「制御と振動の数学/第一類/連立微分方程式の解法/連立微分方程式の解法/(sI-A)^-1の原像/Cayley-Hamilton の定理」の版間の差分

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2022年11月23日 (水) 13:10時点における最新版

いままでの議論から分かるように,線形定常な連立微分方程式の解法においては,(sIA)1 の原像を求めることがすべてである. そのとき中心的な役割を果たすのが Cayley-Hamilton の定理である.よく知られているように,sIA の行列式を A の固有多項式あるいは特性多項式という. An 次の行列ならば,それも sn 次の多項式となる.いまそれを, テンプレート:制御と振動の数学/equation とおくことにしよう.このとき, テンプレート:制御と振動の数学/equation が成立する.これが Cayley-Hamilton の定理である.

定理 5. 1 (Cayley-Hamilton)

行列 A の固有多項式を p(s) とすると, テンプレート:制御と振動の数学/equation が成立する.

証明

sIA の余因子行列を B(s) とすると, テンプレート:制御と振動の数学/equation と書ける.B(s) の要素は高々 n1 次の s の多項式であるので, テンプレート:制御と振動の数学/equation と表すことができる.これと式 (5.16) とから, テンプレート:制御と振動の数学/equation とおいて[1],左右の s のべきの係数を等置すると, テンプレート:制御と振動の数学/equation を得る[2].これらの式から Bi を消去すれば, テンプレート:制御と振動の数学/equation が得られる.


式 (5.19) から Bi を消去する方法は, 上から順に An,An1,An2,A2,A,I を掛けて,それらをすべて加えればよい[3]


  1. 式 (5.16) の両辺に p(s)(sIA) を左から掛ける.
  2. p(s)I=(sIA)(B0sn1+B1sn2+B2sn3++Bn2s+Bn1)
    実際に展開すると、
    (sn+a1sn1+a2sn2++an1s+an)I=B0sn+B1sn1+B2sn2++Bn2s2+Bn1s
    AB0sn1AB1sn2ABn2sABn1
    =B0sn+(B1AB0)sn1+(B2AB1)sn2++(Bn1ABn2)sABn1
    si(i=0n1) の係数を比較して,
    {I=B0a1I=B1AB0a2I=B2AB1an1I=Bn1ABn2anI=ABn1
    したがって ABi の項を移項して
    {I=B0AB0+a1I=B1AB1+a2I=B2ABn2+an1I=Bn1ABn1+anI=O

  3. {AnB0=AnAn1B1=AnB0+a1An1An2B2=An1B1+a2An2An3B3=An2B2+a3An3ABn1=A2Bn2+an1AO=ABn1+anI


もう一つの方法は上の段の結果を下の段に代入し,B0,B1,B2, の順に逐次消去してもよい. この方法をまとめておこう.

テンプレート:制御と振動の数学/equation と逐次多項式 pi を定義すれば, テンプレート:制御と振動の数学/equation と書くことができる[1]. ただし,B0=p0(A)=I である.この結果より式 (5.18) は, テンプレート:制御と振動の数学/equation となり,したがってまた, テンプレート:制御と振動の数学/equation を得る[2]


  1. 式 (5.19) Bi+1pi+1(s),したがって,Bipi(s)sA を置き換える.BiA で表現することから,pi(s)s の関数とし,sA を代入する見通しである.
  2. 式 (5.21) の両辺を p(s)でわると,
    I=(sIA){Isn1p(s)+p1(A)sn2p(s)+p2(A)sn3p(s)++pn2(A)sp(s)+pn1(A)1p(s)}
    すなわち
    (sIA)1=Isn1p(s)+p1(A)sn2p(s)+p2(A)sn3p(s)++pn2(A)sp(s)+pn1(A)1p(s)


注意

式 (5.19) は受験数学でなじみ深い組立除法テンプレート:制御と振動の数学/equation にほかならない.p(A) は余りである.式 (5.18) を見ると p(s)I(sIA) で割り切れることを示している.よって剰余の定理より, テンプレート:制御と振動の数学/equation を得る.つまり, Cayley-Hamilton の定理剰余の定理因数定理と同じものである.それでは式 (5.18) sA とおいていきなり p(A)I=O としてよいかという疑問が起きる.結論をいえばそれでよいのである.ただ注意しなければならないのは,式 (5.18) の等式は sBi と交換できることが前提になって成立している.s にある行列を代入したとき,その行列と Bi が交換可能のときのみ,左右の式が等しくなる.式 (5.20) から明らかなように,ABi とは交換可能である[1].それゆえ式 (5.18) A を代入して,この定理を証明してもよい.しかし,この証明法に従うときには,ABi の交換可能性を前もって別に証明しておかねばならない.


  1. p1(s)=sI+a1I,B1=p1(A)=A+a1IAn+1=AAn=AnA であるから B1A は可換,
    p2(s)=sp1(s)+a2I=s(sI+a1I)+a2I=s2I+sa1I+a2I,B2=A2+a1A+a2I より,同様の理由で B2A は可換.
    以下必要なだけ帰納的に続ければ BiA は可換であることがわかる.


例115

式 (5.20) を用いずに,ABi が交換可能であることを示せ.

解答例

A の逆行列が存在するならば,

AA1=A1A=I

より,

(sIA)1(sIA)=(sIA)(sIA)1

式 (5.16)

(sIA)1=B(s)p(s)

を代入して両辺に p(s) を掛ければ,

B(s)(sIA)=(sIA)B(s)
B(s)=B0sn1+B1sn2+B2sn3++Bn3s2+Bn2s+Bn1

を代入して、両辺にあらわれる同じ s のべき乗の係数を等置すると,

{sn:B0=B0sn1:B0A+B1=AB0+B1sn2:B1A+B2=AB1+B2sn3:B2A+B3=AB2+B3s2:Bn3A+Bn2=ABn3+Bn2s:Bn2A+Bn1=ABn2+Bn11:Bn1A=ABn1

すなわち,ABi は可換である.