線型代数学/行列と行列式/第三類/内積

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中等課程では,ab の内積 ab を, 矢印ベクトル ab のなす角を θ として,

ab=|a||b|cosθ

と定義した. これは平面ベクトルの場合でも,空間ベクトルの場合でもそうだった. また,この式が成分計算では成分ごとの積の和に等しいこと(例えば, a=(a1a2),b=(b1b2) であれば,ab=a1b1+a2b2)を、余弦定理などにより示した[1]

線形代数では,成分計算の定義の方が先になる.成分で定義しておけば,次元が 4 次以上のときベクトルのなす角のことを想像しなくても済む.


定義2 内積と大きさ

n 次元実数ベクトル 𝐚=(a1an)𝐛=(b1bn) に関して、内積、大きさを次のように定める.

内積 𝐚𝐛 は,𝐚𝐛=(a1an)(b1bn)=a1b1+a2b2+a3b3++anbn.…①

𝐚 の大きさ |𝐚| は, |𝐚|=a12+a22+a32++an2.…②

すると,|𝐚|2=𝐚𝐚 が成り立つ.…③

また,𝐚0,𝐛0 である 𝐚,𝐛 について,𝐚𝐛=0 のとき,「𝐚𝐛 は直交する」といい,「𝐚𝐛」と書く.

n=2,3 のとき,a の大きさ |a| は,矢印ベクトルで言えば始点から終点までの長さを表していた. n4 以上の場合もこれに倣って,同じような成分計算で表された |𝐚| を大きさというわけである.


こうして定義した内積に関して,次のような計算法則が成り立つ.これも平面ベクトル・空間ベクトルでの経験から納得してもらえるだろう.


定理2 内積の計算法則

n 次元ベクトル 𝐚,𝐛,𝐜 と実数 k に関して次が成り立つ.

(1) (k𝐚)𝐛=k(𝐚𝐛)=𝐚(k𝐛)

(2) 𝐚(𝐛+𝐜)=𝐚𝐛+𝐚𝐜

(3) (𝐚+𝐛)𝐜=𝐚𝐜+𝐛𝐜

証明

(1) の証明.(k𝐚)𝐛=i=1n(kai)bi,k(𝐚𝐛)=ki=1naibi,𝐚(k𝐛)=i=1nai(kbi).そして i=1n(kai)bi=ki=1naibi=i=1nai(kbi) より (k𝐚)𝐛=k(𝐚𝐛)=𝐚(k𝐛)

(2)の証明.𝐚(𝐛+𝐜)=i=1nai(bi+ci)=i=1n(aibi+aici)=i=1naibi+i=1naici=𝐚𝐛+𝐚𝐜

(3)の証明.(𝐚+𝐛)𝐜=i=1n(ai+bi)ci=i=1n(aici+bici)=i=1naici+i=1nbici=𝐚𝐜+𝐛𝐜

0 でないベクトル 𝐚 をその大きさで割ったベクトル 1|𝐚|𝐚 は,大きさが 1 になる.

|1|𝐚|𝐚|2=(1|𝐚|𝐚)(1|𝐚|𝐚)[2]=1|𝐚|2(𝐚𝐚)[3]=1|𝐚|2|𝐚|2=1
|1|𝐚|𝐚|=1


±1|𝐚|𝐚 のことを単位化したベクトル,あるいは正規化したベクトルという.

平面ベクトルと空間ベクトルでの内積の定義は ab=|a||b|cosθ であった. ここで,定義よりも突っ込んだ内積の図形的な意味を確認しておく.

a=OA,v=OB として図を描く. A から 直線 B に下ろした垂線の足を H とする. OB を左回りに回転して OA に重なる角を θ とする.[4]

OB に数直線[5]を重ね合わせ, O に数値 0 を割り当て目盛りを振ると,H の目盛りは三角関数の定義から、 OAcosθ となる.

内積の式は,

ab=(|a|(cosθ)|b|=(OAcosθ)OB=(H の目盛り )×OB

と見なすことができる.

特に b が単位ベクトル e のときを考える.b をあらためて e とおく.

OB=|b|=|e|=1 だから aeH の目盛りを表すことになる. a と単位ベクトル e との内積は ae 方向の成分を表している.


定理3 ab の意味

OA=a,OB=e,e は単位ベクトルとする.直線 OB に重ねた数直線に A から下ろした垂線の足を H とすると、

ab=(H の目盛り)

証明 すでに記述した.


  1. 平面上の三角形 OAB,AB において,OAOB の成す角を θ と置くとき,
    OAOB の内積を OAOB=|OA||OB|cosθ …① と定義する.
    このとき余弦定理により |AB|2=|OA|2+|OB|22|OA||OB|cosθ…②
    また,OA の成分表示を OA=(axay),同様に OB=(bxby)
    とすれば,①②をもとに内積 OAOB=axbx+ayby であることを以下に示す.すなわち

    ①②より
    |AB|2=|OA|2+|OB|22OAOB
    OAOB=12(|OA|2+|OB|2|AB|2)…③
    ここで③の右辺の |OA|2,|OB|2,|AB|2 を成分表示に展開すると、
    |OA|2=ax2+ay2,  |OB|2=bx2+by2,  |AB|2=(axbx)2+(ayby)2
    すなわち、
    OAOB=12{ax2+ay2+bx2+by2(axbx)2(ayby)2}
    =12{ax2+ay2+bx2+by2(ax2+bx22axbx+ay2+by22ayby)}
    =12{ax2+ay2+bx2+by2(ax2+bx22axbx+ay2+by22ayby)}
    =axbx+ayby

  2. ( 定義2③)
  3. (1|𝐚|𝐚)(1|𝐚|𝐚)=1|𝐚|(𝐚(1|𝐚|𝐚))(定理2(1)第1項と第2項 ) =1|𝐚|(1|𝐚|(𝐚𝐚))(定理2(1)第2項と第3項) =1|𝐚|2(𝐚𝐚)(式の整理)
  4. ab とのなす角を θ とする」をより正確に記述した.
  5. 「目盛りがついたものさし」のイメージである.