運動

物理において,力とは物体を変形させたり物体の速度を変えたりする働きのことである。力の働きは,大きさ・向き・作用点の3つで決まり,これらを力の3要素という。力の大きさの単位にはニュートン(N)を用いる。

なお,本頁では都合上,重力・張力・抗力・弾性力などの力については「様々な力と運動」の節で,作用・反作用については「運動の法則」の節で扱う。

力の合成と分解

ある物体に向きの違う力F1(青矢印)と力F2(青矢印)を加えると物体に加わる合力は図のような(F1, F2を辺とする)平行四辺形の対角線の向きになる。

力の合成

1物体にいくつかの力が同時に働くとき,それらの力を合わせた働きをする1つの力を考えることができる。この力を合力といい,合力を求めることを力の合成という。

同一作用線上の同じ向き,又は逆向きの2力F1, F2の合力Fの大きさはそれぞれの力の大きさの和や差で求められる。また,異なる方向に働く2力F1, F2の合力Fは2力のベクトルを隣合う2辺とする平行四辺形の対角線の矢印に一致する。これを力の平行四辺形の法則といい,このように求めた2力F1, F2の合力Fは次式で表される。

F=F1+F2.

力の分解

2力の分解

1力をそれと同じ働きをするいくつかの力の組に分けることができる。これを力の分解といい,分けられたそれぞれの力を分力という。

力の平行四辺形の法則を用いて,1力Fは任意方向の2力に分解できる。これを繰り返すと,1力を任意方向のいくつかの力に分解できる。力を分解する場合,互いに垂直な2方向に分解することが多い。力Fx軸,y軸の二方向に分解し,それぞれの分力をFx, Fyとする。これらの大きさの向きを表す正負の符号をつけたものを,Fx成分,y成分といい,それぞれFx, Fyと表す。このとき,Fの大きさをF, Fx軸とのなす角をθとすると

Fx=Fcosθ, Fy=Fsinθ, F=Fx2+Fy2.

力のつり合い

2力のつり合い

2力のつりあい

物体に2力F1, F2が働いてつり合うとき,2力は同一作用線上にあり,大きさが等しく逆向きであるから

F1+F2=0.

このことから,2力がつり合うときは,2力の合力は0であることがわかる。

運動の法則

運動の第1法則 慣性の法則

物体に力が働かぬか,又は力がつりあっているとき,その物体は静止又は等速直線運動を続ける。これを慣性の法則と呼ぶ。

運動の第2法則 運動の法則

質量mの物体に働く外力の和がFのとき,物体に生ずる加速度をaとすると,次の運動方程式が成り立つ。

ma=F. (F=ma) (2.1)

なお,(1.4)をを用いて,運動方程式は

mdvdt=F (2.1)
md2rdt2=F (2.1)

とも表される。

運動の第3法則 作用・反作用の法則

2物体A, Bが互いに力を及ぼしあっている(相互作用をしている)とき,

fAB=BがAに及ぼす力
fBA=AがBに及ぼす力

として

fAB=fBA (2.2)

が成り立つ。つまり,AがBに及ぼす力とBがAに及ぼす力は大きさが等しくて向きが逆である。

単位と次元

単位

物理量はすべて,基準量の何倍かを表す数値に単位記号を付けて表す。即ち次の関係がある。

物理量=数値×単位.

力学ではMKS単位系が用いられており,長さはm(メートル),質量はkg(キログラム),時間はs(秒)を基本単位として定めている。この3単位に物理学など科学分野や技術分野で用いられる4単位(電流はA(アンペア),温度はK(ケルビン),物質量はmol(モル),光度はcd(カンデラ))を加えた合計7単位を基本単位として定めたのが国際単位系(SI)である。また,基本単位から導かれる単位を誘導単位(組立単位)とよぶ。

様々な力と運動

キログラム原器。米国で保管されているキログラム原器の複製品の画像。フランスの国際キログラム原器と共通化している。

重力

地球上の全物体には,地球が鉛直下向きに引く力,重力が働いている。質量をm〔kg〕,重力加速度の大きさをg〔m/s 2〕,重力の大きさ(重さないし重量)をW〔N〕とすると,(2.1)より

mg=WW=mg (2.3)

となる。つまり,重力の大きさは質量に比例し,質量m〔kg〕の物体に働く重力の大きさW〔N〕はmg〔N〕である。地球上において重力加速度の大きさgは約9.8m/s 2なので,質量1kgの物体に働く重力の大きさは約9.8Nである。なお,重力加速度の大きさは惑星によっても異なるし,同じ惑星においても緯度により若干変わる。

質量

(2.3)より質量は物体に力が働いた場合の加速度の生じにくさ,即ち慣性の大きさを表す量(慣性質量)であることが分かる。質量は物体固有の量であり,場所によらない。質量の単位である1kgは,国際度量衡局にある国際キログラム原器の質量と定められていたが,2019年5月からプランク定数とよばれる普遍的な定数に基づく定義へと変更された。

束縛力

糸の張力や面の抗力といわれる力は構成している分子間力の合力であるが,通常は伸びぬ糸の張力や固い面が接している物体に及ぼす抗力等は束縛力(拘束力)とよばれ,その大きさは束縛条件(拘束条件)を使って運動方程式を解いてみねば分からぬ未知数として扱われる。

張力

図1
図2

図1のように質量mの物体に鉛直下向きに重力mg,鉛直上向きに伸び縮みのない糸が物体を引く力(張力)Tが働いており,物体の加速度を鉛直上向きにaとすると,運動方程式は

ma=Tmg.

続いて,図2のように水平でなめらかな机上に質量Mの台車があり,その台車に質量の無視できる糸がつながれ,滑車を介して糸の先に質量mの小物体が吊り下げられている場合を考えよう。台車の加速度の大きさをaとおくと,束縛条件より小物体の加速度の大きさもaである。台車が受ける垂直抗力の大きさをNとおくと,台車の運動方程式は(上段が水平方向,下段が鉛直方向)

{Ma=T(*)M0=MgNN=Mg.

小物体の運動方程式は(鉛直方向)

ma=mgT.(**)

(*)+(**)より

(M+m)a=mga=mM+mg.

(*)に代入

MmM+mg=TT=MmM+mg.
アトウッドの器械
アトウッドの器械で吊り下げられている2物体に対する自由体図(en:free body diagram)。

右図のように質量の無視できる糸の両端に質量m1と質量m2の2物体が滑車を介して吊り下げられている場合を考える(ただしm1>m2)。重力加速度をgとすると,質量m1の物体には鉛直下向きに重力W1=m1g,質量m2の物体には鉛直下向きに重力W2=m2gが働いている。質量m1の物体の加速度の大きさをa,質量m2の物体の加速度の大きさをa(一応説明のため),糸の張力の大きさをTとおくと,2物体の鉛直方向の運動方程式は

m1a=m1gT()
m2a=Tm2g()

束縛条件は

a=a.()

()より,質量m2の物体の加速度の大きさはaである(実際はこの程度の束縛条件は自明で最初からaとしてしまって構わない)。よって,()

m2a=Tm2g.()

()+()より

(m1+m2)a=(m1m2)ga=m1m2m1+m2g.

()に代入

m1m1m2m1+m2g=m1gTT=2m1m2m1+m2g.

抗力

静止摩擦力と抗力

面や線に沿って運動する物体に面又は線が及ぼす力を面又は線の抗力という。抗力の面に垂直な成分或いは法線方向の分力を垂直抗力,面に平行な成分或いは接線方向の分力を摩擦力という。

静止摩擦力

静止摩擦力は,静止している物体を外から引く力に応じてその大きさを変化させ,摩擦がなかったならば物体が行うであろう運動を妨げる向きに働く。その最大値を最大静止摩擦力或いは最大摩擦力といい,最大摩擦力の大きさは垂直抗力に比例することが分かっている。静止摩擦力,最大摩擦力の大きさをそれぞれF, Fmax,静止摩擦係数をμ,垂直抗力の大きさをNとおくと

FFmax=μN. (2.4)
動摩擦力
動摩擦力
物体を引く力と、摩擦力との関係

物体に働く外力が最大摩擦力を越えると,動摩擦力が働く。動摩擦力は物体の運動を妨げる向きに働き,その大きさは垂直抗力に比例する。動摩擦力をF,動摩擦係数をμとおくと

F=μN. (2.5)

なお,動摩擦係数は静止摩擦係数より小さい,即ち動摩擦力は最大摩擦力より小さいことが分かっている。

弾性力

フックの法則
フックの法則
フックの法則

ばねに何も力が加わっていないときのばねの長さをばねの自然長という。一端を固定したばねの他端にばねが伸びる方向に力を加えるとばねは伸び,逆にばねが縮む方向に力を加えるとばねは縮む。その際ばねは自然長に戻ろうとする性質があり,このような力を加えたときに生じた変形が力を加えるのを止めると元に戻る性質を弾性(テンプレート:Lang-en-short)という。この弾性に基づいて生ずる力を弾性力(テンプレート:Lang-en-short)という。ばね弾性力はばねの両端で,自然長に向かう向きに働き,その大きさはばねが自然長から伸び縮みした距離に比例しこれをフックの法則(テンプレート:Lang-en-short)という。ばねが伸びる方向にx軸をとり,ばねの自然長の位置を原点にし,ばねの位置をx〔m〕,ばね定数をk〔N/m〕とすると,ばねの弾性力F〔N〕は

F=kx. (2.6)

なお,これは復元力ともよばれる。また,ばねの伸び縮みがあまりにも大きくなるとこれは成り立たなくなる。

圧力

単位面積あたりに垂直に加わる力を圧力(テンプレート:Lang-en-short)という。面積S[m 2]の面に対して垂直に大きさF[N]の力が加わるとき,圧力をP[Pa又はN/m 2]とおくと

P=FS (2.7)

である。単位のPaはパスカルといい,1Pa=1N/m 2である。

水圧

水圧の説明図。水深が深くなるほど、比例して水圧が強くなる。水圧の方向は、物体の面に垂直方向に働く。

水による圧力を静水圧又は水圧という。空気や水のような気体や液体はまとめて流体といい,静止流体中の任意の点を通る1つの面を考えるとき,この面についてのその点の静水圧はつねに面に垂直な圧力で,しかも同一の点では考える面の向きによらず等しい圧力を持つ。

水圧,大気圧をそれぞれp, p0,水の密度をρとおく。水中の鉛直方向の長さdz,底面積Aの微小円柱における力のつり合いは,鉛直下向きを正とすると

0=pdA(p+dpdzdz)dA+ρgdAdzdpdzdzdA=ρgdAdz
dpdz=ρg.

両辺をzで積分すると

dpdzdz=ρgdzp=ρgz+C (Cは積分定数)

水の表面,すなわちz=0においてp0=ρg0+CC=p0であるから上式に代入して深さh,すなわちz=hにおける水圧は

p=p0+ρgh (2.8)

である。

浮力

プールに入ると,体が軽くなったように感ずることがある。流体の内部にある物体の表面には流体からの圧力が作用する。圧力は深い程大きいから流体中の物体に作用する圧力の合力は上向きになり,この合力を浮力(テンプレート:Lang-en-short)という。浮力は物体のところにあった流体に作用する重力とつり合っていたので,一般に流体中の物体に作用する浮力の大きさはその物体が押しのけた流体に作用する重力の大きさに等しい。これをアルキメデスの原理(テンプレート:Lang-en-short)という。

抵抗力と終端速度

実際の身の回りの運動では空気抵抗が無視できぬことが多い。空気や水など流体の抵抗とは流体中で物体の運動を妨げる向きに作用する力のことを指す。物体の速さが小さな間は流体中を運動する物体の受ける抵抗力の大きさFは速さvに比例するから

F=kv (kは定数) (2.9)

と表せる。速さvに比例する抵抗を粘性抵抗という。

以下では風のない空気中を時刻tにおける速さv(t)に比例する抵抗力kv(t)を受けながら鉛直下方に落下する質量mの物体の運動を考える。鉛直下向きにy軸をとり,重力加速度の大きさをgとおくと,物体の運動方程式は

mdv(t)dt=mgkv(t)
dv(t)dt=gkmv(t)=km(mgkv(t))1mgkv(t)dv(t)dt=km.

両辺を時刻tで積分すると

1mgkv(t)dv(t)dtdt=kmdt
dv(t)mgkv(t)=kmt
log|mgkv(t)|=kmt+C. (Cは積分定数)

物体は鉛直下向きに加速するからmgkv(t)>0より

log(mgkv(t))=kmtCmgkv(t)=ekmtCv(t)=mgkekmtC.

ここでeC=Aとおくと

v(t)=mgkAekmt. (2.10)

t=0において(境界条件)

v(0)=mgkAekm0A=mgk. (v(0)=0)

これを(2.10)に代入して

v(t)=mgk(1ekmt). (2.11)

したがって終端速度(テンプレート:Lang-en-short)は

limtv(t)=mgk. (2.12)

ちなみにこの物体の時刻tにおける物体の位置は

y(t)=y(0)+0tv(t)dt=y(0)+0t{mgk(1ekmt)}dt=y(0)+mgk[t+mkekmt]0t=y(0)+mgk(t+mkekmtmk).

雨は地上より非常に高いところから降ってくるが,雨滴の速さが大きくなり過ぎぬのはかなり上空で既に終端速度に達しているからと考えられる。

仕事とエネルギー

仕事

物理では,物体に力を加えて動かしたとき,力は物体に対して仕事をした」という。

運動エネルギー

運動エネルギーと仕事(1次元)

1次元空間(x軸上)の運動を考える。運動方程式

mdvdt=F (2.1)

v=dxdtを掛けて

mvdvdt=Fdxdt.

両辺をt=t1からt=t2まで積分すると

t1t2mvdvdtdt=t1t2Fdxdtdtt1t2mvdv=t1t2Fdx.

時刻t=t1のときv=v1, x=x1,時刻t=t2のときv=v2, x=x2と考えてtt1t2vv1v2xx1x2とすると

v1v2mvdv=x1x2Fdx12mv2212mv12=x1x2Fdx. (3.1)(≪注≫ Fは一定とは限らぬから右辺は積分実行できない)

この12mv2運動エネルギー(テンプレート:Lang-en-short)という。特に,力Fが一定のとき

12mv2212mv12=F(x2x1). (3.1a)

(3.1)の右辺は力Fのした仕事を表している。ゆえに(1次元においては)運動エネルギー変化は仕事に等しいエネルギーの原理)という因果関係が分かる。

運動エネルギーと仕事(2・3次元)

力が一定の場合

力の向きと動かす向きが違う場合

まず力Fが一定の場合を考える。時刻tにおいて速度v(t)で運動する質量mの物体の運動方程式

mdv(t)dt=Fdv(t)dt=Fm=一定.

これと(1.12)より時刻0tにおける運動エネルギー変化はこの間の物体の変位をΔr=r(t)r(0)として

12mv(t)212mv(0)2=12m(v(0)+0tdv(t)dtdt)212mv(0)2=12m{2v(0)dv(t)dtt+(dv(t)dtt)2}=mdv(t)dt(v(0)t+12dv(t)dtt2)=mdv(t)dt(r(t)r(0))=FΔr. (3.2)

ここでFΔrとのなす角をθとすると,この間に力Fがした仕事W

W=FΔr=|F||Δr|cosθ (3.2a)

と与えられる。なお仕事の単位はJ=N・mである(ジュール)。

位置エネルギー

仕事が始点と終点のみで決まり,経路によらぬ力を保存力(テンプレート:Lang-en-short)(例:重力,弾性力,万有引力,静電気力等),その他の力(仕事が経路による力)を非保存力(例:摩擦力等)という。 保存力の場合,始点r0を決めるとその始点r0を基準とした終点rでの保存力fC位置エネルギー(テンプレート:Lang-en-short)U(r)が決まる。

U(r)=r0rfCdr. (3.3)

重力による位置エネルギー

鉛直上方にy軸をとり,y=0の点を基準としたy=hでの質量mの物体の位置エネルギーUは,重力加速度をgとすると,重力はmgであるから

U=0h(mg)dy=mgh. (3.4)

また,時刻tにおいてy=y(t)の位置にある質量mの物体の時刻t=0からt=tまでの位置エネルギー変化ΔUは,重力加速度をgとすると

ΔU=y(0)y(t)(mg)dy=mg(y(t)y(0)). (3.4a)

弾性力による位置エネルギー

弾性力と位置エネルギー
弾性エネルギーの差

右図のように壁に取付けられたばね定数kのばねにつながれた質量mの物体において,水平方向右向きにx軸をとり,ばねの長さが自然長のときの物体の位置を原点とする。物体がxの位置にあるとき,運動方程式

md2xdt2=kx.

よって,原点を基準とした位置xでの物体の位置エネルギーU

U=0x(kx)dx=12kx2. (3.5)

なお,この弾性力による位置エネルギーを弾性エネルギー(テンプレート:Lang-en-short)ともいう。また,時刻tにおいてx=x(t)の位置にある質量mの物体の時刻t=0からt=tまでの位置エネルギー(弾性エネルギー)変化ΔU

ΔU=t1t2(kx(t))dx=12kx(t2)212x(t1)2. (3.5a)

力学的エネルギー保存

落下運動と力学的エネルギー

運動エネルギーと位置エネルギーの和を力学的エネルギー(テンプレート:Lang-en-short)という。運動エネルギー,位置エネルギー,力学エネルギーをそれぞれK, U, Eとおくと

E=K+U. (3.6)

右図のように質量mの物体を地上からの高さh2から高さh1まで落下させるとする。物体には鉛直下向きに重力mg(保存力)が働いている。(3.1a)より

12mv1212mv22=mg(h1h2)12mv12+mgh1=12mv22+mgh2.

上式の同値変形後の式を見ると,h1地点での物体の運動エネルギーと位置エネルギーの和がh2地点での物体の運動エネルギーと位置エネルギ-の和が等しい,すなわち保存力場での質点の運動は力学的エネルギーが一定であることが分かる。

E=K+U=一定.(3.7)

これを力学的エネルギー保存則(テンプレート:Lang-en-short)という。