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高等学校物理/力学
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= 物体の運動 = [[高等学校理科 物理基礎]]では、物体の運動を直線上の運動を中心に扱った。物理では、より複雑な平面上の運動を扱う。平面上の運動では、直線上の運動とは違って、物体の位置を表わすのに必要な量が2つになる。これらは通常<math>x,\ y</math>とされ、どちらも時刻<math>t</math>の一意の関数となる。 これらの関数はどんなものでもよいが、ここでは主に、実際の物体の運動としてよくあらわれるものを扱う。 == 平面上の運動 == {{See also|[[高等学校物理基礎/力学#2次元・3次元における位置・速度・加速度|高等学校物理基礎/力学]]}} 平面上,すなわち2次元において,時刻<math>t</math>における位置は<math>\overrightarrow r(t)=(x(t),\ y(t))</math>,微小時間<math>\mathit{\Delta}t</math>間の変位は<math>\mathit{\Delta}\overrightarrow r =\overrightarrow r(t +\mathit{\Delta}t)-\overrightarrow r(t)=(\mathit{\Delta}x,\ \mathit{\Delta}y)</math>と定義される。このとき :<math>\bar \overrightarrow v =\frac{\overrightarrow r(t +\mathit{\Delta}t)-\overrightarrow r(t)}{\mathit{\Delta}t}=\frac{\mathit{\Delta}\overrightarrow r}{\mathit{\Delta}t}</math> を<math>\mathit{\Delta}t</math>間の平均速度,<math>\mathit{\Delta}t\to 0</math>の極限 :<math>\overrightarrow v(t)=\lim_{\mathit{\Delta}t\to 0}\frac{\overrightarrow r(t +\mathit{\Delta}t)-\overrightarrow r(t)}{\mathit{\Delta}t}=\frac{d\overrightarrow r(t)}{dt}=\left(\frac{dx(t)}{dt},\ \frac{dy(t)}{dt}\right)=(\dot x(t),\ \dot y(t))=(v_x(t),\ v_y(t))</math> を時刻<math>t</math>での(瞬間)速度という。なお,時刻<math>t</math>での速さ(速度の大きさ)は :<math>v =|\overrightarrow v|=\sqrt{{v_x}^2 +{v_y}^2}</math>. この場合も,速度から位置が求まり,各成分毎に :<math>x(t)= x(0)+\int _0 ^t v_x(t)dt</math> :<math>y(t)= y(0)+\int _0 ^t v_y(t)dt</math> が成り立ち,これらをベクトルを用いてひとまとめにして任意の時刻<math>t</math>における位置 :<math>\overrightarrow r(t)=\overrightarrow r(0)+\int _0 ^t\overrightarrow v(t)dt</math> (1.1) が求められる。 また, :<math>\bar \overrightarrow a =\frac{\overrightarrow v(t +\mathit{\Delta}t)-\overrightarrow v(t)}{\mathit{\Delta}t}=\frac{\mathit{\Delta}\overrightarrow v}{\mathit{\Delta}t}</math> (<math>\mathit{\Delta}\overrightarrow v</math>は微小時間<math>\mathit{\Delta}t</math>間の速度変化) を<math>\mathit{\Delta}t</math>間の平均加速度,<math>\mathit{\Delta}t\to 0</math>の極限 :<math>\begin{align}\overrightarrow a(t)=\lim_{\mathit{\Delta}t\to 0}\frac{\overrightarrow v(t +\mathit{\Delta}t)-\overrightarrow v(t)}{\mathit{\Delta}t}& =\frac{d\overrightarrow v(t)}{dt}=\left(\frac{dv_x(t)}{dt},\ \frac{dv_y(t)}{dt}\right)=(\dot v_x(t),\ \dot v_y(t))\\ & =\frac{d^2\overrightarrow r(t)}{dt^2}=\left(\frac{d^2x(t)}{dt^2},\ \frac{d^2y(t)}{dt^2}\right)=(\ddot x(t),\ \ddot y(t))\end{align}</math> を時刻<math>t</math>での(瞬間)加速度という。 この場合も,加速度から速度が求まり,各成分毎に :<math>v_x(t)=v_x(0)+\int _0 ^t\frac{dv_x(t)}{dt}dt</math> :<math>v_y(t)=v_y(0)+\int _0 ^t\frac{dv_y(t)}{dt}dt</math> が成り立ち,これらをベクトルを用いてひとまとめにして任意の時刻<math>t</math>における速度 :<math>\overrightarrow v(t)=\overrightarrow v(0)+\int _0 ^t\overrightarrow a(t)dt</math> (1.2) が求められる。なお,これら<math>\overrightarrow r(0), \overrightarrow v(0)</math>の値を初期値という。 特に,加速度一定のときの運動は'''等加速度運動'''といわれ,上記の公式(1.2, 1)はそれぞれ :{| |- |<math>\overrightarrow v(t)</math> |<math>=\overrightarrow v(0)+\int _0 ^t\overrightarrow adt</math> (1.3) |- | |<math>=\overrightarrow v(0)+\overrightarrow at</math> |} :<math>\overrightarrow r(t)=\overrightarrow r(0)+\int _0 ^t(\overrightarrow v(0)+\overrightarrow at)dt =\overrightarrow r(0)+\overrightarrow v(0)t +\frac{1}{2}\overrightarrow at^2</math> となる。 運動方程式は、力が物体が受ける加速度に比例するという点はかわらない。 しかし、今回は力と加速度はどちらもベクトル量である。よって、外力<math>\overrightarrow f=(f_x,\ f_y)</math>が働き,加速度<math>\overrightarrow a=(a_x,\ a_y)</math>で運動する物体の運動方程式は :<math> m\overrightarrow a =\overrightarrow f </math> とかかれる。 通常は、この方程式を解く場合は要素ごとにわけ、 :<math> ma_x = f_x </math> :<math> ma_y = f_y </math> とかかれる。 *問題例 **問題 時刻t = 0に、 :<math> \overrightarrow x = (0,\ 0) </math> を :<math> v = \frac 1 {\sqrt 2} (1,\ 1)v _0 </math> で通過した物体の時刻tでの位置を求めよ。 **解答 物体のx方向とy方向は互いに独立に等速直線運動をする。 ここではx方向もy方向も速度 :<math> v = \frac 1 {\sqrt 2} v _0 </math> なので、等速直線運動の式のベクトル量とした量 :<math> \overrightarrow x = \overrightarrow v ( t - t _0) + \overrightarrow x _0 </math> に代入すると、 :<math> \overrightarrow x = \frac 1 {\sqrt 2} (1,\ 1)v _0 t </math> となる。 要素ごとにかくと、 :<math> x = \frac 1 {\sqrt 2} v _0 t </math> :<math> y= \frac 1 {\sqrt 2} v _0 t </math> となる。 ** 問題 時刻t=0に原点(0, 0)をy方向に速度<math>v _0</math>で等速直線運動していた質量mの物体に、 x方向の一様な力fがかかり始めた。この場合、時刻tにおける物体の位置と 速度を求めよ。 ** 解答 x軸方向には等加速度運動となる。 物体が受ける加速度は、運動方程式により :<math> a = \frac f m </math> となる。 さらにx方向の初速度0,初期位置0であることを等加速度直線運動の式に 代入すると、 :<math> x = \frac 1 2 a t^2 </math> :<math> = \frac 1 2 \frac f m t^2 </math> :<math> v = a t </math> :<math> = \frac f m t </math> となる。 さらに、y軸方向の運動は等速運動であり、その初速度は、<math>v _0</math>,初期位置は0であるので、 この値を等速運動の式に代入すると、 :<math> y = v _0 t </math> :<math> v _y = v _0 </math> が得られる。 = 運動量と力積 = この章では運動量(うんどうりょう、momentum)を扱う。運動量は、物体の衝突に置いてエネルギーと並び、保存量となる重要な量である。また、この章では力積(りきせき、impulse)という量も導入する。力積は運動量の時間変化を表わす量であり、その導出は運動方程式を用いて成される。 物体が動いている場合、物体の速度と質量の積を物体の運動量 :<math>\overrightarrow p = m\overrightarrow v</math> (2.1) と定義する。運動方程式 :<math>m\frac{d\overrightarrow v(t)}{dt}=\overrightarrow f</math> (<math>\overrightarrow v(t)</math>は時刻<math>t</math>における速度,<math>\overrightarrow f</math>は合力) の両辺を時刻<math>t = t_1</math>から<math>t = t_2</math>まで積分すると :<math>\int _{t_1}^{t_2}m\frac{d\overrightarrow v(t)}{dt}dt =\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt</math> :<math>\therefore\int _{t_1}^{t_2}md\overrightarrow v(t)=\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt</math> :<math>\therefore[m\overrightarrow v(t)]_{t_1}^{t_2}=\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt</math> (注:<math>\overrightarrow f</math>は一定とは限らぬので右辺は積分実行できない) :<math>\therefore m\overrightarrow v(t_2)- m\overrightarrow v(t_1)=\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt</math> となる。<math>\overrightarrow v(t_1)=\vec{v_1}, \overrightarrow v(t_2)=\vec{v_2}</math>とすると :<math>m\vec{v_2}- m\vec{v_1}=\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt</math>. (2.2) この式の左辺は運動量変化,右辺は力積(りきせき、impulse)である。よって,'''運動量変化は力積に等しい'''('''運動量の原理''')ことが分かる。運動量変化を<math>\mathit{\Delta}\overrightarrow p</math>,力積を<math>\overrightarrow I</math>とすると :<math>\mathit{\Delta}\overrightarrow p = m(\vec{v_2}-\vec{v_1}), \overrightarrow I =\int _{t_1}^{t_2}\overrightarrow fdt,\ \mathit{\Delta}\overrightarrow p =\overrightarrow I</math>. 特に,<math>\overrightarrow f =</math>一定のとき,<math>t_2 - t_1 =\mathit{\Delta}t</math>とおくと :<math>\overrightarrow I =\overrightarrow f(t_2 - t_1)=\overrightarrow f\mathit{\Delta}t</math>. * 発展: 微分と変化量 微分を用いた導出については、[[古典力学]]も参照。 * 問題例 ** 問題 静止していた物体に時間<math>\mathit{\Delta}t</math>の間ある方向に一様な力fをかけた。物体が得た 運動量はどれだけか。さらに、物体の質量をmとすると、物体がその方向に 得た速度はどれだけか。 ** 解答 運動量の変化分は物体が受けた力積に等しいので、物体が受けた力積を計算すれば よい。物体が受けた力積は :<math> f\mathit{\Delta}t </math> に等しいので、物体が得た運動量も :<math> f\mathit{\Delta}t </math> に等しい。さらに、運動量が :<math> p = m v </math> を満たすことを考えると、物体の速度は :<math> \frac 1 m f\mathit{\Delta}t </math> となる。 運動量は、物体が全く力を受けない場合には保存される。これは物体に力が働かない場合には、物体の受ける力積は0であり物体の運動量変化も0であることから当然である。 さらに、複数の物体の運動量については、別の重要な性質が見られる。それは、複数の物体のもつ運動量の総和はそれらの物体の間の衝突に際して保存するということである。これはつまり、例えばある2つの物体が衝突した場合、始めに2物体がそれぞれ持っていた運動量の和は衝突が終わった後に2物体が持っている運動量の和に等しいということである。ここで、いくつかの物体がある場合それらの持つ運動量の総和を、対応する物体系の全運動量という。 物体の衝突について、運動量は常に保存する。しかし、物体系の全エネルギーは常に保存するとは限らない。一般に物体の衝突についてエネルギーは常に失われていく。もっとも物体系に限らない全エネルギーは常に一定であるので、物体が持っていたエネルギーは音や熱の形で物体系の外に逃げて行くのである。物体が衝突について失うエネルギーは衝突に関わる物体が持っている物性定数によって決まる。この係数を'''反発係数'''('''反撥係数'''、はんぱつけいすう、coefficient of restitution)と呼び、eなどの記号で書く。反発係数は、物体が衝突したする前後での物体間の相対速度の比によって定められる。 特に物体1と物体2が衝突前に速度 <math>v_1,\ v_2</math>を持っており、衝突後に速度<math>v_1',\ v_2'</math>を持ったとすると、反発係数eは :<math>v_1' - v_2' = -e(v_1 - v_2)\quad\therefore e = - \frac {v_1' - v_2'} {v_1 - v_2} </math> で定められる。ここで、右辺の始めの<math>-</math>符合は、衝突の前後で物体の速度がより大きい物体は、衝突前により小さい速度を持っていた物体よりも衝突後にはより小さい速度を持つことになるからである。 そのため、反発係数は一般に正の数である。 また反発係数は1より小さい数であり、物体間の相対速度は衝突前より衝突後の方が小さくなる。 特に<math>e = 1</math>の場合を'''(完全)弾性衝突'''(elastic collision)と呼び、いっぽう<math>0<e<1</math>の場合を'''非弾性衝突'''(inelastic collision)、<math>e=0</math>の場合を'''完全非弾性衝突'''と呼ぶ。弾性衝突の場合は、力学的エネルギーは保存することが知られている。一方、非弾性衝突の 場合は物体系の全エネルギーは失われる。 * 問題例 ** 問題 ある静止している物体2に運動量pで運動している物体が衝突した。この場合、 衝突した後の物体2が運動量<math>p _2</math>を得たとすると、衝突後の物体1の運動量は どれだけとなったか。 ** 解答 運動量保存則を考えると、衝突の前後で物体1と物体2で構成される物体系の全運動量は保存する。 ここで、衝突前の物体系の全運動量はpであるので、衝突後の物体系の全運動量もpとなる。 さらに、物体2の衝突後の運動量が <math>p _2</math>なので、物体1の運動量は :<math> p - p _2 </math> となる。 ここで、物体系の全運動量が保存されることは、運動に関する 作用・反作用の法則 から従う。 作用反作用の法則を用いると、物体系の間の衝突に際して、衝突に関わるそれぞれの物体が受ける力は、大きさが等しく向きは反対となる。 この場合、それぞれの力に対して、衝突の時間<math>\Delta t</math>をかけたものは 衝突に際してそれぞれの物体が受け取る力積に等しい。 ここで、衝突に関して働く力の力積を全ての物体について足し合わせると、それらの和は、上のことから0となる。 しかし、全運動量の計算ではまさにそのような全物体についての運動量の総和を計算しているので、 衝突によって得られるような力積の総和は、0に等しい。 よって、衝突に際して物体系の持つ全運動量は保存される。 これを'''運動量保存則'''(うんどうりょう ほぞんそく、momentum conservation law)という。 * 問題例 ** 問題 質量mの2つの物体が速度<math>v _1</math>, <math>v _2</math> で移動している。これらの物体が衝突した場合、 衝突後のそれぞれの物体の速度を、エネルギー保存則と運動量保存則を用いて 計算せよ。ただし、物体の衝突に関してエネルギーは保存するとする。 ** 解答 この問題は2つの同じ大きさの物体を異なった速度でぶつけた場合 その結果がどうなるかを計算する問題である。 実験の結果によると、一方が静止しており一方が動いている場合、 動いていた物体は静止し、静止していた物体は動いていた物体が持っていた 速度と同じ速度で動きだすことが知られている。ここでは、それらの 結果が計算によって確かめられることを見ることが出来る。 衝突後の物体の速度をそれぞれ物体1については<math>v _1'</math>,物体2については <math>v _2'</math>とする。この場合、物体の衝突について全エネルギーが保存されることを 用いると、 :<math> 1/2 m v _1^2 + 1/2 m v _2^2 = 1/2 m v _1'{}^2 + 1/2 m v'{} _2^2 </math> が得られる。さらに、物体の衝突について物体系の全運動量が保存されることを用いると、 :<math> m v _1 + m v _2 = m v _1' + m v _2' </math> これらは、<math>v' _1</math>, <math>v '_2</math>についての2次方程式であり、解くことが出来る。実際計算すると、解として :<math> (v '_1,\ v' _2 )=(v _1,\ v _2),\ (v _2,\ v _1) </math> が得られる。前者の解は衝突に際して物体の速度が変化せぬことを示しているが、これは実際の情况として考え難いので、後者の解が現実の解となる。この結果を見ると、物体が持つ速度が入れ替わることが分かる。 このことは実際に同じ大きさの球を用いて実験を行うと、確かめることができる。 <!-- これは例えば、 <math>v _1=v,\ v _2=0</math>の時を考えると、衝突後の結果は <math>v _1=0,\ v _2=v</math>となり、実験の結果を再現することになる。 --> =剛体のつり合い= 位置のみをもち,大きさがないのが質点である。'''剛体'''とは,大きさがあるが形も大きさも変わらぬ物体のことである。 ==角運動量と力のモーメント== 剛体の運動を考える前に一定平面上の運動について次のような一般的考察を行う。 時刻<math>t</math>において<math>xy</math>平面内の位置<math>\overrightarrow r=(x,\ y)</math>を速度<math>\overrightarrow v=(v_x,\ v_y)</math>で運動し,力<math>\overrightarrow F=(F_x,\ F_y)</math>が働いている質量<math>m</math>の物体の運動方程式を成分に分けて表せば :<math>m\frac{dv_x}{dt}=F_x,\qquad\qquad\qquad\qquad\;\cdots\cdots</math>① :<math>m\frac{dv_y}{dt}=F_y.\qquad\qquad\qquad\qquad\;\cdots\cdots</math>② ②<math>\times x -</math>①<math>\times y</math>より :<math>m\left(x\frac{dv_y}{dt}-y\frac{dv_x}{dt}\right)=xF_y -yF_x</math> :<math>\therefore \frac{d}{dt}\{m(xv_y -yv_x)\}=xF_y -yF_x.\cdots</math>③ この左辺の :<math>l=m(xv_y -yv_x)</math> (3.1) を原点Oまわりの角運動量という。 ここで<math>\overrightarrow v</math>と<math>\overrightarrow r</math>のなす角を<math>\theta,\ x</math>軸と<math>\overrightarrow r</math>のなす角を<math>\phi</math>とすると :<math>x=r\cos\phi,\ v_x=v\cos(\theta +\phi),\ y=r\sin\phi,\ v_y=v\sin(\theta +\phi)</math>. これらを(3.1)に代入すると :<math>l=m(r\cos\phi\cdot v\sin(\theta +\phi)-r\sin\phi\cdot v\cos(\theta +\phi))=mrv\sin\theta</math> (3.1a) が得られる。 物体を回転させる力の効果の大きさを表す量を'''力のモーメント'''という。更に<math>\overrightarrow F</math>と<math>\overrightarrow r</math>のなす角を<math>\mathit{\Theta}</math>とすると :<math>F_x=F\cos(\mathit{\Theta}+\phi),\ F_y=F\sin(\mathit{\Theta}+\phi)</math>. よって'''原点Oまわりの力のモーメント'''を<math>N</math>で表すと :<math>N=xF_y -yF_x=r\cos\phi\cdot F\sin(\mathit{\Theta}+\phi)-r\sin\phi\cdot F\cos(\mathit{\Theta}+\phi)=Fr\sin\mathit{\Theta}</math>. (3.2) ここに<math>r\sin\mathit{\Theta}</math>は原点から力<math>\overrightarrow F</math>の作用線に下した垂線の長さであり,これを力<math>\overrightarrow F</math>の'''原点に対する腕の長さ'''という。ただし力のモーメントは力<math>\overrightarrow F</math>が位置ベクトル<math>\overrightarrow r</math>を反時計回りに回す向きを正としている(時計回りの際は<math>\mathit{\Theta}<0</math>で<math>r\sin\mathit{\Theta}<0</math>と考える)。 以上より,③(角運動量の方程式)は :<math>\frac{dl}{dt}=N</math>. (3.3) これは力のモーメントが加えられた結果として角運動量が変化するという因果関係を表す。特に<math>N=0</math>ならば :<math>\frac{dl}{dt}=0\quad\therefore l=</math>一定 となり,角運動量が保存する。 ==剛体に働く力のモーメント== ==重心== 物体の各部分に働く重力の作用点を'''重心'''({{Lang-en-short|centre of gravity}})或いは質量中心({{Lang-en-short|centre of mass}})という。<math>n</math>物体(質量:<math>m_1,\ m_2,\ \cdots\cdots,\ m_n</math>,位置<math>\vec{r_1},\ \vec{r_2},\ \cdots\cdots,\ \vec{r_n}</math> (<math>n</math>は自然数)の重心の位置<math>\vec{r_\mathrm{G}}</math>は以下のように定義される。 :<math>\vec{r_\mathrm{G}}=\frac{m_1\vec{r_1}+m_2\vec{r_2}+\cdots\cdots +m_n\vec{r_n}}{m_1+m_2+\cdots\cdots +m_n}</math>. また重心速度<math>\vec{v_\mathrm{G}}</math>は<math>\frac{d\vec{r_k}}{dt}=\vec{v_k}\ (k=1,\ 2,\ \cdots\cdots,\ n)</math>とすると :<math>\vec{v_\mathrm{G}}=\frac{d\vec{r_\mathrm{G}}}{dt}=\frac{m_1\vec{v_1}+m_2\vec{v_2}+\cdots\cdots +m_n\vec{v_n}}{m_1+m_2+\cdots\cdots +m_n}</math>. = 円運動と単振動 = ここでは、初等的な平面上の運動の1つとして、円運動({{Lang-en-short|circular motion}})と単振動({{Lang-en-short|simple harmonic motion}})をあつかう。円運動は、単振り子(たんふりこ、simple pendlum)の運動の類似物としても重要である。それとともに、このページでは万有引力による運動も扱う。 万有引力はいわゆる重力と同じ力であり、 物体と物体の間に必ず生じる力である。一方これらの力は非常に弱いため、 惑星のように大きな質量を持った物体の運動にしか関わらない。 ここでは、太陽のまわりを回転する惑星のような大きなスケールの運動もあつかう。このような運動は円に近い軌道となることがある。このため、惑星の運動を理解する上で、円運動を理解することが重要である。 == 円運動 == 物体が円を描くように運動することを円運動と呼ぶ。円を描くような運動は、例えば、円形のグラウンドのまわりを走る人間のように人間が意思を持って行なう場合も指すが、自然現象として起こる場合も多い。例えば、太陽のまわりを回る地球の運動や、地球の回りを回る月の運動は、いずれも円運動で記述される。また、一定の長さをもったひもと一定の質量を持った物体で作られた振り子の運動は、ひもを固定した点から一定の距離をおいて運動しているため、物体は円軌道上を運動しており、広い意味での円軌道ととらえることも出来る。ここでは、このような場合のうちで代表的なものとして、完全な円軌道上を運動する物体の運動をあつかう。 円軌道上を運動する物体の座標も一般の場合と同様 :<math>\overrightarrow r(t)=(x(t),\ y(t))</math> で表わされる。特に円軌道を表わす関数は[[高等学校数学II いろいろな関数]]で扱った三角関数に対応している。 * 発展: 三角関数を用いた円の表示 ここで、円運動が三角関数を用いて表されることを述べたが、このことは[[高等学校数学C]]の'''媒介変数表示'''を用いている。媒介変数表示について詳しくは、対応する項を参照してほしい。 半径rの円上を等しい速度で、円運動する物体の運動を記述することを考える。 さらに、座標を取る場合原点の位置は円運動の中心の位置とする。 この場合の物体の運動は、x, y座標を用いて、 :<math> x = r \cos (\omega t +\delta) </math> :<math> y = r \sin (\omega t +\delta) </math> によって書かれる。ただし、この場合<math>\omega</math>は角速度と呼ばれ単位は rad/s で与えられる。ただし、ここで rad は[[w:ラジアン]]であり、[[w:弧度法]]によって角度を表わした場合の単位である。弧度法については[[高等学校数学II いろいろな関数]]を参照。角速度は円運動をしている物体がどの程度の時間で円を一周するかに対応している。なお,高等学校の物理において角速度はスカラーとして扱う。また、この量は下で分かるのだが、円運動している物体の速度に比例する。 また、角速度に対応して、 :<math> T = \frac {2\pi} \omega </math> で与えられる量を[[w:周期]]といい、周期の単位は s である。周期は物体が何秒間ごとに 円状を1周するかを表わす量である。この場合には物体は周期 T ごとに円状を1周する。さらに、 :<math> f = \frac \omega {2\pi} </math> を[[w:振動数]]と呼ぶ。振動数は周期とは逆に、単位時間当たりに物体が円状を何周するかを 数える量である。振動数の単位には通常 Hz を用いる。これは、 1/s に等しい単位である。 また、周期Tと、振動数fは、関係式 :<math> Tf = 1 </math> を満たす。この式はある円運動をしている物体について、その物体の円運動の 周期に対応する時間の間には、物体は円状を1周だけするということに対応する。 また、 :<math> x = r \cos (\omega t +\delta) </math> :<math> y = r \sin (\omega t +\delta) </math> の式で<math>\delta</math>は物体の位置の[[w:位相]]と呼ばれ、物体が円状のどの点にいるかを示す 値である。 また、この場合の物体の速度のx, y要素は :<math>v_x =\frac{dx}{dt}= -r \omega \sin \omega t</math> :<math>v_y =\frac{dy}{dt}= r \omega \cos \omega t</math> で与えられる。この式と、後の円運動の加速度の導出については、後の発展を参照。ここで、物体の速さをvとすると、 :<math> v = \sqrt {v _x ^2 +v _x ^2} = \sqrt {r^2 \omega^2 (\sin^2 \omega t +\cos^2 \omega t) } = r \omega </math> となり、物体の速度は<math>r\omega</math>で与えられることが分かる。 さらに、 :<math> \overrightarrow r \cdot \overrightarrow v </math> を計算すると、 :<math> \overrightarrow r \cdot \overrightarrow v </math> :<math> =( r \cos \omega t,\ r \sin \omega t) \cdot (-r \omega \sin \omega t,\ r \omega \cos \omega t) </math> :<math> = r^2 \omega (\cos \omega t \sin \omega t - \cos \omega t \sin \omega t) </math> :<math> = 0 </math> となり、円運動をしている物体の速度と円運動の中心を原点とした場合の座標は直交していることが分かる。さらに、円運動をしている物体の加速度は、 :<math>\frac{dv_x}{dt^2}= -r \omega^2 \cos \omega t</math> :<math>\frac{dv_y}{dt^2}= -r \omega^2 \sin \omega t</math> となる。これは :<math>\overrightarrow a = -\omega ^2 \overrightarrow r</math> に対応しており、円運動をおこなう物体の加速度は、円運動をする物体の座標と ちょうど反対向きになることが分かる。 * 発展: 円運動の速度と加速度 ここでは、円運動の速度と加速度を与えたが、この値は物体の運動が決まれば決まる値なので、円運動の式から計算できる。ただ、実際にこれらの式を得るためには、円運動の式の'''微分'''を行う必要があるため、ここでは詳しく扱わない。導出については、[[古典力学]]を参照。 * 問題例 ** 問題 半径rの円上を角速度<math>\omega</math>で運動する物体の加速度の大きさを計算せよ。 ** 解答 :<math> \overrightarrow a = -\omega^2 \overrightarrow r </math> に注目するとよい。右辺について円運動をしている物体の座標が常に :<math> \overrightarrow r ^2 = r^2 </math> を満たすことに注目すると、 :<math> |\overrightarrow a| = \sqrt {\overrightarrow a^2} </math> :<math> = \sqrt {r^2 \omega^4} = r \omega^2 </math> となる。 ** 問題 50Hzで円運動している物体の円運動の周期を計算せよ。 ** 解答 :<math> T = \frac 1 f </math> を用いると、 :<math> T = \frac 1 {50}\,\textrm s </math> :<math> = 0.020 \, \textrm s </math> となる。 ===円運動の方程式=== 以上より,円運動の加速度の成分は :向心成分:<math>a_\mathrm{C}=r{\omega}^2=\frac{v^2}{r},</math> :接線成分:<math>a_\mathrm{T}=\frac{dv}{dt}</math>. よって,円運動する物体の質量を<math>m</math>,向心方向に働く力,すなわち'''向心力'''({{Lang-en-short|centripetal force}})を<math>F_\mathrm{C}</math>,接線方向に働く力を<math>F_\mathrm{T}</math>とおくと運動方程式は :<math>mr{\omega}^2=F_\mathrm{C}\Longleftrightarrow m\frac{v^2}{r}=F_\mathrm{C},</math> (4.1) :<math>m\frac{dv}{dt}=F_\mathrm{T}</math>. (4.2) * ※ 執筆中(読者に協力をお願いします。) [[w:向心力]]、[[w:遠心力]](centrifugal force) == 単振動 == 円運動と関係の深い物体の運動として、単振動({{Lang-en-short|simple harmonic oscillation}})があげられる。単振動はあらゆる振動現象の基本になっており、応用範囲が広い運動である。円運動と同様、単振動も三角関数を用いて運動が記述される。また、周期や位相がある点も円運動と同じである。また、単振動は波動に関わる現象とも関係が深く、位相、振幅などの量を共有している。 ここからは、単振動をする物体の性質をより詳しく見て行く。 単振動は様々な情况であらわれるが、単純な例としては'''フックの法則'''で支配されるばねに接続された物体の運動がある。ここでは、ばね定数<math>k</math>のばねに質量<math>m</math>の物体を接続するとする。ばねの自然長の位置を原点として時刻<math>t</math>における原点からの物体の位置を<math>x(t)</math>とおく場合、この物体に関する運動方程式は :<math>m\frac{d^2x(t)}{dt^2}= - kx(t)</math> で与えられる。この方程式の両辺を<math>m</math>で割ると、加速度は<math>\frac{d^2x(t)}{dt^2}= -\frac{k}{m}x(t)</math>で与えられることが分かる。このように、加速度と物体の座標が負の比例係数を持って比例関係にある式が、単振動の運動方程式である。この場合、単振動の振動中心を<math>x = x_\mathrm{C}</math>(単振動では振動中心は定数),時刻<math>t</math>における物体の運動を位置<math>x(t)</math>,速度<math>v(t)</math>,加速度<math>a(t)</math>で表すと :<math>x(t)= x_\mathrm{C}+ A \sin (\omega t +\delta),</math> (4.3) :<math>v(t)= \frac{dx(t)}{dt} = A\omega\cos (\omega t +\delta),</math> (4.4) :<math>\begin{align}a(t)=\frac{d^2 x(t)}{dt^2}& = -A\omega ^2 \sin (\omega t +\delta)\\ & =-\omega^2(x(t)- x_\mathrm{C})\end{align}</math> (4.5) となる。<math>\omega</math>は角振動数,<math>\delta</math>は初期位相である。 *発展: 単振動の運動方程式 ここで、単振動の運動方程式と、単振動の運動の式を与えたが、実際には単振動の運動の式は運動方程式から導出できるがこれについては[[w:微分方程式]]を扱う必要があるので詳しい導出については、[[古典力学]]を参照。 <math>\sin</math>関数は関数の値の増加に伴って周期的な振動を行なう関数なので、物体は、<math>x=0</math> のまわりで周期的な振動をすることが分かる。ただし、上の式の中でAは[[w:振幅]]と呼ばれ、物体の振動の範囲を表す量である。 ただし、この場合においてはこれらの量は物体の円運動ではなく、物体の振動についての量であり、それぞれ単位時間当たりに何[rad]だけ位相が進むかの量と振動の周期の中で、どの位置に物体がいるかを表す量に対応している。また、周期と振動数も円運動の場合と同じ定義で与えられる。 :<math>T = \frac {2\pi}\omega</math> :<math>f =\frac \omega {2\pi}</math> また、この場合については運動方程式から角振動数が決まり :<math>m\frac{d^2 x(t)}{dt^2}=-kx(t)</math> :<math>\begin{align}\therefore\frac{d^2 x(t)}{dt^2}& =-\frac{k}{m}x(t)\\ & =-\omega^2(x(t)- 0)\end{align}</math> :<math>\therefore\omega^2=\frac{k}{m}\quad\therefore\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\ (\because\omega >0)</math> で与えられる。 (4.3)を :<math>x(t)= x_\mathrm{C}+ A\sin\omega t\cos\delta +A\cos\omega t\sin\delta</math> と書直し,<math>A\cos\delta=a,\ A\sin\delta=b</math>とおくと :<math>x(t)= x_\mathrm{C}+ a\sin\omega t +b\cos\omega t,</math> (4.3a) :<math>v(t)= \dot x(t)=\omega(a\cos\omega t -b\sin\omega t),</math> (4.4a) :<math>a(t)= \ddot x(t)=-\omega^2(a\sin\omega t +b\cos\omega t)</math> (4.5a) となり,振幅は :<math>A=\sqrt{a^2+b^2}</math>. (4.6) * 問題例 ** 問題 質量mを持つある物体について、ばね定数<math>k _1</math>のばねとばね定数<math>k _2</math>のばねに つながれた場合では、 どちらの場合の方が物体の角速度が大きくなるか。 ただし、<math>k _1>k _2</math>が成り立つとする。また、周期と振動数についてはどうなるか。 ** 解答 この場合にはこの単振動の角振動数は、 :<math> \omega = \sqrt {\frac k m} </math> で与えられる。この量はばね定数kが大きいほど大きいので、角振動数は ばね定数<math>k _1</math>を持つばねの角振動数の方がばね定数<math>k _2</math>を持つばねの角振動数 より大きくなる。また、単振動の振動数は単振動の角振動数に比例するので、 振動数についても、 ばね定数<math>k _1</math>を持つばねの振動数の方がばね定数<math>k _2</math>を 持つばねの振動数より大きくなる。一方、この場合の周期については、 :<math> T = \frac {2\pi} \omega = 2\pi \sqrt {\frac m k} </math> が成り立つため、ばね定数kが小さいほど大きくなる。よって、周期については ばね定数<math>k _2</math>を持つばねの周期の方がばね定数<math>k _1</math>を持つばねの周期 より大きくなる。 ** 問題 重力のある中に長さlのひもでつるされた物体によって作られた物体の 鉛直下向きに垂直な方向の運動が単振動となることを求めよ。 ただし、振り子の動く範囲は小さいものとする。 このように単振動をする振り子を 単振り子(たんふりこ、simple pendlum) と呼ぶことがある。 ** 解答 ひも が固定されている位置から鉛直に下ろした直線と、物体がつながれている ひも がなす角度を <math>\theta</math> とする。この場合、図形的に考えるとこの場合の水平方向の運動方程式は :<math>m a _x =- mg \sin \theta </math> となる。ここで、<math>\theta</math> が小さい場合、 :<math>\theta \sim \frac x l</math> となることに注意すると、運動方程式は :<math>a _x = -g \frac x l</math> :<math>a _x = - \frac g l x</math> となり先ほどのばねにつながれた物体の運動方程式と等しくなる。 よって、この物体の運動も単振動で記述されることが分かった。さらに、 先ほどの角振動数と比較すると、この場合の角振動数<math>\omega</math>は :<math>\omega = \sqrt{\frac g l}</math> となることが分かる。 これらの結果から[[小学校理科]]の結果である :単振り子について ::物体の重さは振り子の周期と関係しない。 ::振り子のひもの長さが長くなるにつれて、振り子の周期は長くなる。 の実験事実が運動方程式の結果と一致することが確かめられる。 = 万有引力 = この章では、万有引力による運動を扱う。万有引力は全ての物体の間に存在しているが、その力が媒介する運動として有名なものは太陽の回りを回転する地球の運動や、地球自身の回りを回転する月の運動である。実際にはこのような何かの回りを回転する構造は宇宙全体に広く見られる。 例えば、空に見られる星は[[w:恒星]]と呼ばれるが、これらの星の回りにも太陽に対する地球と同じように、惑星が回りを回っていると考えられ、実際にそのような惑星が確認された恒星もある。([[w:系外惑星]]参照。) このように宇宙の中で万有引力による回転運動は広く観測される。ここではこのような運動は物体間に働くどのような力によって記述されるかを見ていく。 * 発展: 万有引力発見の歴史 歴史的には、逆にこのような物体の間の運動を説明するような力を考えることで 物体間に働く力が発見された。歴史について詳しくは[[w:ニュートン]]などを参照。 == 万有引力の法則 == まずは、物体間に働く万有引力(glavitational constant)の法則を述べる。種々の観測の結果によると、質量<math>m_1</math>を持つ物体と質量<math>m_2</math>を持つ物体の間には :<math>F = -G \frac{m _1 m _2}{r^2}</math> で表わされる力が働く。ここでGは物体によらない定数で、'''万有引力定数'''という。 値は<math> G = 6.67 \times 10^{-11} \, {\mathrm{N}\cdot\mathrm{m}^2/\mathrm{kg}^2} </math> である。 万有引力の法則 :<math>F = -G \frac{m _1 m _2}{r^2}</math> ::F: 万有引力 ::G: 万有引力定数 ::r: 物体間の距離 万有引力は物体間の距離の2乗に逆比例する力である。 物体の少なくとも片方が惑星のように巨大な場合、物体間の距離rは、重心間の距離である。 地球の万有引力を考える。地球の質量をM、地球の半径をR、測定する物体の質量をmとした場合、重力Fは :<math>F = -G \frac{M m}{R^2}</math> となる。 これが地表近くでは大きさが mg と等しいので、 :<math>G \frac{M m}{R^2} = mg </math> 変形して :<math>G M = gR^2 </math> となる。計算問題のさい、この変形が用いられる場合がある。 ;地球の自転の影響 地球は自転をしており、重力の計算では、厳密には自転による遠心力も考える必要があるが、しかし、自転の遠心力の大きさは、万有引力の<math>\frac{1}{300}</math>倍程度しかないので、通常は自転による遠心力を無視する場合が多い。 なお、地球の自転の遠心力は、赤道上でもっとも大きくなる。 == 静止衛星 == 人工衛星が、地球の自転と同じ周期で、自転と同じ向きに等速円運動をすれば、その人工衛星は地上から見て、つねに地面の上空にあるので、地上の観測者からは静止して見える。このような人工衛星のことを'''静止衛星'''という。 ** 問題 質量mの物体が質量Mの大きな物体の回りを、万有引力の力を向心力として、半径rの円運動をしている。この場合の円運動の角速度を求めよ。 ** 解答 半径r、角速度<math>\omega</math>の円運動をする場合の物体の向心力 は :<math>- mr \omega ^2</math> である。一方、質量mと質量Mの物体の間の距離がrである場合、2つの物体間に働く重力は、重力の変数をfとすると、 :<math>f = - G\frac{mM}{r^2}</math> で与えられる。よって、これらの力が等しくなる場合に、質量mの物体は質量Mの物体のまわりを円運動で回転(公転)することができる。よって、<math>\omega</math>を求める式は、 :<math>- mr \omega^2 = - G\frac{mM}{r^2}</math> :<math>\omega = \sqrt { G\frac M{r^3} }</math> となる。 == 万有引力による位置エネルギー == 地球表面での重力による位置エネルギーを考えられるのと同様に、万有引力による位置エネルギーも考えることができる。 :※ 読者が積分を知ってることを前提に説明する。数学3の積分をまなんだほうが理解は早い。進学校などでは、積分で位置エネルギーを求めるのが実態である。 万有引力による位置エネルギーを求めるには、万有引力を積分すればいい。 質量Mの物体からrの距離に質量mの物体が存在するとする。ただし、Mはmよりはるかに 大きいとする。無限遠点を基準にすると(つまり無限遠では位置エネルギーがゼロ)、この場合、質量mの物体の位置エネルギーは :<math>U = -G \frac {mM} r</math> で与えられる。 符号にマイナスがつくことの物理的な解釈は、重力をつくりだす物体に近づくほど、その物体のつくりだす重力圏を脱出するには、エネルギーが追加的に必要になるからであると解釈できる。 無限遠では r=+∞ とすればよく、結果、 U=0 になる。 なお、万有引力は保存力であるので、位置エネルギーは、無限遠点からの経路によらず、現在の位置だけで決まる。 * 図参照 のように与えられる。また、このグラフは直観的な意味を持っている。 実は、このグラフの傾きはグラフが表わす位置エネルギーを持つ点に物体を置いた場合、 その物体が力を受ける方向とその大きさを表わしている。ここでは、 位置エネルギーの傾きが常にr=0に落ち込む方向に生じているため物体Mから距離r (rは任意の実数。)の点に静止している物体は必ずMの方向に吸い込まれて行くことを 表わしている。(詳しくは[[古典力学]]参照。) * 問題例 ** 問題 ある惑星上にある物体を宇宙の無限遠まで到達させるために宇宙船に惑星上で 与えなくてはいけない速度はどのように表わされるか。ただし、計算については 最初に宇宙船が出発した惑星以外の天体からの影響は無視するとする。 また、惑星の半径はR、 惑星の質量はMとする。 ** 解答 惑星の引力による位置エネルギーは惑星表面で :<math>- G\frac {mM} R</math> であり、無限円点では0である。ただし、mは宇宙船の質量とした。 一方、宇宙船が無限円点に達するには、宇宙船の速度が無限円点でちょうど0に 等しくなればよい。ここで、惑星上での宇宙船の速度をvとすると、 エネルギー保存則より、 :<math>\frac 1 2 m v^2 - G\frac {mM} R = 0 - 0</math> となる。よってこの式からvを求めればよい。答は、 :<math>v = \sqrt {2G\frac {M} R }</math> (答) 上記の計算から分かるように、一般に、万有引力だけを受けて運動する物体の力学的エネルギーは、 :<math>E = \frac 1 2 m v^2 - G\frac {mM} R = </math> '''一定''' である。 == 人工衛星の軌道 == === 宇宙速度 === [[画像:Newton Cannon.svg|thumb|300px|Cが第一宇宙速度の軌道。]] 仮に高い山から物体を水平に発射したとき(空気抵抗は無視する)、地球のまわりを回り続けるために必要な最小の初速度のことを'''第一宇宙速度'''という。(※ 名前は暗記しなくていい。覚えるべきは、計算方法である。) 第一宇宙速度は、要するに、遠心力と向心力がつりあうために必要な初速度である。 第一宇宙速度は、秒速では7.91 km/sである。 ;第一宇宙速度の計算 :<math> m\frac{ {v_1}^2 }{r} = G \frac{mM}{R^2}</math> v<sub>1</sub>について觧き、 :<math> v_1 = \sqrt {gR} </math> なお、およそ R = 6400 × 10<sup>3</sup> m である。 g = 9.8 m/s<sup>2</sup> である。 :<math> v_1 = \sqrt {9.8 \times 6400 \times 10^3 } = 7.9 \times 10^3\, \textrm {m/s} = 7.9 \,\textrm {km/s} </math> (答) ---- さらに初速度が大きくなると、物体は楕円軌道になる。 初速度が約11.2km/sになると、軌道は放物線になり、物体は無限の彼方に飛んでゆく。 この約11.2km/sのことを'''第二宇宙速度'''という。これは、無限遠の点で、速度が0を超える値になるために必要な初速度である。 なので、計算で第二宇宙速度を求めるにはエネルギー保存則を計算には使う。 ;第二宇宙速度の計算 :<math>\frac 1 2 m {v_2}^2 - G\frac {mM} R = 0 - 0</math> の式からvを求め、 :<math>v_2 = \sqrt {\frac {2GM} R }</math> にさらに <math> GM = gR^2 </math> を代入して、 :<math> v_2 = \sqrt { 2gR }</math> これに関係する定数を代入すればいい。 なお、およそ R = 6400 × 10<sup>3</sup> m である。 g = 9.8 m/s<sup>2</sup> である。 :<math> v_2 = \sqrt { 2 \times 9.8 \times 6400 \times 10^3 } \, \textrm {m/s} = 1.1 \times 10^4 \, \textrm {m/s}</math> (答) ---- 初速度 11.2km/s以上では、軌道は双曲線になり、物体は無限の彼方に飛んでゆく。 {{コラム|無重量状態| (上述の単元からもわかるように、)地球の周囲をまわっている人工衛星のなかで、物の重量がなくなり浮かべる理由は、重力と遠心力がつりあってるから、である。このような状態のことを'''無重量状態'''という。 世間では国際宇宙ステーションのなかで物が浮かぶ映像などが有名であるが、これも無重量状態である。 けっして、「(地表から離れて)重力が弱まったから人工衛星の中が無重力になった」のではない( 世間には、勘違いしている人も多い。とくに児童むけの科学番組などでは、説明が不十分になりがちで、視聴者の子供はこういう勘違いをしている場合が多い。読者は、高校生になったら、理解しなおす必要がある。) そもそも、もし向心力としての重力が無いのなら、衛星の軌道は円軌道ではなく、まっすぐに直線軌道になってしまい、宇宙のかなたに飛んでいっていってしまうだろう。 ただし、慣習的に、人工衛星のなかで重量がなくなる状態(無重量状態)のことも(誤解のおそれがある呼び方だが)「無重力状態」という場合も多い。厳密には「無重量状態」である。 }} ;(※ 備考) 第三宇宙速度 ※ 検定教科書では、脚注などに書いてあったりする。 地球から射出して、太陽系の外に出るために必要な最小の初速度のことを'''第三宇宙速度'''(16.7 km/s) である。 == ケプラーの法則 == ギリシャ時代から中世まで信じられてきた[[w:天動説|天動説]]({{Lang-en-short|geocentric theory}})に対し,16世紀半ばに[[w:ニコラウス・コペルニクス|コペルニクス]]は全ての[[w:惑星|惑星]]({{Lang-en-short|planet}})が太陽を中心とした円運動をしている[[w:地動説|地動説]]を提唱した。その後[[w:ティコ・ブラーエ|ティコ・ブラーエ]]は長年にわたり惑星の観測を行い,その観測結果を引継いだ[[w:ヨハネス・ケプラー|ケプラー]]はこれらの結果をもとに計算を行い,惑星の運行に関する法則,'''ケプラーの法則'''({{Lang-en-short|Kepler's laws}})を発見した。なお,教科書は太陽と惑星の関係で論じているが,他にも惑星と衛星(自然衛星,人工衛星)でも成り立つ。 ===ケプラーの第1法則=== 惑星(衛星)は太陽(惑星)を1つの焦点とする楕円運動をする('''楕円軌道の法則''')。 ===ケプラーの第2法則=== [[File:Elliptical motion of man-made satellight.png|thumb|right|640px|図 人工衛星の楕円運動]] 惑星(衛星)と太陽(惑星)を結ぶ動径が単位時間に描く面積('''面積速度''')は一定である('''面積速度一定の法則''')。 * 証明 :地球の周りを運動する人工衛星について考える。右図のように地球の中心を原点として<math>xy</math>平面をとり,地球の質量を<math>M</math>,人工衛星の質量を<math>m</math>,万有引力定数を<math>G</math>,時刻<math>t</math>における人工衛星の位置を<math>\overrightarrow r(t)=(x(t),\ y(t))</math>とおく。人工衛星の角運動量を<math>l</math>とおくと ::<math>l=m\left(x(t)\frac{dy(t)}{dt}-y(t)\frac{dx(t)}{dt}\right)</math>. ((3.1)を参照) :両辺を時間微分して ::<math>\begin{align}\frac{dl}{dt} & =m\left(\frac{dx(t)}{dt}\frac{dy(t)}{dt}+x(t)\frac{d^2y(t)}{dt^2}-\frac{dy(t)}{dt}\frac{dx(t)}{dt}-y(t)\frac{d^2x(t)}{dt^2}\right) \\ & =m\left(x(t)\frac{d^2y(t)}{dt^2}-y(t)\frac{d^2x(t)}{dt^2}\right).\cdots\cdots(*)\end{align}</math> :ここで,時刻<math>t</math>における人工衛星の運動方程式は ::<math>m\frac{d^2\overrightarrow r(t)}{dt^2}=-G\frac{Mm}{x(t)^2+y(t)^2}\Longleftrightarrow\begin{cases}m\frac{d^2x(t)}{dt^2}=-G\frac{Mm\cdot x(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}} \\ m\frac{d^2y(t)}{dt^2}=-G\frac{Mm\cdot y(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}}\end{cases}</math> ::<math>\therefore \frac{d^2x(t)}{dt^2}=-G\frac{M\cdot x(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}},\ \frac{d^2y(t)}{dt^2}=-G\frac{M\cdot y(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}}</math>. :これらを<math>(*)</math>に代入して ::<math>\frac{dl}{dt}=m\left\{x(t)\cdot\left(-G\frac{M\cdot y(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}}\right)-y(t)\cdot\left(-G\frac{M\cdot x(t)}{(x(t)^2+y(t)^2)^\frac{3}{2}}\right)\right\}=0</math>. :ゆえに角運動量<math>l</math>は一定である(角運動量は保存する)。 :ここで,時刻<math>t</math>における人工衛星の速度<math>\frac{d\overrightarrow r(t)}{dt}=\overrightarrow v(t)</math>とし,図のように人工衛星の位置ベクトル<math>\overrightarrow r(t)</math>と速度ベクトル<math>\overrightarrow v(t)</math>のなす角を<math>\theta</math>,位置ベクトル<math>\overrightarrow r(t)</math>と<math>x</math>軸とのなす角を<math>\phi</math>とする。以上より ::<math>\begin{align}\frac{l}{2m}&=\frac{1}{2}\left(x(t)\frac{dy(t)}{dt}-y(t)\frac{dx(t)}{dt}\right) \\ &=\frac{1}{2}(|\overrightarrow r(t)|\cos\phi\cdot |\overrightarrow v(t)|\sin(\theta+\phi)-|\overrightarrow r(t)|\sin\phi\cdot |\overrightarrow v(t)|\cos(\theta+\phi)) \\ & =\frac{1}{2}(|\overrightarrow r(t)||\overrightarrow v(t)|\{\sin\theta(\cos^2\phi+\sin^2\phi)+\cos\phi\cos\theta\sin\phi-\sin\phi\cos\theta\cos\phi\} \\ & =\frac{1}{2}|\overrightarrow r(t)||\overrightarrow v(t)|\sin\theta=\mathrm{const}.\end{align}</math> (<math>\mathrm{const}.</math>は一定の意味) ===ケプラーの第3法則=== 惑星(衛星)の公転周期<math>T</math>の2乗は楕円軌道の長半径(半長軸)<math>a</math>の3乗に比例する('''調和の法則''')。 :<math>\frac{T^2}{a^3}=\mathrm{const}.</math> *証明 まずは、公転軌道が真円である場合を考える。 :恒星の質量をM、惑星の質量をm、公転半径をaとする。 :惑星は恒星の周りを等速円運動するので、角速度をω、万有引力定数をGとすると、万有引力の法則と円運動方程式より ::<math>m a \omega^2 = G \frac{Mm}{a^2}</math> ::<math>\therefore \omega = \sqrt{\frac{GM}{a^3}}</math> :この等速円運動の周期Tを求めると、 ::<math>T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi \sqrt{\frac{a^3}{GM}}</math> :両辺の平方をとると、 ::<math>T^2 = 4\pi^2 \frac{a^3}{GM}</math> ::<math>\therefore \frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{GM} = \mathrm{const}.</math>// 次に、公転軌道が楕円である場合を考える。 :恒星の質量をM、惑星の質量をm、楕円の短半径をa、長半径をb、恒星から近日点・遠日点迄の距離をそれぞれ<math>R_1, R_2</math>とする。 :この楕円の面積は<math>\pi ab</math>であり([[高等学校数学III/積分法#面積|参照]])、楕円の面積速度を<math>V_s</math>、公転周期を<math>T</math>とすると面積速度の定義より ::<math>V_s T = \pi ab</math> :惑星が<math>r = R_1, R_2</math>の位置にいるときの速度をそれぞれ<math>\vec{v_1}, \vec{v_2}</math>とすると ::<math>\vec{v_1} \cdot \vec{R_1} = 0, \vec{v_2} \cdot \vec{R_2} = 0</math> :よってケプラーの第二法則より ::<math>\frac{1}{2} R_1 v_1 = \frac{1}{2} R_2 v_2</math> ::<math>\therefore \frac{v_2}{v_1} = \frac{R_1}{R_2}</math> :また、万有引力定数をGとすると力学的エネルギー保存則より ::<math>\frac{1}{2} m v^2_1 - G\frac{Mm}{R_1} = \frac{1}{2} m v^2_2 - G\frac{Mm}{R_2}</math> ::<math>\therefore \frac{1}{2}v^2_1 \{1 - (\frac{v_2}{v_1})^2\} = \frac{GM}{R_1} (1 - \frac{R_1}{R_2})</math> ::<math>\therefore \frac{1}{2} v^2_1 \{1 - (\frac{R_1}{R_2})^2\} = \frac{GM}{R_1} (1-\frac{R_1}{R_2})</math> ::<math>\therefore \frac{1}{2} v^2_1 (1+\frac{R_1}{R_2}) = \frac{GM}{R_1}</math> ::<math>\therefore v_1 = \sqrt{\frac{2R_2GM}{R_1(R_1+R_2)}}</math> :面積速度について、 ::<math>V_s = \frac{1}{2} R_1 v_1 = \sqrt{\frac{R_1R_2GM}{2(R_1+R_2)}}</math> :ケプラーの第一法則より恒星は楕円の焦点の片方に存在するので、 ::<math>R_1+R_2 = 2a, b = \sqrt{R_1R_2}</math> ::<math>\therefore V_s = b\sqrt{\frac{GM}{4a}}</math> ::<math>\therefore b\sqrt{\frac{GM}{4a}} T = \pi ab</math> ::<math>\therefore \frac{GMT^2}{4a} = \pi^2 a^2</math> ::<math>\therefore \frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{GM} = \mathrm{const}</math>.// 楕円の場合でも、真円と同じ<math>T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} a^3</math>という結果が得られた。 ちなみに、楕円において短半径aは焦点からの平均距離に等しいので、第三法則は「惑星の公転周期の2乗は太陽からの平均距離の3乗に比例する」とも言い換えられる。 [[Category:高等学校教育|物ふつり2ちからとうんとう]] [[Category:物理学|高ふつり2ちからとうんとう]] [[Category:物理学教育|高ふつり2ちからとうんとう]] [[Category:高等学校理科 物理II|ちからとうんとう]]
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