超関数論

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ここでは、上の超関数について解説する。上のものに限るのは単に説明を簡潔にするための方便であり、ここに書かれる内容の多くはn、あるいは一般の多様体上に容易に拡張できる。

超関数とは

超関数とは、普通の意味では関数ではないが、関数に準じたものとして扱うことができる、いわば「関数もどき」である。例えば次のような条件を満たす関数を考える。

  1. δ(x)=0 (x{0})
  2. δ(x)=1

このような関数は、実際には存在しないことはすぐにわかる。なぜならば、1の式を満たす関数はほとんどいたるところで0なのだから、積分しても0であり、2の式を同時に満たすことはできない。

しかしここでは、もしこのような関数が存在したらどのような性質を示すか、ということを少し強引に考えてみる。適当なよい関数φを取ってきて、次のような積分を計算をしてみる。

F(φ)=φ(x)δ(x)dx

δは0以外では0なのだから、積分に寄与するのは0での値だけである。したがって、

F(φ)=φ(0)δ(x)dx=φ(0)δ(x)dx=φ(0)

このような積分を考えると、δは関数に対してある実数値を与えるような汎関数を与えることがわかる。 この汎関数こそδの実体である、ということにすれば、このδに数学的な位置づけを与えることができる。このようにして定義される汎関数のことを超関数という。

次節以降で、超関数を厳密に定義することを考える。

急減少関数

超関数を定義する前に、まずは急減少関数という概念を定義する。先ほどφを取るときに「よい関数」と表現したが、具体的にどのような「よい」関数を選べばよいのかというひとつのめやすである。

定義 無限回微分可能な実数値関数fが次の条件を満たすとき、この関数は急減少であるという。

m,n{0,1,2,...}に対し、supx|xmdndxnf(x)|<

この定義を見てもどのような関数かよくわからないかもしれない。直感的な言い方をすれば、どんなに高い次数の多項式をかけてもsupが有限なのであるから、xを大きくしたときにどんな多項式が発散する速度よりも速く0に近づいていく、ということである。いくつか例を挙げる。

無限回微分可能であってサポートがコンパクトな関数は急減少である。

なぜならば、どんなに高い次数の多項式をかけてもその関数のサポートはコンパクトであり、コンパクト集合上の連続関数は最大・最小を持つ。

しかし、サポートがコンパクトでない急減少関数もある。ひとつ挙げておく。急減少であることの証明は練習問題としよう。

f(x)=ex2は急減少である。

さて、実数上の急減少関数の全体をここでは𝒮と書くことにする。この集合は通常の和と積によって線型空間の構造を持つことはすぐにわかる。しかし実はそれだけでなく、距離空間としての構造も持つ。

命題+定義 f,g𝒮に対して

ρ(f,g)=N=1fgLN2N(1+fgLN)

と定めるとこれは距離の公理を満たす。これを𝒮における距離とする。

超関数の定義と例

急減少関数という言葉を用意したことで、超関数は次のように簡潔に定義できる。

定義 F:𝒮が連続写像でありかつ線型写像であるとき、F上の緩増加超関数であるという。

上の緩増加超関数全体という集合を𝒮と書くことにする。また、表記上の慣習として、緩増加超関数Fと急減少関数φに対してF(φ)のことをF,φと書く。

超関数の例をいくつか挙げる。以下特に断りなければφ𝒮とする。

まず、通常の意味での関数は超関数とみなすこともできる。

 fLp() (1p)とする。

Ff,φ=f(x)φ(x)dx

と定めると、Ffは緩増加超関数である。

この場合、さらに写像fFfは(ほとんど至るところ等しい関数を同一視すれば)1対1なので、しばしばFffを同一視する。

なお、ここでは簡単のためfLp()であることを仮定したが、同様の超関数を考えることができる関数の条件はこれだけではない。たとえば、大雑把に言って各点での増大が高々多項式程度の関数は同様にして超関数とみなすことができる。直感的には急減少関数の定義から容易にわかるだろう。

次に挙げる2つは、通常の意味での関数をかけて積分するという形では表せない超関数である。

δ,φ=φ(0)

で定められるδは緩増加超関数である。これをDiracのデルタ関数と呼ぶ。

p.v.1x,φ=limϵ0|x|>ϵφ(x)xdx

で定められるp.v.1xは緩増加超関数である。これをCauchyの主値という。

超関数の演算

超関数の空間は線型空間の双対空間なので、和と定数倍は自然に定義される。しかし、通常の関数には他にも微分やフーリエ変換のような演算が定義される。この節では、超関数に対してもこれらの演算を定義することを考える。当然、その定義の妥当性の根拠は通常の関数に関する性質に求められる。

微分

f,φ𝒮とすると、部分積分の公式から

f(x)φ(x)dx=f(x)φ(x)dx

という関係が成り立つ。(急減少関数は十分大きいところでは0なので、部分積分公式のもうひとつの項は0であることに注意)

つまり、

Ff,φ=Ff,φ

である。この性質をもとに、一般の超関数の微分を次のように定義する。

定義 Fを緩増加超関数とするとき、次で定義される新しい超関数F'をFの微分という。

F,φ:=F,φ

同様にして二階微分、三階微分...も定義される。急減少関数は無限回微分可能なので、超関数は微分の定義より無限回微分可能である。 特に、普通の意味では微分不可能な通常の関数に対しても、超関数としてはその微分というものを考えることができる。

f(x)={xx00x<0

の超関数の意味での微分と二階微分を計算せよ。

(解)
Ff,φ=f(x)φ(x)dx=0xφ(x)dx=[xφ(x)]0+0φ(x)dx=0φ(x)dx

である。ここで、

g(x)={1x00x<0

とすると、

0φ(x)dx=g(x)φ(x)dx

なので、f(x)の超関数の意味での微分はg(x)である。このg(x)をHeavisideの階段関数という。

階段関数の微分を考える。

Fg,φ=g(x)φ(x)dx=0φ(x)dx=[φ(x)]0=φ(0)

なので、Heavisideの階段関数の微分はDiracのデルタ関数である。

Fourier変換

f,φ𝒮とする。Fourier変換をで表すことにすると、

[f](ξ)φ(ξ)dξ=(f(x)eixξdx)φ(ξ)dξ=f(x)(φ(ξ)eixξdξ)dx=f(x)[φ](x)dx

という関係が成り立つ。(途中Fubiniの定理を用いた)

つまり、

F[f],φ=Ff,[φ]

である。この性質をもとに、一般の超関数のFourier変換を次のように定義する。

定義 Fを緩増加超関数とするとき、次で定義される新しい超関数[F]をFのFourier変換という。

[F],φ:=F,[φ]

 これまでに例として挙げた超関数をFourier変換せよ。