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線型代数学/線型空間
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{{ナビゲーション|本=[[線型代数学]]|前ページ=[[線型代数学/クラメルの公式|クラメルの公式]]|ページ名=線型空間|次ページ=[[線型代数学/線形写像|線形写像]]}} == はじめに == 「線型代数学」という教程では、実数体、あるいは複素数体上の行列や線型方程式などの具体的な対象を扱うことが主である。しかし、実は線型代数学という分野はその範囲にとどまるものではなく、一般の体上においてより一般的な議論を行うことが可能である。そしてその一般論は、より抽象的な数学を学ぶ上での基礎の基礎となるものである。 この項目では、そのような一般の体上の線型空間に関する一般論を述べる。 == 線型空間の定義 == === 線型空間の公理 === 以下、特に断りなければ<math>K</math>を体(field)とする。一般の体をよく知らない場合には、<math>K</math>を<math>\mathbb{R},\mathbb{C}</math>などに読み替えても概ね差し支えない。 一般の体<math>K</math>上の'''線型空間'''(linear space)またはベクトル空間とは、次の公理を満たすような集合(set)のことである。 '''公理''' <math>K</math>を体、<math>V</math>を集合とする。<math>V</math>の元どうしの演算「+」と、<math>V</math>の元に対する<math>K</math>の元によるスカラー倍「・」が定められていて、次の条件のすべてを満たすとき、<math>V</math>は<math>K</math>の上の線型空間であるという。 # <math>\forall x,y,z \in V \ (x+y)+z=x+(y+z)</math> (加法の結合律) # <math>\forall x,y \in V \ x+y=y+x</math> (加法の可換律) # <math>\exists 0 \in V \forall x \in V \ x+0=x</math> (加法単位元の存在) # <math>\forall x \in V \exists y \in V \ x+y=0</math> (加法逆元の存在) # <math>\forall a,b \in K,\forall x,y \in V \ a \cdot (x+y)=a \cdot x+a \cdot y</math> (加法に対するスカラー乗法の分配律) # <math>\forall a,b \in K,\forall x,y \in V (a+b) \cdot x =a \cdot x + b \cdot x</math> (体の加法に対するスカラー乗法の分配律) # <math>\forall a,b \in K,\forall x,y \in V (ab) \cdot x=a \cdot (bx)</math> (体の乗法とスカラー乗法の両立条件) # <math> 1 \cdot x = x</math>(スカラー乗法の単位元の存在) これを線型空間の公理という。<math>V</math>の元をベクトルという。公理3の「0」を<math>V</math>の零元という。公理4の<math>y</math>は「<math>-x</math>」と書き、これを<math>x</math>の逆元という。以下、特に断りなければこの本の中では<math>K</math>は体、<math>V</math>は<math>K</math>線型空間であると約束する。 公理から出発するのは抽象的で少しわかりにくいかもしれないが、公理だけから議論をはじめると、この公理を満たすものすべてについて同時に議論することができ、便利である。しかしもちろんこの公理を満たすような具体的な集合にはどのようなものがあるかを知ることも重要である。いくつか例を挙げる。 '''例''' <math>K^n</math>は通常の演算によって<math>K</math>線型空間である。特に、<math>n</math>次元ユークリッド空間<math>\mathbb{R}^n</math>は<math>\mathbb{R}</math>線型空間である。 '''例''' <math>K</math>係数の多項式の集合<math>K[X]</math>は通常の演算によって<math>K</math>線型空間である。 '''例''' 実数上の無限回微分可能な実数値関数全体の集合<math>C^\infty(\mathbb{R})</math>は<math>\mathbb{R}</math>線型空間である。 '''例''' <math>\mathbb{R}</math>は<math>\mathbb{Q}</math>線型空間である。より一般に、体の拡大<math>L/K</math>があるとき、<math>L</math>は<math>K</math>線型空間である。 '''問''' 上に挙げた例が線型空間の公理を満たすことを確かめよ。 '''定義''' <math>v_1,v_2,\cdots,v_n \in V, a_1,a_2,\cdots,a_n \in K</math>とするとき。 :<math>\sum_{i=1}^{n} a_i v_i = a_1 v_1 + a_2 v_2 + \cdots + a_n v_n</math>を<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>の'''線形結合'''(linear combination)または一次結合という。 '''定義''' ベクトル<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>に対して、<math>a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_n \mathbf v_n = \mathbf 0</math>を満たす<math>a_1,a_2,\cdots,a_n \in K</math>が<math>a_1 = a_2 = \cdots = a_n = 0</math>以外、存在しないとき、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>は'''線形独立'''(linearly independent)または一次独立であるという。 :ベクトル<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>が線形独立でないとき、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>は'''線形従属'''(linearly dependent)または一次従属であるという。 [[File:Vec-indep.png|thumb|right|<math>\R^3</math>における線形独立なベクトルの例]] [[FIle:Vec-dep.png|thumb|right|<math>\R^3</math>における線形従属なベクトルの例]] '''定義''' <math>K</math>上のベクトル空間<math>V</math>の部分集合<math>S = \{ v_1,v_2, \cdots , v_n \}</math>に対し、 :<math> \langle S \rangle = \{ \sum_{i=1}^n a_i v_i | a_i \in K \}</math>を<math>S</math>が<math>K</math>上で生成する部分空間といい、<math>S</math>をこの部分空間の'''生成系'''という。 '''命題''' <math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n\in V</math>が線形独立であることと、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1}</math>が線形独立かつ、<math>\mathbf v_{n} \notin \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math>であることは同値である。 '''証明''' まずは、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n\in V</math>が線形独立ならば、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1}</math>が線形独立かつ、<math>\mathbf v_{n} \notin \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math>であることを示す。 :<math>a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_{n-1} \mathbf v_{n-1} = 0</math>とする。このとき、<math>a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_{n-1} \mathbf v_{n-1} + 0 \cdot \mathbf v_n = 0</math>である。<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n\in V</math>が線形独立なので、<math>a_1 = a_2 = \cdots = a_{n-1} = 0</math>である。よって、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1}</math>は線形独立である。 :<math>\mathbf v_{n} \in \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math>と仮定すると、<math>\mathbf v_{n} = a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a _{n-1} \mathbf v_{n-1} </math>と表すことができる。移項して、<math>a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a _{n-1} \mathbf v_{n-1} - \mathbf v_n = 0</math>となる。<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>は線形独立なので、各係数は0になるはずだが、<math>\mathbf v_n</math>の係数は-1なので矛盾。よって<math>\mathbf v_{n} \notin \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math> :次に、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1}</math>が線形独立かつ、<math>\mathbf v_{n} \notin \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math>ならば、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>は線形独立であることを示す。 :<math>a_1 \mathbf v_1 + \cdots + a_n \mathbf v_n = 0</math>とする。<math>a_n \neq 0</math>と仮定すると、<math>\mathbf v_n = - \frac{a_1}{a_n} \mathbf v_1 - \cdots - \frac{a_{n-1}}{a_n} \mathbf v_{n-1}</math>となるが、<math>\mathbf v_{n} \notin \langle \mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1} \rangle</math>なので、矛盾。よって<math>a_n = 0</math>であるから、<math>a_1 \mathbf v_1 + \cdots + a_{n-1} \mathbf v_{n-1} = 0</math>となるが、<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_{n-1}</math>は線形独立なので、<math>a_1 = a_2 = \cdots = a_{n-1} = 0</math>となる。よって<math>\mathbf v_1,\mathbf v_2,\cdots,\mathbf v_n</math>は線形独立。// === 基底と次元 === 少し具体的な線型空間について考察してみる。<math>\mathbb{R}^3</math>において、次の3本のベクトルの組は特別な意味を持っている。 :<math>e_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 0\\ \end{pmatrix},e_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0\\ \end{pmatrix},e_3=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1\\ \end{pmatrix}</math> 特別とはどういうことかといえば、<math>\mathbb{R}^3</math>の任意のベクトルxは、みなこのベクトルのスカラー倍によって :<math>x=a_1 e_1 + a_2 e_2 + a_3 e_3</math> と表すことができ、またこの表し方は一意的ということである。 一般の線型空間においてもこのようなベクトルの組があれば便利である。そのようなものがあるとき、このベクトルの組に特別な名前をつけよう。 '''定義''' <math>x_1,x_2,\dots,x_n</math>を<math>V</math>の元の組とする。<math>V</math>の任意の元<math>x</math>に対し、<math>x = a_1 x_1 + a_2 x_2 + \cdots + a_n x_n</math>となる<math>K</math>の元の組<math>a_1,a_2,\cdots,a_n</math>が一意に存在するとき、<math>x_1,x_2,\dots,x_n</math>は<math>V</math>の'''基底'''(basis)であるという。 注意すべきなのは、基底は一つの線型空間に対し一組とは限らないということである。たとえば、先ほどの<math>e_1,e_2,e_3</math>も<math>\mathbb{R}^3</math>の基底であるが、一方 :<math>e'_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0\\ \end{pmatrix},e'_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1\\ \end{pmatrix},e'_3=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1\\ \end{pmatrix}</math> も<math>\mathbb{R}^3</math>の基底である。 '''命題''' <math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が<math>V</math>の基底であることと、<math>V = \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>かつ<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が線形独立であることは同値である。 '''証明''' まずは、<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が<math>V</math>の基底であるなら、<math>V = \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>かつ<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が線形独立であることを証明する。 :<math>\langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle \subset V</math>は明らかである。<math>w \in V</math>を任意にとると、<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が<math>V</math>の基底であることから、<math>a_1, \cdots, a_n \in K</math>をつかって<math>w=a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_n \mathbf v_n</math>と表すことができるので、<math>w \in \langle v_1,v_2, \cdots,v_n \rangle</math>である。よって、<math>V \subset \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>であるから、<math>V = \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>である。 :<math>a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_n \mathbf v_n = 0</math>とする。このとき、両辺を2倍すると<math>2 a_1 \mathbf v_1 + 2 a_2 \mathbf v_2 + \cdots + 2 a_n \mathbf v_n = 0</math>となるが、<math>a_1=a_2=\cdots=a_n=0</math>が成り立たないと仮定すると<math>a_1 \ne 2a_1,a_2 \ne 2a_2,\cdots,a_n \ne 2a_n</math>のうちのいずれかは成り立つ。これは<math>v_1, v_2, \cdots, v_n</math>が<math>V</math>の基底であることに反するので、<math>a_1 = a_2= \cdots = a_n = 0</math>である。よって、<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>は線形独立である。 :次に、<math>V = \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>かつ<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が線形独立ならば<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が<math>V</math>の基底であることを証明する。 :<math>V = \langle v_1,v_2,\cdots,v_n \rangle</math>のとき、任意の<math>w \in V</math>は<math>w = a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_n \mathbf v_n</math>と表せる。<math>w = a_1 \mathbf v_1 + a_2 \mathbf v_2 + \cdots + a_n \mathbf v_n = b_1 \mathbf v_1 + b_2 \mathbf v_2 + \cdots + b_n \mathbf v_n</math>と表すことができるとすると、<math>( a_1 - b_1 ) \mathbf v_1 + ( a_2 - b_2 ) \mathbf v_2 + \cdots + (a_n - b_n ) \mathbf v_n = 0</math>となる。ところが、<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>は線形独立なので、<math>(a_1 - b_1 ) = \cdots = (a_n - b_n ) = 0</math>である。よって<math>a_1 = b_1 , \cdots , a_n=b_n</math>となり、表し方は一意であることが分かった。すなわち、<math>v_1,v_2,\cdots,v_n</math>が<math>V</math>の基底である。// '''命題''' <math>x_1,x_2,\dots,x_n</math>と<math>y_1,y_2,\dots,y_{n'}</math>を<math>V</math>の基底とすると、<math>n=n'</math> <!--- '''証明''' <math></math> ---> つまり、(もし基底が存在すれば)基底の元の数は一定である。言い換えると、基底の元の数は各線形空間に固有の数値である。そこで、この数に名前をつけることにする。 '''定義''' <math>x_1,x_2,\dots,x_n</math>という<math>V</math>の基底が存在するとき、<math>n</math>を<math>V</math>の'''次元'''(dimension)といい<math>\dim V</math>であらわす。このとき<math>V</math>は<math>n</math>次元<math>K</math>線型空間であるという。 自然数<math>n=\dim V</math>が存在するとき、<math>V</math>は有限次元であるという。そのような<math>n</math>が存在しないときは、<math>V</math>は無限次元であるといい。<math>\dim V = \infty</math>と書く。なお、線型空間<math>\{ \mathbf 0 \}</math>の次元は、<math>\dim \{ \mathbf 0 \} = 0</math>であるとする。 実は、無限次元線型空間には無限個の元からなる基底が存在することが知られている。例えば、上で例としてあげた線型空間は最初の<math>K^n</math>以外は無限次元の線型空間であるが、<math>K[X]</math>には<math>1,X,X_2,X_3,\cdots</math>という基底がある。<math>C^\infty(\mathbb{R})</math>の基底や<math>\mathbb{R}</math>の<math>\mathbb{Q}</math>上の基底はここまで簡単に書き表すことはできないが、存在することは知られている。 === 部分空間 === 線型空間の部分集合がまた線型空間になっていることがある。そのとき、この部分集合を線型部分空間(あるいは単に部分空間)という。正確に書けば以下のとおりである。 '''定義''' <math>W \subset V</math>が次の性質を満たすとき、<math>W</math>は<math>V</math>の'''線型部分空間'''(linear subspace)であるという。 # <math>\forall x,y \in W \ x+y \in W</math> # <math>\forall a \in K,\forall x \in W \ ax \in W</math> # <math>0 \in W</math> 公理3は一見すると公理2から導かれるように見えるが、そうではない。なぜならば、空集合は公理1,2を満たすが、公理3を満たさない。公理3は空集合は部分空間と呼ばないようにするための公理である。 '''命題''' <math>V</math>を線型空間、<math>W</math>を<math>V</math>の線型部分空間とするとき、<math>\dim V \ge \dim W</math> == 線型写像 == === 線型写像の定義 === 近代的な数学は、ある性質を満たす集合と、その集合たちの間の写像(mapping)とを調べることを基礎として発展してきた。ここでも、線型空間から線型空間への写像について調べてみる。先ほどと同様にして、どのような写像を調べる対象とするか、公理的に与える。 線形写像(linear mapping)を以下のように定義する。 '''定義''' <math>V</math>,<math>W</math>を体<math>K</math>における<math>K</math>線型空間とする。写像<math>f:V \to W</math>が次の性質を満たすとき、<math>f</math>は<math>K</math>線型写像であるという。 # <math>\forall x,y \in V \ f(x+y)=f(x)+f(y)</math> # <math>\forall a \in K \forall x \in V \ f(ax)=af(x)</math> 少し例を見てみよう。 '''例''' Aをm×n行列とする。<math>f_A:K^n \to K^m ;x \mapsto Ax</math>は線型写像である。 '''例''' <math>f_0:K[X] \to K ; P(X) \mapsto P(0)</math>は線型写像である。 '''例''' <math>d:C^\infty(\mathbb{R}) \to C^\infty(\mathbb{R}) ; f \mapsto f'</math>(微分)は線型写像である。 '''問''' これらが線形写像であることを確かめよ。 === kerとim === [[File:KerIm 2015Joz L2.png|thumb|線形写像''L''の核と像|346x346px]] <math>V</math>から<math>W</math>への線型写像があるとき、その写像に付随して自然に<math>V</math>の部分空間と<math>W</math>の部分空間が定まる。それがここで挙げるkerとimである。 '''定義''' <math>f:V \to W</math>を線型写像とする。 :<math>\ker f = \{ x \in V | f(x)=0 \}</math>を<math>f</math>の'''核'''(kernel)という。これは<math>V</math>の部分空間である。 :<math>\operatorname{im} f=\{f(x) \in W | x \in V \}</math>を<math>f</math>の'''像'''(image)という。これは<math>W</math>の部分空間である。<math>\dim (\operatorname{im} f)</math>を<math>f</math>の'''階数'''(rank)といい、<math>\operatorname{rank} f</math>であらわす。 すぐにわかることとして、まず<math>f</math>が全射(surjection)であるということは、<math>f</math>の像が<math>W</math>と一致することと同値である。また、線型写像が単射(injection)であることは、核が0のほかに元を持たないことと同値である。 '''命題''' 線型写像<math>f:V \to W</math>が単射<math>\Leftrightarrow \ker f = \{0\}</math> :(証明) :<math>\ker f</math>に0でない元<math>y</math>があると仮定すると、<math>f(0)=0</math>かつ<math>f(y)=0</math>であり、<math>f</math>は単射でない。 :逆に、<math>\ker f=\{0\}</math>と仮定する。<math>f(x)=f(x')</math>とすると<math>f(x)-f(x')=0</math>であり、<math>f</math>は線型写像なので<math>f(x-x')=0</math>である。<math>\ker f=\{0\}</math>と仮定したので<math>x-x'=0</math>、すなわち<math>x=x'</math>である。よって<math>f</math>は単射である。□ === 行列表示 === 有限次元線型空間の間の線型写像は、基底をとることにより、有限サイズの行列によって表示することができる。つまり、有限次元線型空間の間の線型写像について調べることは、先ほど例として最初にあげたベクトルの行列倍という線型写像を調べることに帰着できる。 まず、線型写像は基底の行き先を決めることによって決まることを示しておく。 '''命題''' <math>V</math>,<math>W</math>を<math>K</math>線型空間とし、<math>x_1,x_1,\dots,x_n</math>を<math>V</math>の基底、<math>y_1,y_2,\dots,y_n</math>を<math>W</math>の元とする。このとき、線型写像<math>f:V \to W</math>であって、<math>f(x_i)=y_i \ (1 \le \forall i \le n)</math>を満たすものが唯ひとつ存在する。 :(証明) :<math>V</math>の任意の元は<math>a_1,a_2,\dots,a_n \in K</math>を用いて<math>a_1 x_1+a_2 x_2+\dots+a_n x_n</math>と一意に表せる。ここで写像<math>f:V \to W</math>を ::<math>f(a_1 x_1+a_2 x_2+\dots+a_n x_n)=a_1 y_1+a_2 y_2+\dots+a_n y_n</math> :で定めれば、確かに条件を満たす線型写像となっている。逆に、<math>f:V \to W</math>が条件を満たす線型写像であるとすると、線型写像の公理から ::<math>f(a_1 x_1+a_2 x_2+\dots+a_n x_n)=a_1 f(x_1)+a_2 f(x_2)+\dots+a_n f(x_n)=a_1 y_1+a_2 y_2+\dots+a_n y_n</math> :となって、先の写像と一致する。□ この命題によって、次のような行列と線型写像とが1対1に対応することがわかる。 '''定義''' <math>V</math>,<math>W</math>を<math>K</math>線型空間とし、<math>x_1,x_2,\dots,x_n</math>を<math>V</math>の基底、<math>y_1,y_1,\dots,y_m</math>を<math>W</math>の基底とする。線型写像<math>f:V \to W</math>が ::<math>f(x_j)=a_{1j} y_1+a_{2j} y_2+\dots+a_{mj} y_m \ (1 \le \forall i \le n)</math> :を満たすとき、行列<math>A=(a_{ij})</math>を<math>f</math>の行列表示という。 == 和空間と共通部分 == <math>V_1,V_2\in V</math>を部分空間とする。このとき、<math>V_1 + V_2 = \{ x_1 + x_2 | x_1 \in V_1 , x_2 \in V_2 \}</math>を<math>V_1</math>と<math>V_2</math>の和空間という。<math>V_1 \cap V_2 = \{ x | x\in V_1, x\in V_2 \}</math>を<math>V_1</math>と<math>V_2</math>の共通部分という。 == 双対空間 == === 双対空間の定義 === 線型写像の集合もまた線型空間となる。ここではそのような線型空間を扱うことにする。 '''定義''' <math>K</math>上のベクトル空間<math>V</math>から<math>K</math>への線型写像の全体<math>V^* = \{ f:V \to K |f</math>は線形写像<math>\}</math>は次の加法とスカラー倍により線型空間となる。 :<math> \begin{align} & (f + g)(x) = f(x) + g(x) \\ & (af)(x) = a\cdot f(x) \end{align}\quad (f,g \in V^*, x \in V, a \in K) </math> <math>V^*</math>を<math>V</math>の'''双対空間'''(dual space)という。 双対空間はもとの空間に付随して自然に定まる線型空間である。ゆえに、下で見るように<math>V</math>の性質をかなり受け継いでいる。 === 双対基底 === <math>V</math>の基底をひとつ定めると、その基底に付随して<math>V^*</math>にも自然に基底が定まる。 '''命題''' <math>x_1,\dots,x_n</math>をVの基底とすると、<math>i=1,\dots,n</math>に対して :<math>f_i(x_j)=\delta_{ij}</math>(クロネッカーのデルタ) を満たすような<math>f_i \in V^*</math>が一意的に存在し、<math>f_1,\dots,f_n</math>は<math>V^*</math>の基底となる。 このようにして定まる<math>V^*</math>の基底を<math>x_1,\dots,x_n</math>の'''双対基底'''(dual basis)と呼ぶ。 === 双対写像 === <math>V</math>から<math>W</math>への線型写像があるとき、この写像に付随して<math>W^*</math>から<math>V^*</math>への線型写像が定まる。(向きが逆になっていることに注意) '''命題''' <math>f:V \to W</math>を線型写像とする。写像<math>f^* : W^* \to V^* ; g \mapsto g \circ f</math>は線型写像である。 このようにして定まる写像を<math>f</math>の'''双対写像'''(dual mapping)と呼ぶ。 == 商空間 == 線型空間をその部分空間で「割る」ことによって新たな線型空間を作ることができる。これを商空間という。具体的には、次のような同値関係を考え、これで元の線型空間を割った商集合に対して線型空間としての構造を入れることにする。同値関係とそれで割った商集合については[[集合論]]に記載があるのでここでは繰り返さない。 ''' 定義 ''' <math>V</math>を<math>K</math>線型空間、<math>W</math>をその部分空間とする。このとき、<math>V</math>上の同値関係「~」を次で定め、この関係によって割った商集合<math>V/{\sim}</math>を<math>V/W</math>と書く。 :<math>x \sim y \Leftrightarrow x-y \in W</math> '''問''' この関係「~」が同値関係であることを確かめよ。 関係「~」が同値関係であることが確かめられれば、晴れて<math>V/W</math>は集合として正当化されたことになる。この商集合への標準的な全射による<math>x \in V</math>の像を<math>x+W \in V/W</math>と書くことにする。標準的な全射が全射であることから、<math>V/W</math>の任意の元はある<math>V</math>の元<math>x</math>を用いて<math>x+W</math>とあらわせることを注意しておく。 次にこの集合に線型空間の構造を与えたい。そのためには、この集合の元同士の「足し算」と、<math>K</math>の元をかける「スカラー倍」の定義を与えればよい。もっとも安直に考えるならば、 :<math> (x+W)+(y+W):=(x+y)+W \ (x,y \in V)</math> :<math> a(x+W):=ax+W \ (a \in K,x \in V)</math> としたいところである。実際このようにするのであるが、ここでひとつ注意しなければならないのは、この演算が「定義になっている」かどうかである(きちんと定義になっていることをしばしば「well-definedである」という。定着した日本語訳は残念ながら存在しない)。どういうことかというと、次のことを確かめなければならない。 :<math> x+W=x'+W,y+W=y'+W \Rightarrow (x+W)+(y+W)=(x'+W)+y'+W,a(x+W)=a(x'+W)</math> 今までわれわれが知っていた演算については、これは当たり前の事実である。しかし、われわれは今新しい演算を定義しようとしているのであるから、この新しい演算が「まともな」定義であることを確かめなければならない。このことに注意する必要がある。これは特に今の場合に限らず商集合になんらかの構造を入れようとするときには必ず気をつけなければならないことである。 well-definedであることを確かめなければならないということはなかなか理解しがたいかもしれないが、実際にwell-definedであることを確かめるのは容易であるので読者に任せる。 '''問''' 上で定義した演算がwell-definedであることを確かめよ。 :(ヒント:示すべきことをもっと直接的に書き下せば、<math>x-x' \in W , y-y' \in W \Rightarrow (x+y)-(x'+y') \in W , ax-ax' \in W</math>である) '''問''' この演算によって<math>V/W</math>が<math>K</math>線型空間になっていることを確かめよ。 '''問''' 標準的な全射<math>V \to V/W</math>は線型写像であることを示せ。 === 商空間の基底 === 双対空間においては、元の空間の基底に対応した基底を自然に取ることができた。商空間においても、ある意味で同様のことができる。 '''命題''' <math>V</math>を有限次元線型空間、<math>W</math>をその部分空間とし、<math>x_1,...,x_m</math>は<math>V</math>の基底であり、しかもそのうち最初の<math>n</math>個<math>x_1,...,x_n</math>は<math>W</math>の基底であるとする。このとき、<math>x_{n+1}+W,...,x_m +W</math>は<math>V/W</math>の基底。 :(証明) :<math>\bar{x} \in V/W</math>を任意に取る。<math>\bar{x}=(a_1 x_1+...+a_m x_m)+W</math>とかける。このとき、<math>V/W</math>の定義から ::<math>\bar{x}=(a_{n+1}x_{n+1}+...+a_m x_m)+W=a_{n+1}(x_{n+1}+W)+...+a_m(x_m+W)</math> :と表示できる。あとはこの表示の一意性を言えばよい。<math>a_{n+1}(x_{n+1}+W)+...+a_m(x_m+W)=a'_{n+1}(x_{n+1}+W)+...+a'_m(x_m+W)</math>とすると、<math>(a_{n+1}-a'_{n+1})x_{n+1} + ... +(a_m-a'_m)x_m \in W</math>。これより<math>a_{n+1}-a'_{n+1}=...=a_m-a'_m=0 \ \square</math> '''系''' <math>\dim V/W = \dim V - \dim W</math> === 商空間と線型写像 === 線型写像<math>f:V \to W</math>があるとき、そのkernelは<math>V</math>の部分空間だったので、割った商空間<math>V/\ker f</math>を考えることができる。ここではこの商空間と元の線型写像とについて調べる。 '''補題''' V,Wを線型空間、<math>f:V \to W</math>を線型写像とする。このとき、<math>\bar{f}(x+\ker f)=f(x)</math>として写像<math>\bar{f}:V/\ker f \to im f</math>を定めるとこれはwell-defined。 :(証明)<math>x+\ker f=x'+\ker f \Rightarrow f(x)=f(x')</math>を示せばよい。<math>x+\ker f=x'+\ker f</math>とはすなわち<math>x-x' \in \ker f</math>のことなので、f(x-x')=0。すなわちf(x)-f(x')=0である。 <math>\square</math> '''定理'''(準同型定理) 上で定めた<math>\bar{f}:V/\ker f \to im f</math>は同型。 :(証明) 全射性は自明なので単射性を示す。<math>\bar{f}(x+\ker f)=0</math>とすると、f(x)=0なので、<math>x \in \ker f</math>。すなわち商空間<math>V/\ker f</math>において<math>x+\ker f=0+\ker f</math>である。これは<math>\ker \bar{f}=0</math>ということに他ならず、したがって<math>\bar{f}</math>は単射である。 <math>\square</math> '''系''' (次元定理) <math>V</math>,<math>W</math>が有限次元線型空間のとき、 :<math>\dim V=\dim(\ker f)+\mathrm{rank} f</math> {{ナビゲーション|本=[[線型代数学]]|前ページ=[[線型代数学/クラメルの公式|クラメルの公式]]|ページ名=線型空間|次ページ=[[線型代数学/線形写像|線形写像]]}} [[Category:線形代数学|せんけいくうかん]]
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