線型代数学/計量ベクトル空間

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このページでは、2、3次元の数ベクトルの長さや内積を拡張し、一般の線型空間のベクトルについても、長さ(ノルム)や内積を定義する。

2、3次元の数ベクトルの場合は、高等学校数学B ベクトルを参照のこと。

数ベクトルのノルム・内積

ノルム

ベクトルには大きさも定義される。ふつうそれは||a||で表され、

||𝐚||=i=1n|ai|2

と定義される。これをaのノルム (norm)と言う。

𝐚=(35624)
||𝐚||=32+52+62+22+42=310

演習

次のベクトルのノルムを求めよ
  1. 𝐚=(24863)
  2. 𝐚=(aa3a3a)

内積

ここでは実ベクトルの場合に関して述べる。

(𝐚,𝐛)=i=1naibi

ab内積 (inner product)という。

特に2,3次元空間ベクトルabとの内積は、abのなす角をθとすると、

(𝐚,𝐛)=|𝐚||𝐛|cosθ

と表される。逆に、一般のn次元実ベクトルのなす角という概念を、この関係式によって定義することができる。

内積については、次の性質が成り立つ。いずれも証明は易しい。

  • (a,a)=||a||2
  • abが直交する⇔(a,b)=0[1]
  • c(a,b)=(ca,b)=(a,cb)
  • (a,b+c)=(a,b)+(a,c)
  • (a+b,c)=(a,c)+(b,c)
  • (a,b)=(b,a)
  • ||a||+||b||≧||a+b||(三角不等式)
  • |(a,b)|≦||a||||b||(シュワルツの不等式)
  1. なす角について上で述べたのと同様に、これは二次元・三次元の実ベクトルについては「性質」である。逆に、それ以外のベクトルではこれは直交の「定義」である。

演習

空間ベクトル

𝐱=(111)

とのなす角がπ6であり、かつ

𝐲=(114)

とのなす角がπ4であるようなノルムが1のベクトルを求めよ。

注)そのようなベクトルはただひとつではない。

, 上の線型空間でのノルム・内積

次に、上で書いたような数ベクトルのノルム・内積の概念をさらに拡張しよう。

定義

 Vまたは上の線型空間とする。(以下、𝐊 は一般の体ではなく、実数体 または複素数体 を指すことにする )

𝐱,𝐲 V に対して、𝐊 の元をかえすような演算(𝐱,𝐲)が次の(Ⅰ)(Ⅳ)の性質をみたすとき、(𝐱,𝐲)内積という。

(Ⅰ)(𝐱,𝐲1+𝐲2)=(𝐱,𝐲1)+(𝐱,𝐲2)
(𝐱1+𝐱2,𝐲)=(𝐱1,𝐲)+(𝐱2,𝐲)
(Ⅱ)(c𝐱,𝐲)=c(𝐱,𝐲),(𝐱,c𝐲)=c¯(𝐱,𝐲)
c¯ c の複素共役)
(Ⅲ)(𝐱,𝐲)=(𝐲,𝐱)
(Ⅳ)(𝐱,𝐱)0
(𝐱,𝐱)=0 が成り立つのは、𝐱=𝟎 のときに限る。

また、

||𝐱||=(𝐱,𝐱)

で定義される量をxノルムという。

このように、内積が定義された線型空間を計量ベクトル空間計量線型空間)という。

1. V=n,𝐱,𝐲n のとき、

(𝐱,𝐲)=i=1nxiy¯i

とすれば、これは内積になっている。

2. V= M(m,n;), A, B M(m,n;) のとき、

( A, B)= Tr(tA B)

とすれば、これは内積になっている。(Trについては行列概論を参照)

3. V={0x1上連続な関数} , f(x), g(x)0x1上連続な関数のとき、

( f(x), g(x))=01f(x)g(x)dx

とすれば、これは内積になっている。

三角不等式・シュワルツの不等式

ここで定義した内積・ノルムに関しても数ベクトルの場合と同様に三角不等式・シュワルツの不等式が成り立つ。

定理 𝐱,𝐲 V に対して、次の(1),(2)の不等式が成り立つ。

(1)|(𝐱,𝐲)|||𝐱||||𝐲||(シュワルツの不等式)

等号が成り立つのは、𝐱=α𝐲と書ける場合のみ。

(2)||𝐱+𝐲||||𝐱||+||𝐲||

等号が成り立つのは、実数β0 を用いて、𝐲=β𝐱 と書ける場合のみ。

(証明)(1) a,b𝐊 とすると

0||a𝐱+b𝐲||2=(a𝐱+b𝐲,a𝐱+b𝐲)=|a|2||𝐱||2+ab¯(𝐱,𝐲)+a¯b(𝐲,𝐱)+|b|2||𝐲||2

ここで、 a=||𝐲||2, b=(𝐱,𝐲) とおけば、

0||𝐲||4||𝐱||2||𝐲||2(𝐱,𝐲)(𝐱,𝐲)||𝐲||2(𝐱,𝐲)(𝐱,𝐲)+|(𝐱,𝐲)|2||𝐲||2=||𝐲||2(||𝐱||2||𝐲||2|(𝐱,𝐲)|2)

両辺を ||𝐲||2 で割り、正の平方根をとれば、

|(𝐱,𝐲)|||𝐱||||𝐲||  となる。

等号が成り立つのは、0=||a𝐱+b𝐲||2 すなわち、𝟎=a𝐱+b𝐲 となるときだから、𝐱=α𝐲 と書ける。

逆にこれが成り立つとき、不等号は等号になる□

(2)||𝐱+𝐲||2=(𝐱+𝐲,𝐱+𝐲)=||𝐱||2+(𝐱,𝐲)+(𝐲,𝐱)+||𝐲||2||𝐱||2+2|(𝐱,𝐲)|+||𝐲||2||𝐱||2+2||𝐱||||𝐲||+||𝐲||2=(||𝐱+𝐲||)2

したがって、正の平方根をとれば ||𝐱+𝐲||||𝐱||+||𝐲|| となる。

1つ目の等号は (𝐱,𝐲) が非負の実数となるときに成り立ち、2つ目の等号は 𝐱=α𝐲 と書けるとき成り立つ。この2つの条件から、実数β0 を用いて、𝐲=β𝐱 と書けるときのみ等号が成立する□

基底の直交化

正規直交系

計量ベクトル空間Vのベクトルx1,x2,,xnが互いに直交し、ノルムが1であるとき、つまり、(xi,xj)={1(i=j)0(ij)であるとき、ベクトルx1,x2,,xn正規直交系(orthonormal system)であるという。ONSとも表される。

正規直交基底

計量ベクトル空間Vの正規直交系x1,x2,,xnが、x1,x2,,xn=Vであるとき、x1,x2,,xnは、正規直交基底(orthonormal basis)または、完全正規直交系(complete orthonormal system)であるという。CONSとも表される。

グラム・シュミットの直交化法

グラム・シュミットの直交化法のイメージ

計量ベクトル空間Vの線形独立なベクトルv1,v2,,vnを使って正規直交系を作ることができる。

𝒖1=𝒗1𝒖2=𝒗2(𝒖1,𝒗2)(𝒖1,𝒖1)𝒖1𝒖3=𝒗3(𝒖1,𝒗3)(𝒖1,𝒖1)𝒖1(𝒖2,𝒗3)(𝒖2,𝒖2)𝒖2𝒖n=𝒗n(𝒖1,𝒗n)(𝒖1,𝒖1)𝒖1(𝒖2,𝒗n)(𝒖2,𝒖2)𝒖2(𝒖n1,𝒗n)(𝒖n1,𝒖n1)𝒖n1

とすると、u1,u2,,unは互いに直行するベクトルとなる。

ei=ui||ui||とすると、e1,e2,,enは正規直交系となる。

これをグラム・シュミットの直交化法(Gram–Schmidt orthonormalization)という。

種々の特徴的な変換

随伴変換

ユニタリ変換と直交変換

エルミート変換と対称変換